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特集:TPP重大局面

2013.03.12 
【TPP 重大局面】韓米FTA 発効から1年の現状  韓国・弁護士 宋基昊(ソン・ギホ)氏一覧へ

・「カー・オブザイヤー」に初の輸入車
・エコカー支援も挫折?
・63の法律や施行規則を改正
・国内企業がISDを活用?
・「米」の例外は一時的か

 安倍首相は2月28日の衆参両院の施政方針演説で「TPPについては『聖域なき関税撤廃』は前提でないことをオバマ大統領と直接会談し確認した」と述べたうえで「今後、政府の責任で交渉参加について判断する」との姿勢を示し交渉参加表明に前のめりの姿勢を変えていない。
 一方、自民党は総裁の直属機関として外交・経済連携推進本部を位置づけ、その下にTPP対策委員会を設置。3月6日から議論を開始し、13日にも党の意見を取りまとめるという動きになってきた。
 こうした重大局面が続いているTPP参加問題についてはJA全中やJA全青協をはじめ各地のJA、さらに市民団体なども「交渉参加断固反対」の声を改めて強めており、12日には消費者団体と連携し「国益を守れないTPP交渉参加断固反対緊急全国集会」を東京で開く。
 韓米FTA発効から1年を迎えた韓国の状況や自民党の検討状況などをレポートする。

目的は国の制度を変えること

貿易の拡大は実現できていない

韓国では農産物の自由化に対して農民が激しく抵抗してきた。写真は2005年のWTO交渉に対するデモと鎮圧する警官。(宋氏の資料より。統一ニュース) TPP(環太平洋連携協定)で米国は「韓米FTA」以上の水準の貿易自由化、規制緩和の撤廃を求めると言われている。「毒素条項」と言われるISD条項(投資家対国家紛争解決手続き)や医療・薬品の市場原理導入をめざした審査制度などの条項が盛り込まれた米韓FTAは農産物では米を除外したものの、実は再協議の可能性もあり「除外は一時的なものに過ぎない」との見方も出ているという。発効から3月15日で1年。
 このFTAの危険性を告発してきた韓国の弁護士、宋基昊(ソン・ギホ)氏がこのほど来日し今、韓国で起きていることを報告した。

(写真)
韓国では農産物の自由化に対して農民が激しく抵抗してきた。写真は2005年のWTO交渉に対するデモと鎮圧する警官。(宋氏の資料より。統一ニュース)


◆「カー・オブザイヤー」に初の輸入車

宋基昊氏 宋氏は3月1日に「TPPを慎重に考える会」と「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」が主催した勉強会でそれぞれ講演した。
 宋氏は発効後1年経っていないため「即断するのは難しい」としつつも、国会議員が政府に要求して入手した資料などをもとに現状報告した。
 韓国政府はFTAによって今後15年間、対米輸出は年平均で12億8500万ドル増加するだろうと発表していた。
 しかし、発効前の2011年4月から12月までの対米輸出額が431億3200万ドルだったのに対して、発効1か月後の昨年4月から12月までは428億4720万ドルとむしろ減少しているという。「時間をかけて検証する必要はあるものの、政府が宣伝するほどの効果は出ていない」(下表)。
 逆に関税が撤廃されたことで米国産自動車の輸入が増えた。韓国の2013年「カー・オブザイヤー」に選ばれたのはトヨタの「米国産カムリ」。昨年韓国市場に登場した45車種から選定されたものだが、輸入車が選ばれたのは初めてだ。
 そのおもな原因は関税率が8%から4%に引き下げられ、米国から韓国に輸出しやすくなったからだという。 一方でFTAによって米国の反ダンピング(値引き)規制はできなくなると韓国政府は宣伝した。しかし、今年1月、米国はサムスンとLGグループの洗濯機に対してダンピングを認定、それぞれに11%、13%の相殺関税を課した。LGとサムスンの洗濯機は米国市場で1、2位を占めるという。宋氏は米国の保護主義は相変わらずで「変化させられたのは韓国だ」と話した。

韓米FTA発効以後の対米輸出比較


◆エコカー支援も挫折?

