水稲苗箱処理剤、水まき感覚で 「ミネクト」剤で大幅省力化2022年10月24日
いもち病やイネミズゾウムシなど水稲病害虫の苗箱処理が水まき感覚でできる殺虫殺菌剤が注目されている。シンジェンタジャパン(株)が開発した「ミネクトフォルスターSC」と「ミネクトブラスター顆粒水和剤」のミネクト製品シリーズで、通常のジョウロでも簡単に灌注できる。稲作の規模拡大、安定経営の鍵は作業の効率化・省力化にある。中国地方の中山間域でこの薬剤を導入し、経営の効率化を進める二つの農業生産法人をみる。
▽農事組合法人・角井営農組合(島根・飯南町)
春作業、3割削減へ
耕起から始まる〝田ごしらえ〟、育苗、田植えは米づくりで最も手間がかかる作業である。水稲の規模拡大や他作目による新たな収入源の確保には、この田植えまでの作業の省力化が重要な鍵になる。角井営農組合は水稲育苗箱用殺虫殺菌剤「ミネクトブラスター顆粒水和剤」(以下、ミネクトブラスター)の使用によって、春作業の省力一貫作業体系の確立を目指す。
飯南町角井地区は標高400mの山あいに水田が広がる。昼夜の温度差が大きく良質米の産地として知られる。「飯南米」のブランドで関東地方を中心に店舗展開するスーパーマーケットでも販売されている。
箱処理した水稲の生育状況をみる三嶋組合長
同営農組合の組合員は45人で、実際に作業するのは組合長の三嶋玉亀さん(66)を含めて4人。「コシヒカリ」11ha、契約栽培のもち米2ha、ソバ2ha、ほかにトウモロコシ、トマトのハウス栽培などに取り組む。
耕起から代掻き、田植え、収穫・調整など、水稲作に必要な機械、設備はほとんど揃え「通常の作業に比べ3割以上の省力化ができた」という。水田の準備は、土の団粒を壊さないスタブルカルチによる耕起に始まり、耕起後は土を練らず、鋤き込んだ残渣を表面に出さないバーチカルハローでならす。
機械の時速7、8キロの作業速度があり、普通のロータリー耕の3倍以上速い。最後に4mの代掻きバーで表面を均平にならせば田植えができる。その田植えも高密度播種苗の導入で、必要な箱数が半分以下になり、かつてのように苗の補給に追われることもない。
苗づくりの改良にも挑戦してきた。農林水産技術研究所が開発した特殊な培土を使用。特殊処理したもみがらを使った培土で、苗床の気層に根がスムーズに入る。そのうえ軽量で扱い易く、高密度播種苗とあわせて作業の効率性を高めている。
殺虫殺菌の箱処理にミネクトブラスターを使うのも労力軽減の一つで、苗箱への種まきは4月中旬、18日後の5月3日から移植。薬剤の箱処理は、播種時から移植当日まで可能だが、今回は移植当日に苗箱への水分補給も兼ねジョウロで灌注処理した。高密度播種苗により省力化された苗送りの労力を活かした形だ。「薬液は気層を通じて苗箱全体に行きわたる、高密度播種で苗の植え付け本数こそ少ないがそれにキチンと成分が吸収されている」と三嶋組合長は粒剤との違いを評価した。
昨年は一部でイネミゾウムシの発生がみられたが、今年は抑えられている。いもちの被害もない。ミネクトブラスターを勧めた大信産業(株)松江営業所の木村宏所長は「ポテンシャルのある薬剤だ。農家は新しい技術に慎重だが、角井営農組合のような意欲のある農家に積極的に情報を伝えてデータを集め、普及させたい」という。
三嶋組合長は最後に、「次の担い手が安心して経営を引き継げるよう、コスト削減に必要な機械・施設はすべて揃えた。我々がおいしいお米を作るためいかに努力しているかを知って欲しい」と思いを述べた。
▽株式会社かみごう農産(広島・庄原市)
規模拡大への梃子に
中国山地の広島県庄原市口和町で稲作経営する(株)かみごう農産。約20haの水稲の経営と、15haほどの作業受託がある。増える受託希望に対応するため、省力化を最大の経営課題として取り組んでいる。
特に手間がかかり、全作期を通じて神経を遣うのは病害虫対策。今年、ミネクトフォルスターSCを入れ、省力化に挑戦している。
口和町は広島県北に位置する典型的な中山間地域で、農家の高齢化で休耕地や耕作放棄地が年々増えている。就農当初は野菜栽培だったが水田を委託する農家が増えて手が回らなくなり、会社を設立し稲作一本に切り替えた。田植えや稲刈り、乾燥調製、畦畔の草刈り、ドローンでの農薬散布などすべての作業をこなす。現在、水稲作付面積は、今年度から取り組み始めた飼料用米2haを含めて20haほど。ほかに様々な作業受託がある。これを3人でこなす。

手間のかかる畦畔の草刈りは9割以上を同社が引き受ける。それでも江木裕幸社長は、「預かって欲しいと頼まれれば原則断らない。このところ毎年2~3haずつ面積が増えている。資金面と規模拡大のバランスを取りながら、40haでも50haでも対応していきたい」と意欲を示す。
このためには作業の省力化・簡素化できることならなんでも挑戦するのが同社の姿勢。実際にWCS(ホールクロップサイレージ)のほか、湛水水直まきにも挑戦。農薬散布にドローンを導入するなど作業の省力化・効率化に努めているが、同社が経営する水田の面積は16aほどと小さいので、その効果には限界がある。
2022年発売の水稲育苗箱用殺虫殺菌剤ミネクトフォルスターSCは、初期害虫やいもち病、紋枯病を同時防除でき、苗箱に水まき感覚で簡単に灌注できる。高密度播種栽培にも対応でき、今年度100枚の苗箱に使った。
灌注はジョウロでも可能だが、ハウス野菜の栽培で使っていた灌水施設を利用した。5月21日に育苗箱に種まき、6月9日に潅注処理し、13日から移植した。「従来は、田植えと同時に粒剤処理をしていたが、ミネクトフォルスターSCは水をまくだけで、田植え前に余裕をもって処理でき、田植え当日の労力に余裕ができる」と作業効率に注目する。初期害虫の被害はなく、いもち病も昨年使用した箱処理剤よりも抑えられていたとのこと。紋枯病にも効果があり「使い方次第で作業の簡素化が実現できる」と、江木社長は新薬剤に期待する。
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