農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【緊急特集:TPP11 12月30日発効】農業は国づくりの基本 影響見極め、さらなる対策【山田俊男・参議院議員】2018年11月6日
12月30日にTPP11が発効します。それに続けて日米FTA交渉が1月半ばに開始され、日本農業の「総自由化」時代が始まろうとしています。そうした中で「この国のかたち」をどう守り、日本農業をどうすればいいのか、本日は山田俊男・参議院議員の提言を掲載します。
TPPが発効する。といっても、もともとTPPを言いだした米国が、トランプ大統領誕生で離脱を主張し、そして、カナダやメキシコとのNAFTA協定の見直し、中国への貿易戦争まがいの要求、そして日米2国間交渉を言いだした。日米間では、来年早々に、物品貿易交渉(TAG交渉)がスタートする。
一体、TPP交渉の意義は、どこへ行ってしまったのか。すっかり影が薄くなってしまった。この論議と交渉に、私などはどれだけ精力を傾けてきたか。筆舌に尽くしがたい。
◇ ◇
私が参議院議員になったのは、WTOドーハラウンドの香港閣僚会議交渉の最中に、農業者の代表を国会に送り出そうという声が出て、当時、全中の専務をしていた私に白羽の矢が当たり、皆さんの支援で当選させていただいた。
その時の参議院選挙は、自民党は、一人区で、6勝23敗と惨敗し、参議院は野党に転落した。その結果、総理の問責決議が連発され、それが衆議院の解散と惨敗につながり、政権が交代した。その間、WTO交渉は、米国と中国・インドの対立で決裂した。そして、民主党政権で、米国のオバマ大統領が提唱したTPP交渉参加が検討された。
私は、野党だったが、森山ひろし(漢字は、しめすへんに谷)先生を会長に、稲田朋美先生を幹事長に、私が事務局長という体制で、「TPP参加の即時撤回を求める会」の議員連盟を結成し活動した。その後、自民党は政権に復帰したが、議連は、「TPP交渉における国益を守り抜く会」として名称を変えて活動を続けた。この間、9年間で80回の議連総会を開いた。役員会や野党との話し合い等を含めると、都合200回の会議を開催し取り組んだ。議連参加議員は、200人を超える党内最大の議員連盟だった。私も、議連も、そして党も全力で頑張ってきた。
結局、トランプ大統領になった米国が抜け、今、6か国の参加で発足するが、他の国も参加に向けて国内協議を進めており参加が拡大すると見込まれている。
今後どんな形で影響が出てくるか、一番の課題である。
◇ ◇
関税の引き下げや廃止は、品目によって異なり、長期によるもの、短期のものがあるわけで、また、国別枠を設定したものもあり、最終的には82%の品目で関税撤廃が進み、大きな影響が出る。そのための対策が講じられなければならない。とりわけ、牛肉や豚肉や乳製品については、わが国への輸出攻勢による輸入の増加が懸念されるわけで、国内の農家の経営や所得に対するマルキン制度の法制化・補てん率の引上げ等による影響緩和対策が講じられているところだが、さらなる対策の検討が必要である。
一方で、相手国の関税引き下げや撤廃で、わが国が相手国に輸出できるチャンスも広がるわけで、この面でも国内の生産・流通対策の強化が課題となる。
心配は、今後の米国とのTAG交渉の行方である。「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」とする日米共同声明が徹底して尊重されなければならない。
現在のTPP協定には、米国のTPP参加を見越しての輸入枠の設定や関税引き下げを盛り込んであり、米国が入らない中で、これらの枠を豪州やニュージランド等が活用するとなると、一体どうなるのか。また、米国が、TAGという形で物品交渉を求め、これらと同等の枠を求めてくることになると、わが国は2重の輸入量を受け入れる心配がある。これをTPP協定で解決できるのか、それともTAG交渉でなくて、改めて米国をTPP協定に参加させることが出来るのか、きちんと整理されなければならない。
ところで、わが国をとりまく経済・金融状況から、物品の貿易にとどまらず、情報・金融・保険等のサービス等の各般に渡った協定が求められるという懸念がある。それらが優先される形で、農林水産品への圧力もかけてきかねない。そんな形での協定は絶対に許されない。というのは、各国は、それぞれの国土と気候風土と国民の生産・生活の活動の中で存在できているからである。そう考えるとき、国土に根差す農林水産業と農林漁業者の存在を常に政策の基本に置いた政策運営がなされなければならないということだ。もちろん、金融や証券や会社の動向を軽視するものではない。これらが国民所得の多くを実現し、国民の生活の安定を実現していることも否定しない。しかし、今、行われようとしているのは、国の基本に置くべき国土や国民や地方や農林水産業や農林漁業者の存在への配慮を軽んじているのではないかという懸念である。まさに、金融や経済優先の政策運営になっているのではないか。
今、農林水産業は、担い手が高齢化し、若い担い手の就農が激減し、荒廃地が目立ってきている。外国人就労者に頼らざるを得ない深刻な状況がある。これらを規模拡大だ、機械化だ、生産性の向上だ、というだけでは解決できない。しっかり、国づくりの基本である農林水産業を支えるため、所得補てんを行う、基盤整備を促進する、若い担い手に魅力を与える対策を講ずるという政策が、貿易交渉政策と並行して実施されなければならない。でなければ、わが国の国土は崩壊する。米国もヨーロッパも、わが国を大きく上回る、農業者への経営所得安定対策が講じられているのです。 先般、地域の農林水産業振興促進議員連盟(竹下亘会長)で、青柳正規氏(東大名誉教授、前文化庁長官)から、「国・地域・ひとづくりと農業」について講演をいただいた。講演の最後に、先生は、「我が国の農村にあって、もっとも重要なことは、農業従事者の高齢化や担い手の減少であって、これに対しての妙案がない中で、まず、農業が国にとって重要である、持続可能な社会を実現する、その中核に農業と環境があるということを、皆で声を大きくしていただいて、国民全体の意識が常に農業や環境に向くようにして、そのことによって、持続可能な社会に少しでも近づけなければならない」とおっしゃっていた。頑張りましょう。
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