 自動車をめぐる政策では昨年11月、国会議員がエコカーへの補助金制度導入を提案した。この行方も韓米FTAのために分からなくなっている。
 これは低炭素型軽自動車などの購入に50万〜300万ウォンを支給し、代わりに中型車、大型車には同水準の負担金を課すというもの。国会で承認され2015年には施行予定となった。
 しかし、大型車輸出が大勢を占める米国はFTA違反を主張した。韓国内の輸入自動車協会も導入に反対しており、実施できるかどうかは不透明だという。


◆63の法律や施行規則を改正

 FTAの発効に合わせて韓国ではすでに63もの法律や施行令、公示などが改正されたという。
 たとえば、法律では郵便法の改正も行われた。これによって国家独占郵便事業の範囲を縮小。
 また、保険に関する法律改正で新たな郵便局保険の新設が禁止された。公認会計士法では外国人会計士の国内事務所設立を認める改正が行われている。
 宋氏よると今後もFTAに合わせた改正が行われる見込みで、そのなかには知的財産権に関する法律もある。現在は知的財産権が侵害された場合は、被害者の告訴による親告罪となっているが、米韓FTA締結によって告訴がなくても刑事責任を問えるように改正する必要があるのだという。


◆国内企業がISDを活用?

 外国投資家が国家を訴えることができるISD条項が韓米FTAに盛り込まれたことはわが国にも衝撃を与えた。この影響は出ているのか?
 この問題では、昨年9月にベルギー籍の米国系ファンド会社のロンスターが韓国政府に2兆220億ウォン(約1820億円)の損害賠償を請求したことが明らかになっている。
 ロンスターは韓国の銀行を買収、それをまた別の企業に売却したのだが、韓国政府がこの取引での株式譲渡承認を遅らせ、投資金回収で差別を受けたと訴えている。また、譲渡取得税3900億円の課税処分は韓国政府の意図的な基準での課税だなどとして世界銀行が設置した投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴した。これは韓ベルギー投資協定に基づくもので韓米FTAによる提訴はまだないと日本の外務省も報告している。
 ただし、宋氏は韓国の電力会社である韓電がISDを利用しようとした動きがあったことを報告した。これは政府と地方自治体の電気料金政策を問題視し、ISD条項の適用の可否を法律事務所に依頼したという事件が昨年10月に発覚したというもの。なぜ、韓国の公的企業が国際仲裁などを検討したのかといえば「韓電に投資した外国人株主のためだった」という。韓米FTAを利用して利益を得ようとする動きは、海外からだけでなく実は足下からも起きかねないということだろう。


◆「米」の例外は一時的か

 韓米FTA発効後も農産品と食品の関税撤廃はまだ本格化していない。しかし、政府資料によれば米国産果実の輸入が急増している。昨年3月15日から6月末までの間に輸入量はオレンジで140%、レモンで199%、アーモンドで186%などの増加となっている。
 牛肉はBSE規制で30か月齢以下の輸入としているが、米国は1月に韓国に月齢撤廃を要求した。
 米国産牛肉の占有率は2011年の37.2%から2012年には40.6%に増えた。宋氏によればこれは「30か月齢以下に限定されているから」と韓国国民が評価した結果であって、米国産牛肉全体への信頼が回復したわけではない。しかし、米国は消費量増大を理由にさらなる規制撤廃の圧力をかけてきているという。
 一方、韓国の「米」は除外品目とされた。しかし、昨年、次のような事実が発覚したという。
 米国は、米を例外扱いとしたのは、WTO協定が2014年までは関税化の例外としているからだ、と説明、そのうえで、2014年以降は米を例外からはずすための再交渉をしたいと韓国政府に伝えていた。宋氏は「例外が確保されたといっても、それは一時的なものということだ」と指摘。さらに2014年までの間はミニマム・アクセス米の増加を要求されているという。「例外扱いを求める代わりに米国は必ず対価を要求してくる」とも指摘した。
 このような韓米FTA発効後の状況を報告したうえで宋氏は「農業だけの問題ではなく、政府が宣伝するように貿易が拡大できるものでもない」と指摘し「目的は制度を変えることにある。ただし、目の前で服が盗まれるように見えるものではないから、その深刻さが理解されない」と訴え、講演会の参加者に「TPPは参加そのものを阻止することがいちばん大事だ」と強調した。

 


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