農政:ヘッドライン
農林予算 減額県 7割超す【梶井 功・東京農工大元学長 名誉教授】2017年3月18日
農業振興策に四苦八苦
都市近郊では予算増も
都道府県の農水予算は財政全体に緊縮予算が求められるなかで、多くの県で減額が余儀なくされている。ただし、都府県によっては増額しているところや、重点的な振興策や工夫を凝らした予算もある。梶井功東京農工大名誉教授に分析してもらった。
◆予算総額の増は8県
3月6日付の日本農業新聞一面の「農水減額 35道府県に」という記事には、すっかり考え込んでしまった。
「知事選のため骨格予算を組んだ秋田、千葉を除く45道府県のうち35道府県が、農林水産予算を16年度から減らした。予算総額を増やしたのは8県だけで、緊縮財政の中で農林水産予算の確保も難しくなっている。」(日本農業新聞3月6日)
と同紙は総括していたが、表示されている各県の農林水産予算案を見ると前年比20%減の奈良県がある反面で11.2%増の神奈川県があるというように一様ではない。ちょっと分析してみようと思い、農林水産予算対前年増減率と府県予算対前年増減率の相関図を作ってみた。
各県の取り組みの違いが相関図にはよく出ていると思う。

一見して府県予算も農水予算も共に減少している県が圧倒的に多いこと、逆に熊本県(43)―数字は表の番号―が両者共に増加している例外的な位置にあることがわかる。県予算前年比16.3%増は、それに次ぐのが佐賀県(41)の0.5%増だというのとくらべ格段の高さであることに注意すべきだろう。熊本のこの特異性は震災復旧との関係からだろうか。
府県予算、農水予算それぞれの増減率を組み合わせると、(A)府県予算、農水予算の両者とも増、(B)府県予算は減ったが農水予算は増、(C)府県予算は増えたが農水予算は減、(D)府県予算・農水予算ともに減だが、府県予算減少率のほうが高い(D1)、農水予算減少率のほうが高い(D2)の5類型にわけることができる。各類型に属する県名を記した表を掲げておこう。
表のPDFはこちらから
(A)類型に入っているのは熊本県以外には鳥取県だけだが、鳥取県の県予算増加率は0・1%でしかないから、実質的には(B)類型と同じと考えてもいいだろう。
◆求められる都市農業振興
その(B)類型には、埼玉県(11)、東京都(13)、神奈川県(14)、兵庫県(28)といった大都市圏を形成している都県が入っている。都県予算を減らさざるを得ない"緊縮財政の中"でも、これらの(B)類型の都県は農水予算を増やしているのである。地域の農業振興に特に熱意を持っている県と評価できよう。 東京、神奈川、兵庫といった都県で、都県予算を減らしながら農水予算を増やしたのには、都市農業振興基本法の施行が影響していると考えていいかもしれない。基本法に基づく都市農業振興基本計画が閣議決定されたのが去年の5月であり、これを受けて各都県は法の規定する地方計画を策定したであろうが、市町村段階での地方計画策定はこれからである。各地域の実情にあった都市農業振興の具体的実践的計画策定が求められているのだが、もともと、やがては宅地化すべき土地として市街化区域に入れられた農地を、都市農業振興基本法は都市に本来あるべき農地にし、その振興策の樹立を義務づけているのだから、その具体的な計画づくりは容易なことではない。(B)類型各都県は県予算減の中で農水予算を増やさざるを得なかったとみていいのではないか。
◆官邸主導を跳ね返せ
問題なのは府県予算も農水予算も共に前年比減となった(D)類型の諸県である。福島県(7)、新潟県(15)、北海道(1)、青森県(2)、岩手県(3)、秋田県(4)、山形県(6)、宮城県(5)、茨城県(8)、千葉県(12)、長野県(20)、富山県(16)、静岡県(21)、宮崎県(45)、鹿児島県(46)等、北から南まで農業県といわれる県はほとんどこの(D)類型に入っている。 (D)類型の中でも府県予算減少率より農水予算減少率のほうが低い福島県、新潟県などの(D1)類型諸県は、さすがに農業県だけに頑張ったとみていいのかもしれないが、府県農業予算よりはるかに高い比率で農水予算を減少させた(D2)類型府県が圧倒的に多いことがやはり問題だろう。"緊縮財政の中で農林水産予算の確保もむずかしくなった"典型を(D2)類型諸県にみていいのもしれない。
が、(D2)類型諸県も頑張っていることを、日本農業新聞は解説で伝えている。例えば、"生産調整見直しをにらんだ動き"として"北海道は直播...栽培に向く品種開発...。秋田県は大規模化に対応した生産技術や情報発信技術(ICT)の実証...。青森県は「青天の霹靂」の高品質生産...販売促進...。福井県は「ポストこしひかり」の18年産からの本格生産・販売へPR活動を展開。...京都府は「京のプレミアム系」創造事業を予算化"を紹介している。
こうした都道府県の農業振興の取り組みが、少数"担い手"重視、日本農業縮小後退是認に傾きつつある官邸主導農政を反省させることを期待したい。
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