農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(99)課税強化で農地は動くのか?2015年9月14日
8月25日、自民党農林水産戦略調査会等に農水省が説明した「平成28年度税制改革要望(案)」には、全部で30項目、ダブリを除くと23項目の税制改正要望事項がならんでいたが、そのトップに据えられていたのが農地中間管理機構関連の項目だった。
◆大問題の課税強化要請
"第1農業の構造改革の推進"と題されてだが、
1 農地中間管理機構への貸付けなど農地の効率化及び高度化の促進を図るための農地の保有にかかる課税の強化・軽減等の措置(固定資産税等)
2 農地中間管理機構への貸付けを促進するための農地の贈与税納税猶予打切要件の見直し(贈与税、不動産取得税)
3 農地中間管理機構が農用地等を取得した場合の所有権移転登記の税率の軽減措置(2%→1%)の2年延長(登録免許税) 」の3項目である。
2、3はいいとして、1は大問題であろう。税制改革要望は通常税の減免措置の要望であり、農水省の今回の要望も1を除いては減免に関する要望だが、1には異例なことに"課税の強化"が含まれているからである。
この農水省案は、6月30日に閣議決定された「改訂日本再生戦略」が中間管理機構の"機能強化のために取り組むべき事項"の1つに"遊休農地等に係る課税の強化・軽減等"をあげていたのを受けてつくられたものだが、「再生戦略」のその意見も、規制改革会議の6・16答申が"保有コストの低さが農地を効果的・効率的に利用する意思がないにもかかわらず、保有を続けることを可能とし、転用期待による遊休農地の発生を助長している"(6・24付農業共済新聞)とし、課税強化で中間管理機構への農地貸し出しを促そうとの提案を受けてつくられた意見だった。が、こんなやり方で機構に農地は集まるだろうか。
◆機構に信頼があるのか
"農地バンク初年度実績 目標達成率は二割"。これは5/29付全国農業新聞の見出しだが、各紙とも似たような表現で機構の初年度実績が低かったことを報道した。
農水省発表では、過去1年間の担い手への集積増加面積は62934ha、うち機構経由7352haだ。結構農地は動いている。機構に集まらないだけなのである。問題はそこにある。
集まらないのは機構が信頼されていないからであり、信頼されるためには、現場との密接な関係構築が必要だが、それが今の機構には欠けているのではないか。機構の活動実績を発表した資料の中に、機構の活動状況に関して行なった市町村アンケートの結果が示されていたが、その中に「貴市町村における各地域の人と農地の状況や人・農地プランの作成・見直しの状況について、機構はこれらを十分把握して活動していると考えますか」という設問があった。その設問に76%の市町村が"いいえ"と答えている。これは重要な意味を持つ。
中間管理機構は最初は市町村でつくる"人・農地プランを法律に位置づける方向で検討"されていたが、規制改革会議の反対で一旦取止めになる。が、それはよくないと国会で問題になり、"農地管理事業の利用等に関する事項について、定期的に、農業者その他の...関係者による協議の結果を取りまとめ、公表するものとする"という第26条が国会修正で入ったし、15項目にわたる附帯決議の真先に"人・農地プランの内容を尊重して事業を行うこととすること"が置かれていた。が、76%の市町村が"いいえ"と答えているということは、これまでの活動が国会修正で入った第26条及び付帯意見を無視している機構が圧倒的に多い、ということを意味する。機構の"機能強化のために取り組むべき事項"は、"課税の強化"などではなく、まずは100%の市町村が"はい"と答えてくれるようにすることだろう。
◆貸そうにも借り手が...
農水省の「耕作放棄地対策に関する意向及び実態把握調査結果」(14・2・1現在)によると"荒廃農地が多く発生している農地は、「中山間農地・谷津田」「ほ場整備未実施農地」がそれぞれ68%と最も多く、条件が悪いほ場で多く発生している"(全国農業新聞15・7・17)という。条件が悪く自分は作れないし、貸そうと思っても借り手もいないところだから荒れてしまっているところが多いのである。そして中間管理機構法第8条3項は"農用地等として利用することが著しく困難であるものを対象に含まないこと"を都道府県知事の農地中間管理事業規定「認可」要件にしている。
課税を強化して機構に借りてくれと申込ませるようにしようという遊休農地等は、機構法がそんな農地は事業の"対象"にするなとしている農地が多いのである。貸したくても借り手がいない農地への"課税の強化"は、遊休地所有者に過重負担を生じさせるだけで、"農地の効率化及び高度化の促進"にはならない。国会の附帯決議の最後は"産業競争力会議・規制改革会議等の意見については参考にするにとどめ"るだったことを農水省は忘れたのだろうか。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(168)食料・農業・農村基本計画(10)世界の食料需給のひっ迫2025年11月15日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(85)炭酸水素塩【防除学習帖】第324回2025年11月15日 -
農薬の正しい使い方(58)害虫防除の考え方【今さら聞けない営農情報】第324回2025年11月15日 -
【地域を診る】「地方創生」が見当たらない?! 新首相の所信表明 「国」栄えて山河枯れる 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年11月14日 -
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】コメを守るということは、文化と共同体、そして国の独立を守ること2025年11月14日 -
(461)小麦・コメ・トウモロコシの覇権争い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月14日 -
根本凪が農福連携の現場で制作「藍染手ぬぐい」数量限定で販売 JAタウン2025年11月14日 -
北陸初出店「みのる食堂 金沢フォーラス店」29日に新規オープン JA全農2025年11月14日 -
農協牛乳を使ったオリジナルカクテル「ミルクカクテルフェア」日比谷Barで開催2025年11月14日 -
宮城県産米の魅力を発信「#Teamみやぎ米キャンペーン」開催 JAグループ宮城2025年11月14日 -
農林中金とSBI新生銀行が業務提携へ 基本合意書を締結2025年11月14日 -
創立60周年となる通常総会開催 全農薬2025年11月14日 -
米による「農業リサイクルループ」を拡大 JR東日本グループ2025年11月14日 -
食と農をつなぐアワード「食品アクセスの確保」部門で農水大臣賞 セカンドハーベスト・ジャパン2025年11月14日 -
「有機農業の日/オーガニックデイ」記念イベント開催 次代の農と食をつくる会2025年11月14日 -
「11月29日はノウフクの日」記念イベント開催 日本農福連携協会2025年11月14日 -
スマート農業で野菜のサプライチェーンを考える 鳥取大で12月19日にセミナー開催 北大スマート農業教育拠点2025年11月14日 -
農泊・農村ツーリズム「農たび・北海道ネットワーク研修会」開催2025年11月14日 -
農地のGHG排出量を推定・算出 営農改善を支援する技術で特許を取得 サグリ2025年11月14日 -
農機具王 農業インフルエンサー「米助」と協業開始 リンク2025年11月14日


































