暖冬の影響でジャンボタニシ大発生の予兆!? 生育初期の稲を食害から守る3つのポイント2020年5月21日
関東以西の温暖な地域では、俗にジャンボタニシと呼ばれている外来種スクミリンゴガイによる農作物への被害が深刻です。用水路や水田及びその周辺に繁殖し、田植え直後の柔らかい稲や、れんこんの若芽を根こそぎ食い荒らしています。温暖化などの影響もあり、越冬する個体が増えたことも被害拡大の一因です。そこで今回は、元鹿児島県農業開発総合センター 病理昆虫研究室長で、現在は三井化学アグロ株式会社の技術顧問である農学博士の井上栄明先生に、スクミリンゴガイの対策について伺いました。
スクミリンゴガイ
◆食用として持ち込まれたスクミリンゴガイ
スクミリンゴガイ(学名:Pomacea canaliculata)は、南米原産の淡水に生息する大型の巻貝(成貝の大きさは殻高3~8cm)で、日本には食用として1981年に東南アジア方面から輸入されてきました。
当初は新たな水産物として期待されていましたが、味が日本人好みではなかったことや広東住血線虫の感染源にもなることから商品価値は上がらず、その後養殖場から逃げ出したり廃棄されたりして野生化した貝が繁殖してしまったのです。
井上 栄明 先生
1984年には植物防疫法に基づき有害動物に指定されて輸入禁止になり、現在は環境省と農林水産省が作成する「生態系被害防止外来種リスト」で、対策の必要性が高い「重点対策外来種」に選定されています。
◆1日に体重の半分を食す大食漢! その繁殖力も脅威
スクミリンゴガイの食性は、雑食で植物質から動物質まで幅広くエサにし、特に柔らかい物を好みます。食欲はとても旺盛で、1日に自分の体重の半分ほどの量を摂取するので農作物への被害は甚大です。水稲での被害がクローズアップされていますが、稲はスクミリンゴガイの大好物ではありません。田植え直後の水田には、生育初期の稲しかないので食べられてしまうのです。育苗日数にもよりますが、田植え直後から2~3週間が防除の必要な期間で、その後は生長して堅くしっかりとした稲になるので、スクミリンゴガイに食べられることはありません。
スクミリンゴガイの卵塊
南米原産のスクミリンゴガイは温暖な気候を好み、寒い時期には土に潜り、用水路の温かい場所でじっとして越冬し、水温が上がる田植えシーズンに活性化します。繁殖が可能になった雌貝は3~4日おきに産卵し、卵塊(1卵塊に200~300卵)を稲の茎や用水路の壁などに産み付けます。卵は、10日ほどで孵化して、2カ月ほどで成熟するという高い繁殖力を誇ります。卵塊は、鮮やかなピンク色で初めて見た方は一様に驚きますが、自然界では警告色の意味合いもあり、卵には毒もあるので鳥などに捕食されないようです。
◆スクミリンゴガイの食害から守る3つのポイント
高い繁殖力と温暖化などを追い風に、スクミリンゴガイは、九州や四国から本州の太平洋側の温暖な地域にまで拡大し農作物に被害を与えています。ここまで拡大してしまうと根絶するのは不可能ですから、その対策には、「入れない」、「食べさせない」、「広げない」という3つのポイントを押さえた対策をとることが重要です。
「入れない」というのは、用水路や取水口の管理をしっかりとすることです。田植えシーズン前に水路の泥上げや、取水口に貝の侵入を防ぐネットを取り付けるなど、圃場への侵入数をできる限り抑えましょう。
「食べさせない」については、浅水管理や防除剤を使うことで貝の活動を抑制したり、殺貝して食害を防いだりすることです。貝は水中でしか稲を食べることができないので、貝が稲に寄りかかれないように、田植え直後はできる限り浅水管理をして殻高よりも低く保ちましょう。大雨による増水時に他圃場などから大量に侵入する可能性もあり、ある程度の水深が必要なれんこんなどの作物では、防除剤による対策が効果的です。
ドローンによる散布
3つ目の「広げない」というのは、越冬個体の駆除のことです。スクミリンゴガイは比較的浅い所に潜っているので、冬場にトラクターで耕うんし、貝を物理的に破壊したり殻を傷つけたりすることで寒さへの耐性を低下させ越冬個数を大きく減らすことができます。また、スクミリンゴガイの卵は意外なことに水に弱いので、見つけたら水に払い落として孵化を防ぎましょう。
◆食害が発生したら、防除剤で迅速に対応
食害から守る3つのポイントを紹介しましたが、時として迅速に対応しなくてはならないケースがあるでしょう。例えば、近年増加しているゲリラ豪雨などによる短時間の多量の雨水は、スクミリンゴガイの移動手段となり、水路で育った大型の貝が流れ込んでくる恐れがあります。大きな貝はそれだけ食害能力も高いので、防除剤による化学的防除が必要です。
