農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(2) 外交評論家 孫崎享氏2022年3月15日
ロシアのウクライナへの侵攻で、多数の犠牲者が出る深刻な事態が続き、穀物市場で小麦などの価格が急上昇している。ロシアの真の狙いは何か、侵攻にいたるまでにどんな背景があったのか。外交評論家の孫崎享さんに寄稿してもらった。
(14日の(1)から続く)
外交評論家の孫崎享氏
実は米国における著名な安全保障の専門家は、NATOの東方拡大に警告を発してきたのである。3月4日、「指導的専門家はNATOの拡大は紛争に導くと警告。何故誰も耳を傾けなかったのか」という論評がインターネットに掲載された。ここではケナン、キッシンジャー等の大御所の見解が紹介されている。ケナンはアメリカの冷戦外交の基本方針である「封じ込め」政策の提言者として知られている。キッシンジャーは戦後の米国外交で最も重要な役割を展開した人物である。
ケナンは1990年代のNATOの中欧への拡張は「冷戦後の時代全体におけるアメリカの政策の最も致命的な誤り」で、「NATOの拡大は米露関係を深く傷つけ、ロシアがパートナーになることはなく、敵であり続けるだろう」と警告した。キシンジャーは「ウクライナはNATOに加盟すべきではない」「ウクライナを東西対立の一部として扱うことは、ロシアと西側、特にロシアと欧州を協力的な国際システムに引き込むための見通しを何十年も頓挫させるだろう」と主張した。
また、1987 年から 1991年にかけて駐ソ・米国大使を務めたマトロック氏は「私はそこにいた( I was there)という論評の中で「同盟の拡大というものがなかったら今日の危機はなかった」「NATOの拡大こそが最大の誤り」と述べている。.
しばしば日本国内では、「侵略をしたロシアを糾弾することが最重要である。何故そうなったかの様な論は歴史家に任せればいい」という指摘がされるが違うと思う。何故そうなったかの解明こそ事態の収拾への最大の近道だ。
私は①ウクライナにNATOを拡大しない、②ウクライナ東部地域には住民の自決権を与える(字数の関係でこの問題は割愛する)ことを、NATO、ウクライナ、ロシアで合意を取りつけば事態の収拾が出来るとみている。
ただ、これまでの流れを見ていると、恐ろしいことではあるが、米国はウクライナの長期戦を意図しているのでないかと思う。ワシントンポストはキエフ陥落時、①ポーランドなどに亡命政権を樹立する、②ウクライナでの戦闘を継続し、これにNATO等が武器、人員時派遣で支援することが協議されていると報じられた。
かつてアイゼンハワー大統領が離任において「軍産複合体がアメリカ国民の利益に反する行動をとらないか警戒していく必要がある」と警告を発したが、いままさにその段階に入っているのでないか。
冒頭で芸術家等にロシア批判を行わせようとする圧力が加わり、それを受け入れない者は排除する動きを示している。国際関係で言えば、ロシアを敵とする大包囲網を形成し、ロシアに対峙していこうとする戦略が展開されるのではないか。
かつての冷戦時代と異なるピースが一つある。それは中国だ。中国も様々な国際メカニズムを利用し対ロ包囲網に組み入れられるのか、すでに対中圧力は起こっている。あるいは中国がこの包囲網をかいくぐり、経済での対米優位をますます強化していくのか、これが今後の大きい焦点である。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(171)食料・農業・農村基本計画(13)輸出国から我が国への輸送の状況2025年12月6日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(88)ジチオカーバメート(求電子剤)【防除学習帖】第327回2025年12月6日 -
農薬の正しい使い方(61)変温動物の防除法と上手な農薬の使い方【今さら聞けない営農情報】第327回2025年12月6日 -
スーパーの米価 前週から23円上昇し5kg4335円 過去最高値を更新2025年12月5日 -
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(2) 【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】『タコ市理論』は経済政策使命の決定的違反行為だ 積極財政で弱者犠牲に2025年12月5日 -
食を日本の稼ぎの柱に 農水省が戦略本部を設置2025年12月5日 -
JAの販売品販売高7.7%増加 2024年度総合JA決算概況2025年12月5日 -
ポテトチップからも残留農薬 輸入米に続き検出 国会で追及2025年12月5日 -
生産者補給金 再生産と将来投資が可能な単価水準を JAグループ畜酪要請2025年12月5日 -
第3回「食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会」開催 農水省2025年12月5日 -
新感覚&新食感スイーツ「長崎カステリーヌ」農水省「FOODSHIFTセレクション」でW入賞2025年12月5日 -
(464)「ローカル」・「ローカリティ」・「テロワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月5日 -
【スマート農業の風】(20)スマート農業を活用したJAのデジタル管理2025年12月5日 -
「もっともっとノウフク2025」応援フェア 農福連携食材を日替わりで提供 JA共済連2025年12月5日 -
若手職員が"将来のあるべき姿"を検討、経営層と意見交換 JA共済連2025年12月5日 -
IT資産の処分業務支援サービス「CIRCULIT」開始 JA三井リースアセット2025年12月5日 -
「KSAS Marketplace」に人材インフラ企業「YUIME」の特定技能人材派遣サービスのコンテンツを掲載 クボタ2025年12月5日 -
剪定界の第一人者マルコ・シモニット氏が来日「第5回JVAシンポジウム特別講演」開催2025年12月5日 -
野菜との出会いや季節の移ろいを楽しむ「食生活に寄り添うアプリ」リリース 坂ノ途中2025年12月5日


































