農政:原子力政策方針転換 思い起こせ3.11 産地は訴える
【思い起こせ3.11】議論なき原子力政策転換 教訓生かされず進まない復興(2)2023年1月26日
議論なき原子力政策転換 教訓生かされず進まない復興(1)から
出席者
菅野孝志・JA全中副会長
小山良太・福島大学経済経営学類教授
再エネ100%構想 様々な機会で話を
小山良太
福島大学経済経営学類教授
小山 UターンやIターンで帰還した人が8割を占める地区もある。一度外で仕事をしていた人が多く、パソコン、スマホは当然でズームの会議もできる。その中で、地域の新しい事業モデルをつくり、具体化する作業ができるベースつくったらどうか。そこで農家と新住民の新たな人間関係も生まれ、地産池消など、いろいろな新しいアイデアが生まれる。
菅野 福島県知事は、地域づくりをベースに2040年には自然再生エネルギー100%にするという構想を打ち出している。それに関わると必ず原発に触れ、もっと原発問題を掘り下げようとなる。さまざまな機会をとらえてこの構想についての話をすることが重要だ。それを重ねると、賛成論者も反対論者も雰囲気で賛成、反対ではなく。論理的な裏付けにもとづいて考えるようになるが、そのへんの論議の仕方が根付いていないように思う。
小山 原発の再稼働についてメリット、デメリットがきちんと論議されていないことも問題だ。防衛問題にしてもそうだが、「さあ大変だ」とあおられ、データに基づいて考えない。ただ「絶対にだめ」では議論にならない。将来の子どもたちにとっては原発が必要という意見があるかも知れない、また今の原発の運転延長とリプレイスは違うが、20年後には蓄電技術が開発され、自然再生エネルギーの普及が進んでいるかも知れない。そうしたデータがないと、運転延長やリプレイスの善しあしの判断が難しい。
3.11の教訓生かされず
菅野孝志
JA全中副会長
菅野 いろんな論点があるだろうが、原子力規制委員会はきちんとした原子力利用の将来の枠組みをつくる権限と責任があるのにわれわれの判断基準と同じところにはまっているのではないかと感じる。もっと科学的に説明してほしい。いまの政府のやり方では議論の場があまりにも少ない。風を読み込んで判断していると、考える材料のない国民は、その気になってしまう。それは危険だ。防衛予算の増額も同じ。装備とか武器とかを問題にするが、防衛とは国土と国民の命を守ること。すると予算の3割は食料備蓄に充てることを考えるべきなのに。
小山 その通り。原子力規制委員会はウクライナ問題と関係ない。なぜ、エネルギー価格が高騰すると原発の増設というのか理解に苦しむ。
ところで3・11の教訓は生かされているか。原発の増発はもとより、福島復興で予定されている国際研究機関は、当初予算が半分になった。国は事故発生の原因究明、事後対策、地方自治体では自然再生エネルギーの活用、エネルギーの地産地消などの取り組みが生まれているが、全体として教訓が生かされなかったように思う。何が不足し、なぜ国を縛るような提案ができなかったのか。もっとやるべきことがあったのか。
菅野 時間軸がすべてを物語っているように思う。原発事故から12年近くたち補償金を出すところまでの道筋ができたので、ある意味で、世間では「もういいだろう」という気分がある。補償金を使って、再生にむけた福島づくりの動きが出せなかった。生活の再建が先で、そこまで気が回らなかったというところではないか。
小山 そうした判断も、そもそも復興への未来への投資か、過去への賠償かが明確でなく、ごっちゃに使われてきたために混乱した面がある。
新しい福島復興への投資姿勢は不十分
菅野 国は未来投資といいながら、国としての責任だとして賠償に応えてきたと思う。従って、本当の意味で新しい福島復興への投資という姿勢は十分だったとはいえないのではないか。鳴りもの入りで計画された国際研究機関の設置は、世界中から研究者を集め、そこへ産業のベースである農林地帯や漁場、住宅ゾーンなどを設け、世界に冠たる国際研究拠点をつくるという構想ではなかったのか。
