農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【歌手・加藤登紀子さんインタビュー】農的幸福 今こそ国民で実現を(3)2018年10月15日
遠のく食 都会の恐怖
加藤 私は調べに行ってこいといわれて、秋田で仕事があるときに八郎潟まで行きました。1973、74年ごろだったと思います。非常にみなさん意欲的で入植の申し込みはもう締め切られていましたが、みなさん集まってお話をしてくださいました。それで、ここでは労働時間を決めている、と。若い夫婦が入植しており、これからは昔みたいに、寝ても覚めても働くような農業じゃなくて、労働時間を決めて土日は休むというんです。給料制にするという話も聞きました。ただ、そのときに八郎潟に神社とお寺がないと気づき、なんとなく寂しいような気持ちになりました。固定観念かもしれませんが、やはり自然相手の農業は、農村に祭りがあったりする暮らしではないかと思いました。
最近は労働時間を決めて土日休むということにしないと、若い人たちは農業をやる気にならないと聞きますが、むしろ今の若い人たちで農業に入ってきた人たちは、そういう生産性、効率性といったものに振りまわされたくない人たちではないでしょうか。
大金 藤本さんは『農的幸福論』(家の光協会)という著書のなかでも、家族農業の重要性を説いていましたね。
加藤 藤本は農的生活という言葉を生み出したのも大きいと思います。
ここに至るまでには、80年代初めに藤本との大激論がありました。私は千葉についていかず東京で暮らすことになった結果、だんだん生み出された考えです。農業の現場はここにしかないというのではない、都会の人も農業に関わり、農業者も都会の人と関わる。実際、農産物は都会の人が食べているんだから、行ったり来たりするのは当たり前ではないか、お互いがもっと交流すべきではないかという大事なことに気がついたわけです。
では、都会の人が農的生活をするといっても、何がいちばん手がかりになるのかといったときに、私は自炊してください、と言っています。自炊する人がもっといれば、農業も変わります。自炊とは、どこかで野菜や米を買ってきて自分で炊いて食べる。一人暮らしが増えていますが、都会にいても農的生活をするには自炊することだと一生懸命に言っています。考えたいのは、食料の供給源が遠くなるということは、都会の人間にとっては大恐怖のはずだということです。典型的なのは、大地震のときにはいっぺんに食料がなくなりましたね。その脆弱さは農業の問題でもあるけれど、都市環境の問題でもありますよね。
都市環境のそういう脆弱さに気がついて、食料の供給源である農業という現場、漁業も含め、そういう現場とのパイプを持たないで暮らしていることが、いかに危険かということに都市住民はもちろん、国も自治体も気がつかないといけないと思います。
大金 藤本さんと加藤さんのお二人が歓迎された「食料・農業・農村基本法」(1999年)は、食料の安定供給と自給率の向上、農業の多面的機能の重視、持続可能な農業、そしてそのための農村の振興などをうたっています。しかし現在の自給率は38%で、この基本法ができたあとも下がってきています。農業振興についてのお考えは。
加藤 これからは、農協ももっと多面的になってもらえればいいと思います。たとえば、きちんとした品目が、一日に何トンも出荷できなければいけないようなマーケットのかたちがある限りは、家族農業がいい、有機農業がいいといっても、それだけでは無理ですね。でも、だからといって、農的生活に近い農業に入ろうかという人たちがいる時には、それを否定せずに、これをも受け入れていく。新しく始まってきた若い人たちの動きへの手厚いサポートや保護も考えていただきたいと思います。
私のような素人でも農業ができるのは、手植えと手刈りだからです。もちろんそれではまかないきれないので機械も使っていますが、そこはプロの百姓(農業者)が担う。でも、手植えは生産性はないけれども農的体験にはなるし、一反二反ぐらいはできます。半分素人だと言われても、家族が十分に自給できるところまではいけるはずです。だから、家族農業がどれだけ十分な数として残っていくかということが、いろんな意味で日本の農業の足腰になると思います。
大金 家族農業を起点にしたお考えには、大賛成です。
加藤 家族農業が集まって出荷の規模を大きくしていくといったシステムに、少しずつ改革していきながら対応していくことなどが必要ではないでしょうか。
重要な記事
最新の記事
-
鳥インフルエンザ 愛知で国内40例目2025年1月21日
-
食料安保と気候対応 バイオエコノミーの重要性確認 ベルリン農相会合2025年1月21日
-
米のひっ迫感 「決して健全な状態だと思わない」 江藤農相2025年1月21日
-
【JAトップ提言2025】「協治戦略」で共生に道 JAはだの組合長 宮永均氏2025年1月21日
-
【JAトップ提言2025】農業応援団と地域振興 JAいちかわ組合長 今野博之氏2025年1月21日
-
牛窓地区のブランド野菜「牛窓甘藍」「冬黄白菜」で試食会 JA全農おかやま2025年1月21日
-
岐阜県産有機野菜で学校給食 中学生がメニューを考案 JA全農岐阜2025年1月21日
-
大分の家畜市場で子牛の初セリ式 前年より平均単価アップ JA大分2025年1月21日
-
上場銘柄の加重平均価格は1俵4万6417円【熊野孝文・米マーケット情報】2025年1月21日
-
JA相模原とJA佐久浅間が友好JA協定 2月10日に締結2025年1月21日
-
「第7回らくのうマルシェ」25日に開催 全酪連2025年1月21日
-
自社ウェブサイトが主要IRサイト調査にて高評価を獲得 日産化学2025年1月21日
-
腕上げ作業の負担軽減「TASK AR TypeS3」レンタル開始 アクティオ2025年1月21日
-
野菜価格高騰 野菜がお得に購入できる家計応援キャンペーン実施中 ポケットマルシェ2025年1月21日
-
「ノウフク商品」販売イベント 羽田空港第3ターミナルで開催中 日本基金2025年1月21日
-
地産全消「野菜生活100 福島あかつき桃ミックス」新発売 カゴメ2025年1月21日
-
「マイカー共済」4月1日から制度改定 こくみん共済 coop〈全労済〉2025年1月21日
-
新規水稲用除草剤「ウツベシMX ジャンボ/エアー粒剤」販売開始 シンジェンタ2025年1月21日
-
【機構変更及び人事異動】杉本商事(4月1日付)2025年1月21日
-
【機構改正・人事異動】ニッスイ(3月1日付)2025年1月21日