農政:農水省政策プロジェクトリーダー
農林水産省 出倉功一大臣官房参事官に聞く【災害等のリスクに強い農業プロジェクト】2020年7月27日
新たな基本計画では農業経営を安定させる収入保険制度や経営所得安定対策などを着実に推進するとしているが、同時に多発する自然災害もふまえ総合的なセーフティネット対策についても「災害等のリスクに強い農業プロジェクト」を設置して検討することにしている。今回はプロジェクトリーダーの出倉功一参事官に検討状況などを聞いた。
セーフティネット対策を検証
BCP策定など日頃から「備え」の意識を
農林水産省 出倉功一大臣官房参事官--「災害等のリスクに強い農業プロジェクト」の設置の背景とどんなことを検討しているのかから聞かせてください。
本年3月に閣議決定された基本計画では、平成31年1月からスタートした収入保険について農業保険法のなかで施行後4年を目途に制度の在り方等を検討すると規定されていることをふまえ、関連施策全体の検証を行う「災害等のリスクに強い農業プロジェクト」を設置するとされています。
このプロジェクトでは、米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)や野菜価格安定制度などを含め収入減少を補てんする関連政策全体の検証を行い、それを踏まえ総合的かつ効果的な経営安定対策の在り方を、施行後4年に当たる令和4年を目途に検討していくこととしています。
チームの構成は収入保険担当課である保険課が事務局を務め、関連施策全体を見渡して検討することになっていますので、ナラシ対策を担当している政策統括官の担当課、野菜価格安定制度を担当している生産局園芸作物課、い草や酪農など収入減少を補てんする関連施策の担当課など幅広いメンバーで議論をしています。
まずは、収入減少に関連するそれぞれの政策について個々に検証し、その結果をふまえて、農業経営にとってどのようなセーフティネット対策が効果的か検討することとしています。したがって、それぞれの担当課で現状、成果と課題をしっかり検証してもらうことにしています。そのうえで、それらを持ち寄ってプロジェクトチームとして検討することになります。年内を目途に検証し、来年以降、様々な関係者とも意見交換をしながら整理していき、令和4年までに検討結果を示すことを想定しています。
また、本プロジェクトではセーフティネット対策について検討することに加え、より効果的なセーフティネット対策となるよう、災害等のリスクの低減につながる農業者が取り組む「備え」という観点での施策も検討したいと考えています。
--その「備え」についてはどういう視点で検討するのですか。
災害に対する対応は、自助と共助が基本になると考えています。私たちは、農業者の皆さんの自助、共助の取組をサポートすることが役割と考えています。災害による農作物被害をできる限り小さくする「備え」の取組を農業者の皆さんの自助と共助で行うことと、それを行っても発生する可能性のある収穫量の減少や収入減少に備えて公助によるセーフティネット対策に加入することは、農業経営における車の両輪です。
このため、農業者の皆さんの自助、共助の取組をサポートするため何をすることが必要か検討していきたいと考えています。
現場の声もお聞きしながら、農業者の皆さんが「備える」ことができるような仕組みを提示できればと考えています。たとえば、災害に関する情報や、作付けにあたっての情報の提供のあり方など、それをどうすれば農業者が活用できるかといった観点での検討です。また、農業は、たくさんの農業経営が集まって産地をつくっています。個々の農業経営がリスクをふまえた経営を考えるだけでなく、産地として考えることも重要です。野菜の場合はまさにそうだと思いますが、それぞれの経営だけでなく産地全体でリスクを共有し、それに対してみんなでどう対処するかということを考えることも重要です。
農業者や産地が行う「備え」の取組として、BCP(事業継続計画)の普及方策についても検討したいと考えています。農業の現場では、まだBCP策定はそれほど進んでいませんが、備えるという観点では重要であり、農業者のみなさんにBCPの必要性について考えてもらう手助けができないかといった検討です。被害が起きたときにどう対応するかということが決まっていれば、経済的な被害も縮小できますから、BCPの作成も含めて備えることをしっかりやることが大事だと思います。
BCPの普及策の具体的な検討については、7月に農業経営者の方にも参加してもらい勉強会を立ち上げました。この中では、まずは、自らの経営の状況をみて、経営の中で自然災害の影響を受けやすい業務、その損害、それを最小限に抑えるために日頃からどういう準備をしていくか、というようなことからはじめ、農業者、産地が取り組みやすい仕組みについて検討したいと考えています。
この災害への「備え」の取組については、米、麦・大豆、野菜、果樹、畜産などの品目別にもさまざまな施策が講じられています。災害は毎年発生しており、できるものから現場に推進していくことが必要です。必要な対策については来年度予算などでも検討していくことにしています。
--「災害等のリスクに強い農業」という意味では、いわゆる気候変動に対応した農業技術もテーマになるのでしょうか。
広い意味ではそれも守備範囲だと思います。このプロジェクトには農業環境対策課もメンバーになっていますから、生産者にどういう情報を、どのように提供していくかなどこのプロジェクトのなかでも検討していきたいと思います。
--2年目を迎えた収入保険についてはどんな課題がありますか。
農業者への周知がまだまだ不十分ではないかという指摘があります。さらに一層丁寧に周知を進めていくことが必要だと考えています。そこで今年度からは、地域において農業共済組合、地方公共団体、JA、集荷業者、農業会議、法人協会などの関係団体が推進協議会を設置して、一体となって収入保険の周知と加入促進活動を行うことにしています。農業者と日々接しているJAのご協力にも期待しています。リスクをふまえて自らで「備える」という意識が必要だということについて、収入保険の周知などを通じ、いろいろな機会で取り組んでいかなければならないと思っています。
また、自然災害が多発している中で、農業共済の対象とならない野菜生産者の方からは、野菜価格安定制度と収入保険とに同時に加入したいという声も多く聞いています。このため、来年1月からの収入保険の加入にあたっては、野菜価格安定制度との同時加入の特例を講じることにしています。これについての産地や農業者等への周知等については、産地部会を中心にJAのご協力をいただきたいと思います。なお、この特例の検証結果等についても、令和4年の収入保険の見直しにいかしていく考えです。
--コロナ禍をふまえると、当初からのセーフティネットの議論に何か変化があるのでしょうか。
今般のコロナ禍で、農業経営者の間において収入保険に対する認知と、今回のような需要の喪失、販売不振で収入が大幅に減少する場合に、収入保険が有用な仕組みであるという意識が高まっていると感じています。関心が高まっている時にしっかりと収入保険の仕組みを説明し、理解をしてもらい、その上でそれぞれの経営で加入の必要性を判断してもらうようにすることが大事だと思っています。また、今後の検討にあたっては、今回のコロナ禍による農業経営への影響も十分検証、分析し、プロジェクトチームに与えられているテーマである総合的かつ効果的な経営安定対策の在り方について検討していきたいと考えています。
(7月28日付で文化庁出向・審議官へ)
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