農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:組合員目線で都市農地守る あってよかったモットーに(2)飯田勝弘 JA世田谷目黒(東京都)経営管理委員会会長に聞く2021年8月11日
典型的な都市農協である東京都のJA世田谷目黒。その都市農協の役割は何か。「組合員が安心して農業できる状況をつくること」そのために「農地を守ること」だと、飯田会長は考えている。そのために「常に組合員目線で、『あってよかった』といわれる農協をめざす」という飯田勝弘・経営管理委員会会長のインタビューの第2回。
体験農園は都市の農地を守る砦
組合員の安心 都市農協の要
――JA世田谷目黒はJAやまがたなど全国の5JAと友好組合協定を結び、職員の研修や農産物の販売などで交流しています。新しい芽ばえではないでしょうか。
新しい芽は、大きな組織で育てようとすると難しいものです。最初は単協の単位で小さくスタートし、広げる方がよい。友好組合からは毎年、相続相談業務で半年から1年の長期研修職員を受け入れています。10年になりますが、すべてのJAにとって相談業務は、組合員への基本的業務だと思います。また、各地のJAや友好組合の農産物の販売もしています。手数料はいだだきません。
これが大消費地に立地する都市農協の役割だと思っていますが、こうした取り組みに最初に食いつくのは現場の若い人です。それをトップがどう受け止めるかが鍵です。
――JA世田谷目黒は購買、販売事業はほとんど行っていませんね。
当組合管内では農産物は農家が自分で販売した方が効率的です。農協がやるべきことは、組合員が安心して農業できる状況をつくることです。それが都市農協の役割です。生産資材を安くするのも大事ですが、その前に農地がなくなってしまうと農業はできません。
高齢で農業ができなくなった人に対しては、農作業支援や都市農地の貸借円滑化法を利用した農協による体験農園運営の提案など、次世代に農地が継承できるようにしています。相続相談業務と連携し、積極的に働きかけ、農地を残す方法を提案しています。
要は、組合員にとって何が一番大事かということです。JA世田谷目黒は、購買・販売事業の規模は小さいです。年2回の肥料・農薬・資材のあっせんに集中するよう業務を圧縮しており、経済店舗は設置していません。農協なのに何も売っていないのかとの批判もありますが、安心して農業ができるように、法律・制度を的確・十分に利活用してもらうための情報提供や相談に応えることがもっと重要です。農協でなければそんなことはできません。他の金融機関は、相談といっても最後は金をいかに引き出すかです。
――これからの都市農業と都市農協の役割は何でしょうか。
都市の農地は生産場所としてだけに重要だとは思っていません。ただ農地という生産できるエリアがあることは、憩いや教育の場、災害時の避難場所などのほか、都市に住む多様な人が関わることで農地の使い方は広がります。国民にとってさまざまな意味で多様な機能があります。特に子どもへの教育の場としての機能は重要です。また、コロナ禍において食への関心や憩い・潤い・居場所としての需要も増えているようです。
頭では農業のことが分かっていても、その実態を知らない人も少なくありません。草の根的に理解してもらうには、都市に農地があってこそです。そこに足を踏み入れ、「野菜を作るのはこういうものなんだ」と、少しでも理解するための基点になればと考えています。
都市農協といっても、都心の農協はその辺の都市の農協とは違います。都市型農協と「型」をつけて呼ばれますが、ここはあくまで、都心にある「都市農協」です。それは全国の農協と比較し、置かれた状況がまったく違うからです。農地に関しては税金の制度、額が違い、外に向けて発信することも違います。
もちろん農地は生産をすることが条件です。しかし、都市農地は公園でも福祉作業所でもありません。都市でも農村でも農地と農業、組合員の暮らしと資産を守るという農協の役割は同じですが、対象となる農地が違い、守り方が違います。その辺を理解してもらわないと、JA改革で、全国一律に農家所得の増大を、と言われても......。
また、地域との共存といいますが、地域や組合員にとっては、都市では農協がなくても、生活上困ることはありません。しかし、都市に農地を残すには必要な存在で、そのための役割を果たしてきました。都市に農地がなくてもよいという人は、農業と毎日食べているご飯が結びついていないということです。その間をつなぎ、農地の周辺の人が少しでも農業への理解を持ってもらうためにも都市の農地は必要です。
――これからの農協運営について、どのように考えますか。
協同組合としての農協は事業を行う組織であり、事業をやらない農協は組合員の思いを実現するための原資(収益)を確保できません。いま、農協は組合員の貯金を農林中金に預けて奨励金を稼ぎ、運営しています。しかし、中金の奨励金もこれから削減され、農協はどのような事業をやるか、真剣に考えなくてはならない時にきています。
金融業自体が大きく変化しており、信用・共済事業の収益で経済事業の赤字を補填することは難しくなり、これを放置すれば農協の自主・自立は崩壊します。そういう時代にきていますが、JAグループ内では根本的な議論が出ていないのが不思議です。
――JA大会議案ではどうですか。
議案では五つの重点的に取り組むべき課題として挙げた一つに「持続可能な地域・組織・事業基盤の確立」があり、「事業」の重要さを指摘していますが、どういう事業を起こすべきか、もっと明確に示してほしい。大事なことは組合員にとって本当に必要な事を事業化することにあります。
また、このなかで掲げた組織運動については、組合員の学習活動が重要です。協同組合の主体は組合員です。参加すると経済的に利益があるからだけでなく、主体的に農協で自分たちの思いをどう実現するかを考える組合員を育てるべきです。
一方、職員は、組合員に寄り添い、組合員目線でどんな仕事ができるかが重要です。組合員の信頼を得る事が、自分の成績に繋がり、農協の収益にも繋がります。
直接的に自分の成績・評価を優先するようでは、組合員の信頼は生まれません。またそうした職員をきちんと評価するのは人事です。尽きるところ農協をよくするも悪くするもトップ層の責任です。そしてトップ層は、次に続く者の『踏み台』になるべきです。それがないと組織はより高見へステップアップすることができません。
【特集 許すな命の格差 築こう協同社会】
現地ルポ:組合員目線で都市農地守る あってよかったモットーに(3)に続く(8月12日掲載)
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