農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【緊急特集:TPP11 12月30日発効】「ゆでガエル」化を危惧【高橋勇・JA浜中町参事】2018年11月6日
高橋勇・浜中町農業協同組合(北海道)参事
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10月30日。とうとうこの日が来た。2010年に8か国で交渉を開始し、その後日本も交渉参加したTPPが60日後の年内12月30日に発効すると茂木経済再生担当大臣から発表された。日本がTPP交渉に参加する意思を示してから、地元選出の国会議員を通じるなどあらゆる手段を講じて、JAグループや関連業者も含め必死に反対運動を繰り返し展開した。
しかし、「政府の方針に何故こんなに反対するのか?」と、政府は聞き入れることもせずに、一方的に交渉を進めてしまった。予想外としてトランプ大統領が就任し、すぐに米国が離脱してしまったが、残った11か国でしかも日本がリードしつつ着々と交渉を重ね合意にこぎつけた。さらには、2017年の夏に、突然EUとのEPAが大枠合意したと発表された。TPPの反対運動が大きく展開されたことから、隠密の中で合意を取り付けるための交渉が行われていたと言わざるを得ないだろう。
どちらの貿易協定も自動車産業をはじめとする製造業に利益をもたらすため、農業をエサとして差し出してしまった。当地区は北海道の東端で冷涼な気候で、作物による農業展開は困難であり、草地と乳牛を有する酪農専業地帯である。生産物となるオス子牛や交雑牛は肥育素牛から牛肉となり、また生乳から地元の乳業工場で製造されるバター、脱粉、チーズなどの乳製品は、いずれもTPPやEPAの関税撤廃・削減のターゲットになっている農産物である。
つまり、当組合の酪農の生産物は、関税が引き下げられる輸入牛肉、乳製品とすべてバッテイングする。大きな反対運動は、自分たちの生活が脅かされる危機感からの行動であり、死活問題だからである。
一方、反対運動が失敗に終わり、さあどうなるかとなったころから乳価、及び牛個体販売の値上がりが続き、この2年ほどは空前の価格が維持されている。昨年のEUとのEPA大枠合意の報道に対しても、もう仕方ないとの雰囲気が全体に漂っていた。JAとしては機会あるごとに情報発信は行っているが、組合員は懐具合が安定していると反応が鈍くなるのが実態である。
低コストを徹底し、自助努力で得た所得ではなく、単に相場が好転し得られたものは身に付くはずもなく、いずれ生産物価格が低迷する時期が来れば大変なことになる。しかし、今は経営改善、低コストをいくら提唱してもピンと来ないのである。
今回の貿易問題と酪農の現場では大きな乖(かい)離があり、その対策を実施しようにも方法がなく、一番の課題となってしまった。国は将来に備えて畜産クラスター事業を推奨し、それを活用して規模拡大を進めている地域も多くあるが、大きくすることではなく、いかに効率良く経営を行うかが求められているはずだ。
TPPをはじめとする貿易の荒波は、農業に限らず農村社会や食の安全保障まですべてを崩壊させる可能性があると、猛反対されている研究者もいますが、まさにその通りである。当地区のように酪農しかない小さな町は、あっという間に飲み込まれて消えてしまうかもしれない。そのことを地域全体の課題としてどう位置付け、対処していくかが問われている。
地方創生の観点から酪農及び乳業工場は、多くの雇用と物流を生み、他産業との関連も大きく優等生である。その点を念頭に置きながら取り組まなければならない。しかしTPPやEPAが発効された場合、何から手を付ければ良いかすぐには気づかないかもしれない。数年から十数年かけてじわじわと関税が撤廃・削減されるためである。いわゆる「ゆでガエル」の法則である。気づいたときには、既におそしとなることが懸念される。
では、どうするかとなれば、30年ほど前の牛肉、オレンジの輸入自由化の時も、農協全体でムシロ旗を持って反対運動を行ったが、結局聞き入れられず政府の方針に押し切られた構図は何ら変わっていない。しかし、牛肉の場合は、輸入品との品質の差を消費者に理解してもらい、地位を得て現在に至っている。
酪農畜産の現状は、担い手不足が現場を直撃し、国内の生乳生産量は約20年前のピーク時より15%も減少している。乳牛頭数も30%以上も減少し、右肩下がりに歯止めが掛かっていないのである。日本は島国で飲用牛乳や生クリームなど、日持ちのしない商品は国産で賄わなければ輸入することは困難である。将来はそこに活路を見出すことができれば、生き残っていく可能性が大きいのでないかと思っている。
当地区で生産された生乳は、既に特選4.0牛乳や生クリームからハーゲダッツアイスクリームとなって消費者に届けられている。このことは、国産で品質の良いもの、安心・安全なものは消費者に必ず認知され、少々価格が高くなっても購買力は落ちないと確信している。そのためには今までどちらかと言えばPRや広告に対する認識が低く、取り組みが後回しになっていることから、積極的に行動することが求められていると感じている。
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