小山 筑波市に研究学園都市を創造したような地域構想だ。韓国のKAIST(韓国科学技術院)、あるいは沖縄のOIST(沖縄科学技術大学院)のような規模を想定していたが、予算規模や進捗(しんちょく)など不透明な部分が多い。今やKAISTはソウル大学を抜き、OISTも論文の数では東大を追い越している。いまベトナム、タイなどの技術進歩が著しく、デジタル化ひとつとっても日本だけが大きく引き離されている。コロナ禍でさらに差が開いている。その意味でも、新しい地域づくりのための復興政策の予算縮小、作業の遅れは心配している。
菅野 多くの人は何とか生活できるので、あまり気にしていないが、日本はあらゆる面で衰退しつつある。浮上させるためには国際研究機関の設置は欠かせない。沖縄のOISTは2011年に設立されて10年余りで大きな成果をあげている。。では我々は震災後の12年間、何を足踏みしていたのかとの思いがある。
地域に根付いたJAこそ復興支援の仕組みづくりを
小山 対談の議論を整理すると、第1に議論不足が挙げられる。議論の前提となる情報の提供もなく、国や電力会社が独占している。このため住民主体の地域づくりには積極的に関わろうとしない。
一方、その真逆にあるのが地域に根付いたJAではないか。再生可能エネルギーの利用や被災地で住民のために何かができるのはJAであり、被災地では復興支援のためのさまざまな仕組みづくりを進めている。
観念的な環境論でなく、地に足のついた地域の生活活動のなかで、安全な食べ物、安心できる子育てなど、自主的な組織としてコミュニティー活動のなかで展開している。人口が減ってコミュニティー活動ができないというが、自主的な運動は数人から始まるもの。江戸時代は1000人くらいのコミュニティーも珍しくなかった。その時代は食べ物の自給も子育てもその中でできていたのだ。
菅野 原発の問題を国民的に議論すべきだとは指摘したが、われわれは東電を相手にしても、上部のごく一部の人だけであり、廃炉作業などについている下請けや孫請けの人たちとは接点がなく、われわれの思いも伝えていない。命をかけて働いている人たちにわれわれの思いを伝える必要がある。
原発事故からの12年を世界に開示する義務
小山 いま原発問題を振り返ってみると、これからの廃炉問題も含め、原発事故とはなんだったのかについての総括が求められる。これから将来にかけてこの問題は続く。できないものはできないということを政府や国民が共有できるようにしないと、デマに惑わされたり、誹謗中傷のやり取りになって、まともな議論ができなくなることが心配だ。
沖縄など遠方に避難している人は今でも生活に苦労している。原発事故による本当の被害はどのくらいか、風評の被害はどうか。爆発事故があったのは春先だが、それが夏場だったら風向きによって米地帯の新潟、東北の米が汚染され、その被害は計り知れない。電力の利用者である都市住民はどんな負担をすべきか。
そうした問題をすべて議論の俎上にのせ、政府はこの12年間の経過を数字で示す責任がある。原子力政策を転換するなら、その情報を世界に開示する義務が政府にはある。これまでの原発事故をめぐる交渉で、政府や東電は秘密主義でデータを隠そうとしていることがよくわかった。われわれも後世のため、被害を受けた人々の記録を残しておかなくてはならない。
もう一つ、復興には人々の生活の場である地域、まち・むらづくりが重要だということが分かった。
JAは後方から支えながら活動の軸に
菅野 この面ではJAの地域活動と共通する部分がある。地域活動は、アンケート調査などではわからない、組合員や地域の人々の本当の気持ちを、相手の立場に立って聞くことだ。「無くてはならない農協」を目指すというが、私は「農協っていいね」と言われることを選びたい。なぜなら前者はJA目線の言い方だが、後者はが組合員目線だと思う。
コミュニティーは構成員の自主的な組織であり、それを大事にして、JAは必要な時に、後ろから支えるという姿勢が大事だと思う。これまでのJAの活動で感じられたことだが、地域は自主的に動くところがある。JAは後でサポートしながら、活動の軸になるというあり方がよい。福島復興に必要な地域づくりにそうした役割が求められている。
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