農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】「スリムで強固な経営」確立へ JA京都にのくに 迫沼満壽組合長に聞く2021年9月10日
JA京都にのくには、JA管内の大半が中山間地域で平地が少ない自然環境のなかで、地域の実情に合わせた農業振興とそのための体制づくりを進めている。特に事業の選択と集中によって、営農経済事業の再編・強化を進める「スリムで強固な経営」確立に努めている。迫沼満壽代表理事組合長に聞いた。
JA京都にのくに 迫沼満壽組合長
「万願寺甘とう」に期待
――JA京都にのくにの農業の特徴は何でしょうか。
JA京都にのくには、京都府北部の綾部市と舞鶴市、それに福知山市の一部をエリアとするJAです。1戸平均50㌃ほどの兼業・家族農業が中心で、農地が少なく、地形が複雑で、日本の縮図のようなところですが、地域によって特徴のあるさまざまな農産物があります。
最も産出額の多い米は、麦を含めて約7億円の取扱高があり、全体の35%を占めます。いま園芸作物で力を入れているのは、舞鶴市の万願寺地区を発祥の地とする「万願寺甘とう」です。全国的には「万願寺とうがらし」として知られていますが、ここの万願寺甘とうは甘くて辛くないのが特徴です。
大正時代から自家用に栽培が始まり、1983(昭和58)年、JAが本格的に増産に乗り出し、89(平成元)年、京のブランド野菜1号に認定されました。その後、地域団体商標の認定を受け、「万願寺甘とう」としてデビュー。2017(平成29)年には地理的表示(GI)の保護制度に、京都府で最初に登録されました。
万願寺甘とうは、初期投資が少なくて取り組めるのが特徴で、園芸品目の中ではもっとも力を入れている品目ですが、生産者の高齢化で思うように生産が増えないのが実態です。それでも若い新規就農者が少しずつ出ています。幸い消費は伸びており、こうした若い担い手による新規参入、規模拡大に期待しています。
米は全量買い取りです。「丹波のこしひかり」は隠れた名産品です。水稲生産者が安心して栽培できるよう、JAの施設(カントリーエレベーター、ライスセンター)に出荷された米は全量「直接流通米」として買い入れています。昨年、米価が下がったときも据え置きました。
また、2018年度から京都市内の有名なホテルの料理店へ特別栽培米を供給しています。こうした販路拡大への取り組みが、JAに対する組合員の信頼につながっているのだと思います。
一方、地域の農業振興の一つとして4年前にJA出資の農業生産法人を立ち上げました。農業従事者の高齢化が進み、管内でもほ場条件の悪いところですが、そこで農業用ドローンの導入など、スマート農業の経営モデルを確立し、地域の農業振興・活性化の一助にするとともに、これをモデルとして他の地区にも広げたいと思っています。
購買事業の選択と集中
――JA京都にのくにでは販売手数料をアップしたり、長年続けた移動購買車をやめたり、JA自己改革がらみで思い切った施策がみられます。どのような考えで進めているのですか。
2020年度、JAで扱う農産物の販売手数料を1%引き上げました。部門収支改善の必要もありますが、値上げによって、JAをみる組合員の目が厳しくなります。一方で、JAの役割は、最終的には営農指導を販売事業に結び付けることにあります。そのためには限られた経営資源を営農・販売に集中すべきだと考えています。
このため、移動購買車の事業をやめました。50年間やってきましたが黒字転換ができず、20年度に、移動購買を全国展開する「とくし丸」に経営を移譲しました。
仕入れの拠点となるべきスーパーを持っていなかったところに問題があり、品物ごとに民間の業者から仕入れるとどうしても割高になっていました。50年間、地域の人々の生活を支援し、社会貢献にはなったのですが、いつまでも赤字のままではいかないと考えました。ただ、「とくし丸」に移管したことで組合員の利便性は損なわれないとみています。
同じく20年度に葬祭事業も事業移管しました。コロナ禍で家族葬が増え、大きな葬祭場は必要なくなりました。支店併設の購買店舗も閉鎖し、その場所を農業資材専門の業者に貸し、組合員の利便を維持しています。また同年度、畜産(和牛繁殖)も隣のJA京都に移管を決定しました。14戸ほどの繁殖牛の事業は、府域で一本化する方が効率的です。
