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特集:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

2018.07.31 
【韓国レポート】「憲農運動」で農民の底力示す一覧へ

・韓国農協中央会が呼びかけ
・多面的機能 国民運動へ

 韓国では、憲法に農業の多面的機能を明示するための農民運動(憲農運動)が進んでいる。中心役を担っているのが韓国農協中央会だ。国民の理解を求める署名運動に加え、農業、農村、農家自ら「清潔で美しい村づくり」に励む取り組みを追った。(森 泉)

署名呼びかけの看板の前で(写真=韓国農民新聞提供)(写真)署名呼びかけの看板の前で(写真=韓国農民新聞提供)

 

 憲農運動は、進歩勢力を支持基盤とする新政権の誕生がきっかけとなった。弾劾訴追で幕を閉じた朴槿恵政権から誕生した文在寅大統領は、就任から9日後の2017年5月19日、与野5党の党首との昼食会で早くも「大統領選挙で公約したように来年地方選挙(18年6月13日)で改憲を推進する」と明言した。
 それに、200万人の農民が参加する全国農民会総連盟(全農総)などの農民団体が早速反応し、改憲する際に農業の多面的機能を明示することを提起した。そして、農民団体らの意見を反映する形で韓国農協中央会は同年10月26日、農業の多面的機能を憲法に反映する汎農協推進委員会を発足し、農協中央会の副会長を委員長に憲農運動の本格化を宣言した。

 

◆改憲案は流れたが...

箱詰めした署名書を背景にガッツポーズをとる農協関係者。横断幕は「農業価値 憲法反映 1000万人署名運動、署名者数11538570人」)(写真=韓国農協中央会提供)(写真)箱詰めした署名書を背景にガッツポーズをとる農協関係者。
横断幕は「農業価値 憲法反映 1000万人署名運動、署名者数11538570人」)
(写真=韓国農協中央会提供)

 

 憲農運動の第1弾は、国民の理解を求める1000万人署名運動だ。農協中央会は11月1日、「農業価値を憲法に反映する国民共感運動」の決議大会を開き、10万人の職員に署名運動への協力を呼びかけた。関連の1100の農協、畜協に加え、全国5000か所の店舗を生かし、農協の役職員が産官学機関やイベント会場などに出向き、行政や団体の長の賛同だけではなく、一般国民の賛同を求めることにした。
 中国など海外店舗でも、現地に駐在する韓国関係者向けの署名活動を進めた。署名には国会の農林畜産食品海洋水産委員会委員や道知事、大学学長などが大勢参加し、署名者数は同年12月末で、目標値をはるかに超える1154万人に達した。
 憲農運動を受け、文政権は18年3月21日、農業の多面的機能を盛り込んだ大統領改憲案を発表した。改憲案には、129条1項として新たに「食料の安定的な供給と生態保全など農漁業が持っている公益的機能を明示し、国家はこれを土台に農漁村、農漁民の支援などに必要な計画を施行する」とした。
 しかし大統領改憲案の霧散とともに、憲法に農業の多面的機能を明示することも見送りとなった。18年5月24日、国会本会議に大統領の改憲案を上程したが、野党議員の全員不参加で、与党の共に民主党の111人と無所属3人の114人が投票したものの、議決定足数(在職議員の3分の2)の192人に達することなく、採択が無効となったからだ。専門家の多くは、南北問題など国際問題が山積したため「改憲が後回しになった」とみる。
 ただ、憲法に農業、農村の多面的機能を明示することに関しては、文大統領の改憲案にも、各政党が提示した改憲案にもすべて盛り込まれている。農業の多面的機能に詳しいソウル大学の任廷彬教授は、改憲が実現すれば、憲法に多面的機能を明示するのは「時間の問題だ」と指摘する。
 農協中央会はこの情勢を踏まえ18年6月15日、多数農民団体との交流する「農協―農民懇談会」を開き、憲農運動の継続を議論した。同懇親会で農業団体長らは、農協中央会に「大統領の改憲案が霧散し改憲推進の動力を失った。今後、改憲案を論議する際に農業の多面的価値を改正憲法に反映するよう引き続き頑張ってほしい」と注文した。
 農協中央会のキムビョンウェン会長も「農民団体皆様の意見を一つずつ綿密に検討し、農家が希望を持って農業に従事するよう農民団体と農協が協力したい」と約束した。

 

◆署名運動の成果バネに 「美しい村づくり」へ

イベント会場でも(写真=韓国農民新聞提供)(写真)イベント会場でも(写真=韓国農民新聞提供)

 

 憲農運動は署名運動だけに留まらない。多くの国民の理解を得るためには農業、農村、農家が自ら清潔で美しくなり、国民のあこがれにならなければいけない。そのため進めている第2弾が「清潔で美しい村づくり」キャンペーンだ。農協中央会は18年4月30日、農村景観の維持、発展を呼びかける「2018年清潔で美しい農村づくり」キャンペーンをスタートした。これまで農協が支援してきた村を先頭に、壁画づくりや古民家の改造など景観整備を進め、市民の来訪を促し、市場に流通できない公益価値の見える化を進めている。
 一方、6月から7月31日の日程で、第1回目の「清潔で美しい農村づくり 自慢大会」の参加村を公募。対象は、景観が美しく、村づくりに力を入れている20戸以上が暮らす村。地域の農協、畜協の組合長や農協市郡支部長が推薦し、農協中央会の専門家による審査委員会で最終選定する。11月に授賞式を開催する。農協中央会会長の名義で授賞し、大賞(1か所)には賞金500万円、最優秀賞(3か所)には賞金400万円、優秀賞(5か所)には賞金300万円、奨励賞(15か所)には賞金100万円などの副賞を与え、総額5000万円を予定している。
 韓国農村経済研究院が発表した「2017年の農業・農村に対する国民意識調査結果」によると、農業・農村の公益的価値に対し、10人の市民のうち7人が「高い」と答え、「ない」がわずか3.5%となった。今回の署名運動でもその実態がうかがえる。
 ただ調査では、農業・農村の公益的価値を維持するために税金を追加する場合、負担意向に関しては、市民10人のうち5人(53.8%)が賛成し、4人(41.4%)が反対した。要するに、農業、農村の公益的な価値に対し、多くの市民が脳裏では認めているものの、体では受け入れていないのが実態だ。今後、いかに市民に農業、農村の公益的な価値を身近に体験、認識させるかが重要となっている。
(農業ジャーナリスト)

 

この記事のほか、日本の自給率問題に対しての提言や寄稿などをまとめました。
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