農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【歌手・加藤登紀子さんインタビュー】農的幸福 今こそ国民で実現を(2)2018年10月15日
「望郷」から土に根ざすへ
大金 思い入れがさらに深くなったわけですね。
ところで加藤さんは敗戦後、お母さんと一緒にハルビンから引き揚げてきた経験をお持ちですね。そのお母さんが学生運動に対して「みんな敗北敗北って言うけど、国を向こうに回して勝てるわけがないのよ。それでも行動することに意味がある。戦後すぐにもGHQを相手に学生がデモした。それはアメリカに日本の力を認識させたのよ」という素敵な言葉があります。加藤さんの歌や行動は、こうしたお母さんの言葉などから大きな影響を受けているように思われるのですが、いかがですか。
加藤 母たちは、国というものを見たんです。戦争を経験した人たちは、国は空気のように存在しているのではなく、国は強烈に存在していて、国を守れと言われて死んでいった。しかし、敗北したときに国は決して人を守ってくれるものではないんだということを知ったわけです。
母がよく言っていたのは、日本になんとかしてもらいたい、いつか日本が助けに来るのを待たなきゃいけないという意識を持った人たちが圧倒的に多かったということです。でもここで生き延びなくてはならない、3人の子供を死なせてはならない、この現実。現実主義なんです。国なんて何の役にも立たないという率直な感情です。

(写真)歌手・加藤登紀子さんと聞き手の文芸アナリスト大金義昭氏
大金 いざという時に何の支えにもならなかった国が等身大に見えたときに、国としっかりした距離感を持って生きていく母親に、女性としての生き方を見たということですか。
加藤 『ハルビンの詩(うた)が聞こえる』(藤原書店)という母が書いた本のなかで、何で私が終戦後にそんなにダメージを受けなかったかといえば、ハルビンには国に守られない人ばかりいたからだと言っています。ハルビン時代に出会った人たちは、いろいろな国の出身の人が国籍もなくいた。それを見た10年間でした。国に守られていなくても国籍がなくても、生きる力さえあれば生きていけるということでした。
大金 そんな体験や考え方を受け継いでおられる加藤さんの世界を、キーワードで拾い上げてみると、ハルビン、戦争、国境、越境、愛、旅、風、流浪、さすらい、デラシネといった底流が感じられるのですが。
加藤 それを全部ひっくるめていうと、実は望郷なんです。さすらいというのは、実は望郷なんです。藤本もシティボーイで決して田舎の出身ではないですから、どこかに土に根ざしたものを持たなければいけないと思ったとき、移住して農業にきちんと携わりたいということになったのだと思います。それには大賛成でした。
藤本とは、出所したあとに八郎潟に入植しようという話もありました。
大金 へえー、そんな話まであったのですか。
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