地域で業者と連携も
――事業を集中することで、JAの強みである総合事業との整合性が失われるのではないでしょうか。
総合事業だからと言ってなんでもやるわけにはいかないと考えています。消費人口の減少、高齢化が進む管内では黒字にするのが難しい事業もあります。それを廃止、あるいは事業移管し、その代わりJA本来の事業である営農指導販売に頑張りますということです。
JAの事業はメインに営農指導販売があり、それを維持・拡大するために金融事業があるのだと考えています。
それぞれ地域にはJAの事業を任せてもよい業者がいます。JA組織は縦の組織であり、横のつながりがありません。同じ地域内で狭くなる市場をめぐって商工会などと競争するのではなく、連携することもこれから考えないと、JAが地域で浮いてしまいます。どのようなつながりがつくれるか、これからのJAの問われると思います。このように事業の選択と集中が、わがJAのめざす「スリムで強固な経営」です。
正・准の区別撤廃
――JA京都にのくには、正組合員、准組合員の名称をなくし「組合員」に一本化されました。どのような内容ですか。
これはJAグループ京都で取り組んでいることですが、2019年、定款変更して従来の「正組合員」「准組合員」の枠組みを取り払い。「組合員」の呼称に一本化することにしました。
まず、これまでの農地面積と農業従事日数による組合員の資格要件を撤廃しました。それに代わり、JAと農業への関わり方によって第1号から6号まで区分け。議決権など共益権は第1号(個人),第2号(法人)組合員に付与し、従来の准組合員は第3号から6号組合員とし、JA事業の利用や協同活動や、地域での水路掃除への参加まで、それぞれの関わり方によってランク付けしました。
2年かけて組合員の関わり方を調べ、2019年から整理に取り組みました。この結果第1号、第2号組合員が2500人ほど増えました。呼称を一本化することで地域が一体となって協同活動できるようにとの思いを込めたものです。目的は、所有農地や農場従事日数に係わらず、だれでもJAとつながりを持ち、組合員としての自覚を持ってもらえるようにすることです。
直売所は組合員が運営
――そのため、JA京都にのくにでは組合員、役職員の教育に力を入れていますね。
組合員講座「にのくに未来塾」、職員講座の「にのくに次代塾」などを開講しています。特に「未来塾」ではJAの存在価値や組合員意識の醸成とJA運動を担う次世代のリーダー育成を目指しています。
また、JAには4カ所の直売所があります。他のJAと違い小規模な直売所ですが、JAは場所を提供するだけで、出荷者による運営協議会が主体的に運営し、品物は地元産しか扱いません。規模を大きくしたらどうかという声もありますが、ポリシーが違います。こうした身の丈に合った地域密着の事業が、組合員とJAの関わりにとって大事だと考えています。
――JA組織を今後とも発展させるためにはなにが大事でしょうか。
私たちJA京都にのくには、かつて経験したことのない環境変化のなか、将来にわたる組織の持続こそが地域・農業・社会的な使命であることを自覚し、問題意識とスピード感をもって自らの創意工夫・選択に基づく組織・経営改革「スリムで強固な経営」に取り組んでいます。
さらに、組合員が地域農業とJA理念の理解・積極的な運営参画・活動への参加や事業利用などの行動を促す「場づくり」施策を進め、そのことで育まれる強固で、しかも長く続く「協同の力」こそが、協同組合であるJAにとって持続可能性を高める重要な要素ではないでしょうか。
京都には100年以上続く老舗企業が多くありますが、その経営理念は、時代・環境の変化に柔軟に対応することにあります。そのためには身の丈に応じた経営を心掛けるべきです。まさに、協同組合の本質を忘れず、新しいものを取り入れていくという「不易流行」の姿勢が大事だと思います。
(農協協会参与 日野原信雄)
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