山林切り裂きメガソーラー(上) 農漁業への影響にも懸念 千葉県鴨川市2025年11月19日
再生エネルギーを生み出す大規模太陽光発電施設(メガソーラー)の建設が各地で問題になっている。焦点は環境や防災、地域理解で、事業者の実態が見えにくいこともある。千葉県の指導で工事が一時中止した鴨川市のメガソーラー建設を取材した。同事業をめぐっては、11月18日、県が設置した有識者会議が初会合を開いた。
鴨川メガソーラーの事業区域(千葉県鴨川市)では木々が多数伐採され斜面に置かれている。ドローンで撮影。
鴨川山と川と海を守る会提供。
林地開発許可後、事業主体が変更し着工
鴨川メガソーラーを進めるのは「AS鴨川ソーラーパワー合同会社」(鴨川市)で、鴨川市田原地区、旧鴨川有料道路西側の山林にある「事業区域」250haのうち146haを開発し(それ以外のエリアには森林を残す)、出力100メガワット(MW)のメガソーラーを建設する。
2014年度に国から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の認定を受け、2019年に県から森林法にもとづく林地開発許可を得た。その後、約4年間の休止期間を経て、3年前に事業譲渡により事業主体の実質が変更された(表向きの事業者はAS社のまま)。FITとは、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間、固定価格で買い取ることを国が保証する制度である。
事業者は、鴨川市との協議に応じないまま、盛土規制法が施行される10日前の5月14日「工事に着手」した。熱海土石流事故などを経て強化された規制をかいくぐった形だ。
9月23日、地域住民の団体「鴨川の山と川と海を守る会」が事業区域の西側からドローンを飛ばし、空から現場を撮影した。多くの伐採木が谷に倒されていることが写真からわかった。
山を削って谷を埋める
工事によって木が伐採された山の「尾根」。
事業区域は標高が43m~265mに及び、山と谷とがくっきり分かれる急峻な丘だ。現在の工事では、防災のための「調整池」を作るため、山のピークを結ぶ尾根(稜線)上の木を伐り土砂を削って重機が通れる道を作っている。最終的には、36万本の樹木を伐採し、最大60mの山を削り(切土)、最大80mの谷を埋める(盛土)。土砂移動量は1300万㎥に及ぶ。山を削って谷を埋め平地を造成してパネルを敷き詰める巨大開発なのである。
11月初旬、現場を訪ねた。旧市清掃センターから銘川沿いに紅葉の林道を進むと、林地開発許可の標識と「通行止め」の看板が立っていた。事業区域に西側から入る通行路への入り口だが、関係者以外、その先には入れない。少し戻り、小高い丘に登ると工事によって木がなくなった山肌が望めた。「痛々しいですよ」。案内してくれた、鴨川の山と川と海を守る会事務局の川口訓平さんが語った。
千葉県森林課は「AS社は、伐採木を谷に落としたのではなく、調整池を作るため、斜面の木を伐採しその場に置いているようだ。安全対策を指導し、事業者は谷の下に木柵を設置した」と説明するが、台風などの際、斜面の木が安定しているのか心配は拭えない。
長狭米育む恵みの水
田んぼの水源にもなっている銘川。この上流でメガソーラー開発が進む。
事業区域の下には田んぼが広がる。鴨川市は、北に清澄山系、南に嶺岡山系がそびえる。間をほぼ西から東に加茂川が流れ、両岸に長狭(ながさ)平野が広がる。長狭平野で栽培されるブランド米が、粘りがあって甘みが強くもっちりした食感の「長狭米」だ。
鴨川市の米農家・川木さんは「この地域は、本当に自然に恵まれているから、嶺岡山系、愛宕山の恩恵で美味しいお米ができていると感じています」と話す(JAグループ千葉ホームページ「笑顔を育む『ちば』のお米」)。川木さんの言う「山の恩恵」の象徴がミネラル豊富な水である。
固化材の成分が水に溶け出す懸念
山と川と海を守る会の川口さんは、「メガソーラーの工事では固化材の利用が疑われています。前の施工業者の時に提出された施工計画書にはジオセットを使うと記載されていました」。ジオセットはセメント系固化材で、軟弱土・建設発生土の改良、汚泥の固化処理などに広く用いられている。施工計画書の「オンサイト」(ソーラーパネルの下に水を溜める防災施設)の項には「環境対応型の固化材(ジオセット2000)にて、改良(添加量80kg/㎥・層厚50㎝)を行い設計数値(qu=100kN/㎡)以上を確認し施工を行う。(......事前に、六価クロムの試験を行い溶出量の確認後、使用する添加量を設定する)」との記載がある。川口さんは、「ジオセットには六価クロムも含まれており、そうした化学物質がもし川に染み出せば、長狭米を育む水がどうなるか心配です」と顔をしかめた。
鴨川メガソーラーに関して千葉県は「鴨川市内における大規模太陽光発電施設計画に関する有識者会議」を設置し、11月18日、第1回会議を開いた。会議後、座長に就いた釜井俊孝京都大学名誉教授は報道陣に「非常に大規模な計画で、空港を造る規模に匹敵する。それを短期間に行うということで、工程的な管理が難しい印象を持った」と工事の困難さに言及した(「房日新聞」11月19日付)。有識者会議は次回、現地視察を行う。熊谷知事は現在は停止している本体工事再開の判断も含め、有識者会議で出た意見を行政指導に反映する考えを示している。
住民の不安が募る背景には、鴨川市との協議にきちんと応じないなど、事業者の説明不足がある。いったいどんな事業者がメガソーラーを進めているのか。
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