山林切り裂きメガソーラー(下) 不透明な事業主体、FIT認定「まるで売買」2025年11月19日
鴨川メガソーラーには、不適切な山林開発や水汚染の懸念などいくつもの問題が出ている。いったいどんな事業者が進めているのか。国や県による認可や監督は十分機能しているだろうのか。
許可条件違反で工事一時中止に
10月28日、千葉県の現地調査で、森林法にもとづく許可条件違反の伐採を確認した。AS社らが、残すこととされている森林(残置森林)まで1.5haも伐採していたのである。県はAS社に対し、工事の一時中止と復旧措置計画書の提出を指導した。AS社は10月29日、「県庁との立ち合い時に一部誤伐採が確認されたため、今後の作業手順の確認と復旧工事計画作成の為工事を一時中止いたします」とし、「今後は施工会社とのコミュニケーションをより丁寧に行い同様なことがないよう十分注意してまいります」とホームページに掲載した。熊谷俊人知事は翌30日の記者会見で、同社の許可条件違反を「まことに遺憾」とし、「指導に従わない場合は中止命令などの行政処分が可能になる」と説明した。
許可条件に違反して工事一時中止を指導された事業者の実態が見えにくい点も、住民の不安を増幅している。
元の「親会社」は会社更生法の適用申請
鴨川メガソーラー工事現場への入り口には林地開発許可の標識と通行止めの看板があった。
施工者が最近変わったため、紙が貼られている。
現在の施工者は石川県の池田建設工業で、その前に施工者だった坪井建設工業は10月14日、理由は不明だが工事から降りた。以前、「親会社」的立ち位置にいた中川企画建設は、資金繰りが行き詰まって10月9日、大阪地方裁判所に会社更生法の適用を申請した。負債総額は約222億円。東京商工リサーチによると、近年はメガソーラー事業に注力し、SPC(特別目的会社)を通じて大規模メガソーラーの新規工事を請け負ってきたが、工事費用が先にかかる一方で回収は遅く、資金繰りが徐々に悪化。一部の工事トラブルや災害による追加工事なども発生したとされる。
SPCは、収益を生む特定の事業だけを切り離して資金調達などを行うもので、鴨川メガソーラーでは、出資者と経営者とが同じ合同会社が使われた。登記簿を取ると、AS鴨川ソーラーパワー合同会社(資本金30万円)にはCES千葉合同会社(資本金50万円)が、CES千葉にはCEISIEC(サイズイク)合同会社(資本金8000万円)が、CEISIECにはNSC一般社団法人が出資したことがわかる。
2023年時点では、CEISIECの「代表社員」が中川企画建設となっていた(東京新聞電子版2023年5月9日)ので、同社からNSCに出資者が変わったように見える。中川企画建設が退いた後、誰が出資者となったのか、登記からはわからない。
出資者の登記上の住所を訪ねると
鴨川メガソーラー事業会社など会社関係図
出所:登記簿をもとに編集部作成。住所は商業登記簿記載のもので、必ずしも実際の所在地とは限らない。
工事現場へ至る林道の入口に設置された林地開発許可の標識に記載されたAS社の電話番号に電話し、伐採木の安全性確保、固化材を使用しているか、メガソーラー完成までの資金調達について質問したが、回答が得られなかった。民放テレビの取材によると、AS社の所在地にある建物内には家具や事務用品はないという(ANA「グッド!モーニング」10月4日放送)。
CES千葉合同会社の登記上の住所(東京都中央区)を訪ねると、ビルに入ってすぐに掲げられたプレートに同社の社名はなかった。代わりに「8(階)CEISIEC」「7 株式会社E T」「6 Mジャパン 株式会社N」の表示があった。
このうち、E、T、Mジャパンの3社はCEISIEC社の「関連会社」にあたる。E社は再生可能エネルギーのトータルサプライヤーである。Tは太陽光発電の設計から完工までの包括サービスを提供する。Mジャパンは遠隔監視システム大手M(ドイツ)の日本法人で太陽光発電のコンサルティングにも注力している。3社の業務内容はメガソーラーと親和性がある。