現在、スクミリンゴガイの防除を目的とした薬剤は、「メタアルデヒド粒剤」、「チオシクラム粒剤」、「燐酸第二鉄粒剤」の3系統が存在します。「メタアルデヒド粒剤」は貝を麻痺させることで殺貝し、「チオシクラム粒剤」は眠らせるような効果で貝の活性を低下させます。「燐酸第二鉄粒剤」は貝が剤を食べることで内臓機能を破壊して食害を防止し殺貝する効果があります。
注目したいのは「メタアルデヒド粒剤」と「チオシクラム粒剤」には、使用する回数と時期に制限があるのに対し、「燐酸第二鉄粒剤」は有効成分が天然にも存在するので、使用する時期や回数に制限がなく状況に合わせた散布が可能なことです。
「燐酸第二鉄粒剤」の『スクミンベイト3』は、有機JAS適合資材として認可されており、特別栽培米(注) などで農薬散布成分にカウントされることもありません。スクミリンゴガイの対策に頭を痛めている生産者、JA、自治体の方々には、食害から守る3つのポイントを参考に、是非とも地域ぐるみで連携し、被害の最小化に取り組んで欲しいと思います。
(注)各地方自治体の定める認定機関の判断によりますので、ご不明の場合は関係機関にお問い合わせください。
燐酸第二鉄粒剤の『スクミンベイト3』
(スクミンベイトは、ドイツのW. Neudorff GmbH KG(ノイドルフ社)の登録商標です。)
[参考]農研機構 九州沖縄農業研究センター・スクミリンゴガイ
◆販売
OATアグリオ株式会社
東京都千代田区神田小川町1-3-1 NBF小川町ビルディング8F
フリーダイヤル 0120-210-928(9:00~12:00 13:00~17:00 ※土・日・祝日などを除く)
URL https://www.oat-agrio.co.jp/
三井化学アグロ株式会社
東京都中央区日本橋1丁目19番1号 日本橋ダイヤビルディング
ナビダイヤル 0570-077557(9:00~17:00 ※土・日・祝日などを除く)
URL http://www.mitsui-agro.com/
◆事務局(スクミンベイト3普及会)
ナガセサンバイオ株式会社
東京都中央区日本橋小舟町12-15 長瀬産業株式会社 東館7F
TEL 03-3665-3369(10:00~17:00 ※土・日・祝日などを除く)
URL http://www.nagase-sanbio.co.jp/
重要な記事
最新の記事
-
全農 政府備蓄米 全量販売完了 29.6万t2025年9月8日
-
地域の未利用資源の活用に挑戦 JAぎふ【環境調和型農業普及研究会】2025年9月8日
-
【8月牛乳価格値上げ】平均10円、230円台に 消費低迷打開へ需要拡大カギ2025年9月8日
-
頑張らずに美味しい一品「そのまま使える便利なたまご」新発売 JA全農たまご2025年9月8日
-
全国の旬のぶどうを食べ比べ「国産ぶどうフェア」12日から開催 JA全農2025年9月8日
-
「秋田県JA農産物検査員米穀鑑定競技会」を開催 秋田県産米改良協会・JA全農あきた2025年9月8日
-
「あきたこまちリレーマラソン2025」のランナー募集 JAグループ秋田・JA全農あきたが特別協賛2025年9月8日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道で「スイートコーン味来」を収穫 JAタウン2025年9月8日
-
山形県産白桃が1週間限定セール実施中「ジェイエイてんどうフーズ」で JAタウン2025年9月8日
-
ベトナムでコメ生産のバイオスティミュラント資材の実証実施 日越農業協力対話で覚書 AGRI SMILE2025年9月8日
-
温室効果ガス削減効果を高めたダイズ・根粒菌共生系を開発 農研機構など研究グループ2025年9月8日
-
大阪・関西万博など西日本でのPR活動を本格化 モニュメント設置やビジョン放映 国際園芸博覧会協会2025年9月8日
-
採血せずに牛の血液検査実現 画期的技術を開発 北里大、東京理科大2025年9月8日
-
果樹生産者向け農薬製品の新たな供給契約 日本農薬と締結 BASF2025年9月8日
-
食育プログラム「お米の学校」が20周年 受講者1万500名突破 サタケ2025年9月8日
-
野菜ネタNo.1芸人『野菜王』に桃太郎トマト83.1キロ贈呈 タキイ種苗2025年9月8日
-
誰でも簡単 業務用くだもの皮むき機「FAP-1001匠助」新モデル発売 アストラ2025年9月8日
-
わさび栽培のNEXTAGE シリーズAラウンドで2億円を資金調達2025年9月8日
-
4年ぶり復活 秋を告げる「山形県産 ラ・フランス」9日に発売 JR-Cross2025年9月8日
-
農業現場で環境制御ソリューションに取組「プランツラボラトリー」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年9月8日