農政:農は国の宝なり
【農は国の宝なり】第3回 讃岐うどん発祥の地で「ソバ」生産 その心は2019年7月30日
香川県綾川町前田武俊町長に聞く
聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長
今回は香川県綾歌郡綾川町の前田武俊町長へのインタビューを紹介します。
当町は、香川県のほぼ中央に位置し、高松市、丸亀市、坂出市、そしてまんのう町に接しています。2006(平成18)年3月に、綾上町と綾南町が合併して誕生しました。総面積109.75平方km人口2万4111人(2019年6月末現在)。
気温格差の大きいことが穀類作物の登熟作用に好影響を与えており、県下の水稲、麦類の種子の生産地です。また、野菜(イチゴ、キュウリ)は主に京阪神に、ブドウは四国各県、柿は京阪神や一部首都圏の各市場に出荷されています。
前田武俊綾川町町長
◆ソバ生産による耕作放棄地の解消と地域特産物づくり
小松 うどん県のそれも讃岐うどん発祥の地とされている当町が、ソバの生産に力を入れておられますが。
前田 ご心配なく、美味しいうどん屋さんもたくさんありますから(笑)。高齢化や後継者不足により荒れた農地を町が借り受けて、そこでソバなどを作って、耕作放棄地の解消と新たな地域特産物をつくろうと考えたわけです。
小松 その経過や、特産化への流れを教えてください。
前田 本町も農家の高齢化や兼業化が進み、1995年に64haだった耕作放棄地が、2010年には177haと3倍近くになりました。これに不作付地も合わせるとさらに膨らむわけです。そこで、2004年から合併前の綾南町が音頭を取って、旧JA綾歌南部を交えて協議を始めました。そこでの成果が、06年に町とJAが出資して設立した綾歌南部農業振興公社です。
小松 公社が取り組んだのがソバ栽培ですか。
前田 そうです。公社では、町内の農家が作付けしていない農地を借りて、町から派遣されている職員らで、比較的栽培のしやすいソバや、大豆、ナタネなどをつくっています。現在では約20haで耕作しています。私が経済課長の時にはじめました。先進地を視察し品種を決め、農作業もし、ソバ打ちまでしました。
小松 すごいですね。公社の取り組みは評価されているでしょうね。
前田 委託農家は80人を超えています。「農地が荒れ、雑草や虫害でご近所さんに迷惑をかける心配がなくなった」「公社には安心して任せられる」といった声が聞こえて来ます。安心感からか、農家の耕作意欲も増し、再度自分で耕作される人も出てきています。
小松 販売への流れはどうなっているんですか。
前田 収穫された約3.5tのソバは、本場長野県の業者に送って石臼で製粉してもらい、道の駅などで販売しています。また12月から3月にかけての日曜日に、公社直営店舗で「しっぽくそば」として販売しています。
◆農業は大切、大事にしていこう
県内1、2を争うイチゴ産地
小松 他にも、多様な農畜産物がありますよね。
前田 農業は町の基幹産業です。通算8期勤められた藤井賢前町長はいつも、「農業は大切、大事にしていこう」と言われていました。私もそのお考えを引き継いでいます。
まずは産地形成です。地域のブランド米「おいでまい」、イチゴ、アスパラガス、ブドウにカキ、そして各種畜産などです。とくにイチゴは、半世紀を掛けて県内で一、二を争う産地になりました。後継者も育っています。後継者に恵まれないハウスは、町内の農家や近隣の市町からの入作者に引き継がれています。
集落営農の法人化も進めています。現在11法人あります。若者たちや外国人就農者を受け入れて規模拡大しているところも出ています。
さらに忘れてはならないのが、基盤整備です。2017(平成29)年度末の数字ですが、圃場整備率は51.4%です。県平均は38.1%です。現在も2カ所で整備中です。営農環境の整備であるとともに、多面的機能を発揮するための環境整備でもあります。特に、防災、減災という効果が期待されています。
◆「住まいるあやがわ」をめざして
「住まいるあやがわ」の風景
小松 2017(平成29)年3月に策定された、綾川町第2次総合振興計画書の表紙には、幼稚園児たちの明るい笑顔と、「いいひと いいまち いい笑顔 住まいるあやがわ」の言葉が書かれていますが。
前田 人口減少の抑制に向けて動いています。まずは「子育て支援の充実」です。若い世代の方々に、「子育てするなら綾川町」と思っていただきたい。そのため、365日保育を実施しています。それから、カギっ子を無くすために、小学生を対象に「放課後児童クラブ」を開設しています。
また、乱開発を防ぎ秩序ある都市開発をめざす町の姿勢をご理解いただくために、土地の出し手や開発業者を助成しています。
小松 買い物弱者対策にも着手されるようですが。
前田 今年の秋から、町商工会と町内にある「イオンリテール」の参画を得て中山間地域での移動スーパー事業を始めます。「イオンリテール」にとっては西日本初の試みとのことです。
小松 多方面からの取り組みですね。
前田 この町に住んで良かったと思っていただくためには、総合的な取り組みが不可欠なんですよ。大変ですけどね(笑)。
◆JAは近くて遠い存在だが、そのスケールと歴史に期待する
小松 農業協同組合とのつながりと、今後に向けた期待をお聞かせください。
前田 先ほど紹介した「しっぽくそば」は、当初からJA女性部の参画によって運営されています。行政とJAの範囲が同じだったから、あうんの呼吸でできたわけです。残念ながら、1県1JAになってからは、近くて遠い存在となりつつあります。しかし、農業や地域の問題を考える上では、可能な限り協調していかないといけません。1県1JAというスケールは、ツボにはまるとすごい力を発揮できるはずです。大いに期待しています。
いろいろ批判もあるようですが、長年培ってきたものに自信を持って協同の力を発揮していただければと思っています。
小松 近くて遠い存在のJAを近くに引き寄せ、綾川町が発展されることを願っています。
ブロッコリー畑
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【シリーズ・農は国の宝なり】聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長
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