次に、CEISIEC合同会社とNSC一般社団法人の登記上の住所にあるJR東京駅に近い高層ビルを訪ねた。登記簿ではそのビルの20階にあるはずだが、1階壁にある入居者を一覧表示したプレートに両社の名前は見当たらなかった。CEISIEC合同会社は先に訪ねた中央区銀座のビルで業務をしている模様だが、私たちの取材の範囲では、NSC一般社団法人はどこで何をしているか確認できなかった。
AS社、CES千葉、CEISIEC社、NSC一般社団法人すべての登記簿に「職務執行者」と記載されているのが税理士のH氏だ。事業の実態が見えにくいSPC運営において、職務執行者は、形式上経営実務を担う役割とされる。H氏の事務所には何度か電話したが誰も出ず、東京都内の事務所に平日出向いたが留守だった。インタフォンの上にH氏の苗字がローマ字表記されたプレートがあったが、「税理士事務所」などの表示は見当たらなかった。
許可条件違反の伐採 資源エネ庁も「大変遺憾」
事業の不透明感は「FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)認定が売買される」かにも見える経過にもある。
千葉県森林課は「県はAS社を通じ、森林開発に要する資金調達を確認した。メガソーラーがきちんと完成し運営されるかどうかは、県の所管ではなく国のFIT認定の方の話になると思う」とする。資源エネルギー庁によれば、FIT認定では、ソーラーパネル等を設置する土地の使用権限と電気を売る先との接続契約を見る。事業継続の基盤となる事業者の資力や技術、実績は特に見ていない。国の省庁、また国と地方とで分かれた権限の中、鴨川メガソーラー事業がきちんと成り立ち地域と共生できるかについて、行政によるチェックにはいくつかの穴がある。
資源エネルギー庁新エネルギー課の担当者は「鴨川の事例での許可条件違反(残置林伐採)は大変遺憾で、事業者に対し改めて法令遵守を求めた」とし、こう説明した。
「2024年度から、事業譲渡等で事業者や密接関係先が変わる場合、地元での事前の説明会実施を変更認定の要件としたが、鴨川のケースはその前に変更された。長期に未稼働だと認定が失効する規定など順次ルールを整え、すでに8万件の認定が失効した」
山林や湿原の大規模開発はFITの趣旨にそぐうか
大規模な山林開発を伴うメガソーラーが問われている(鴨川の山と川と海を守る会提供)
11月7日、衆議院予算委員会で、釧路を含む北海道7区選出の鈴木貴子議員(自民党)がメガソーラー問題を質問した。釧路では、メガソーラーによる湿原開発が問題化している。
メガソーラーの問題点と自治体による規制の限界にふれた鈴木議員が「時代の要請に応じて国がしっかりルールを作っていく。事前の開発許可制の厳格化であるとか、実効性ある規制強化が待ったなしだ」と迫ると、高市早苗首相は「再生可能エネルギーについては地域との共生を図りながら導入を進める必要がある。全国各地でメガソーラー建設によって森林伐採、環境破壊が起きたり災害リスクなどの懸念がみられている。政府としては安全、景観、自然環境などに関係する規制の総点検を行い、不適切なメガソーラーを法的に規制する施策を実行していく」と答弁、規制を強めていく姿勢を示した。
鴨川メガソーラーは認可時期が早いため、36円/kWhの固定価格で電力を買い取られる。市民が払う電気料金でメガソーラー事業者は利益を上げることになるが、FITは、再生可能エネルギーの利用を促進し地球環境を守るためにある。山林や湿原を広範囲に開発してソーラーパネルを設置する行為がその趣旨にそぐうとは考え難い。資源エネルギー庁新エネルギー課も「地域との共生が再生エネルギー推進の前提なので、資源エネルギー庁としては、山林をどんどん切り拓いてメガソーラーを作っていくべきだとは考えていない」と話す。
FIT認定が長期休止後、実態の見えにくいSPCを介して事実上「売買」されることで、長狭米の水源も含め環境保全や防災への不安を招いている。各種規制を厳格に運用するのはもちろん、制度の趣旨に立ち返り、地域の環境を大きく損なうようなメガソーラー事業へのFIT認定を見直すことも必要ではないだろうか。
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