農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
地域と共栄担う運動体(下) 経済評論家 内橋 克人氏2016年9月30日
どうするのか?この国のかたち食と農地域と暮らしを守るために
経済破綻に見舞われた発展途上国に対する援助において"ベーシック・ヒューマン・ニーズ"重視の戦略をとってきたIMFと世界銀行は、やがて1980年代末からの旧ソビエト・ブロックの崩壊を境に、いわゆる新古典派経済発展理論にもとづく"ビッグバン・アプローチ"の援助方針へ、と急旋回した。人間尊重の支援から市場原理主義へ、新自由主義的改革へ、の転換であった。グローバライゼーション(世界市場化)が急進した。
「岩盤規制を打ち破る」もまたビッグバン・アプローチの一翼を担うものだ。日本社会を被う分厚い官僚的規制の岩盤は突き崩さねばならない。だが、たとえば"ディーセント・ワーク"(尊厳ある労働)を守る社会的規制は厳として守り抜かねばならない。際限もない「公共の市場化」に協同組合が与していいはずはない。
安倍政権下、多くの領域で急進するようになったビッグバン・アプローチの政治手法は、長い歴史の「協同組合原則」からは遠くかけ離れたものだ。規制改革会議・農業WGの議事録にみる「行政的役割」からの撤退もまた私たちは認めることはできない。
政府、地方自治体が果たすべき役割を果たしていないとき、その欠落部分を補い、地域社会の安定を支えるのは協同組合の重要な役割の一つである。そのゆえに協同組合を指して筆者は「第三の共同体」と呼んできた。地縁共同体でもなく利益共同体でもない、第三の共同体こそ「使命共同体」である。協同組合は「事業性」の追求にとどまらず、同時にミッションを同じくする地域社会との共栄を担う「運動体」でなければならない。
そのための「自己改革」こそ「改革」の名にふさわしい。
■ ■
2008年秋、世界は恐慌寸前の一大経済変動に見舞われた。リーマン・ショックである。翌年、国際協同組合同盟(ICA)の総会で一つの決議がなされた。
「われわれは、世界経済の行き詰まりをもたらした市場原理主義を克服する新たな展開を必要としている」
これを受けて国連は3つの方向性を定めた。第一に「行き過ぎた市場原理主義を糾す」、第二に「グローバル化の成果を世界に公正に配分する」、第三に「経済の安定成長を可能にする新たな経済モデルを創造する」というものであった。なかで協同組合はその役割を担う最大のセクターである、と。こうして国連とICAは「2015年までに、1日1ドル以下で生活する世界の貧困層を半減しなければならない」とあらためて宣言した。
協同組合原則とは自発的で開かれた組織であること、その運営は民主的であり、参加・自治・自立を原則とする「地域社会に開かれた組織」と定義づけた。市場原理至上主義の超克をミッションとする「社会的存在」にほかならない。ICAは今年、発足から111年、世界85カ国から220を超える協同組合が加盟し、組合員は世界で8億人を数える。世界最大のNGO(非政府組織)とされる。
■ ■
協同組合が「岩盤規制」などであろうはずはない。取り組むべきは「自己改革」であり、岩盤規制破壊に歩調を合わせることではない。競争セクター一辺倒でなく、共生セクターの並び立つ「多元的経済社会」という未来を私たちは求めつづけなければならない。
・地域と共栄担う運動体 (上) (下)
重要な記事
最新の記事
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(2)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【全中・経営ビジョンセミナー】伝統産業「熊野筆」と広島県信用組合に学ぶ 協同組織と地域金融機関の連携2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
「いざ土づくり!美味しい富山を届けよう!」秋の土づくり運動を推進 富山県JAグループ2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日