農薬:いんたびゅー農業新時代
技術革新で国内外の農業に貢献【小池 好智 クミアイ化学工業(株)代表取締役社長】2017年7月28日
現場に密着して農家をバックアップする
人口が減少し、国内の農業・食料需要は縮小するといわれている。一方、地球的には人口は爆発的に増加し、そのために食料をどう生産して安定的に供給するかが問われている。そうしたなか、優れた開発能力をもつ日本の農薬企業が、世界的な大企業と伍して世界の農業生産に貢献している。その代表的な企業であるクミアイ化学工業(株)(以下、クミ化)の小池好智社長に、イハラケミカル工業(株)(以下、イハラ)との合併も含めてお話いただいた。
◆スピード・コスト・イノベーション
――この春にイハラと合併をしましたが、その理由は何ですか?
 2年前の3月30日に前任の石原社長から引き継いで社長となりましたが、その年の1月にイハラの社長も交替し、両社が新体制になり、その時から事業を成長させるためには、お互い何が必要かを検討してきました。
 そして両社が持続的に発展できる強い企業をめざすには、農薬の創製から研究・開発、原体の調達、製剤、販売に至る両社のプロセスを一体化して経営資源を集中し、迅速かつ的確な意思決定を行い事業リスクを最小化して事業基盤を強化することが最善である、という決断をしました。
 農薬事業は両社にとって大きな事業ですし、約50年前にイハラとクミ化に分離して共同事業を行い、35年前に(株)ケイ・アイ研究所を設立し、共同で開発した新農薬をイハラが原体を製造、クミ化が製剤し販売をしてきましたが、スピード感ある事業展開をするためには、一つになった方がロスがないということです。
 いま海外で高い評価を得ている畑作用除草剤として「アクシーブ」があります。この事業展開を考えると、これまでのやり方だと、海外での穀物価格の下落や市場の変化に対応する意思決定に時間がかかり、調達から販売までにタイムラグが起きるので、一社で判断できるようにと考え、システムを一本化してリスクに耐えうる強い会社にしようということでもあります。
(写真)小池好智・クミアイ化学工業(株)代表取締役社長
――海外での市場動向が大きかったわけですね。
 国内は全国に150人の販売員、普及員がいてJAや県連・全農県本部へ、場合によっては直接農家さんを訪れて推進活動ができます。しかし海外は、海外大手企業や現地販社に販売を依頼するため、なかなか農家の想いが掴みづらいので、すばやく農家ニーズに対応できる体制にしようということです。
 その具体的な例が、6月22日に発表したインドのPI社と「ノミニー」の販売に関するジョイントベンチャーです。こういう合弁会社を設立するうえで、原体はイハラ、製剤・販売はクミ化では、個別に交渉を進めるため時間がかかります。会社が一つになることで、製造から販売まで一体となった事業者としてPI社と交渉して今回の合意となりました。これも経営統合したメリットです。
――社内でも効果がでていますか?
 合併によるシナジー効果として、スピード、コスト、イノベーションの3つがあります。これは製造と販売の垂直統合つまり共同事業の川上と川下が一つになったことによる効果です。
 そして共同事業における資源や投資をより有効に活用しすべての場面でのスピードをあげることで、すべての場面でのコストダウンがはかれ、なおかつ両社の技術者が一体となることで技術革新・イノベーションが生まれます。スピードがコスト競争力をつけ、イノベーションを生む原動力になるということです。
 少しずつであるが、効果が出始めています。
◆日本独自の知的集約型研究開発
――事業については共同で展開してきたので考え方などに大きな違いはないわけですね。
 そうですね。ただし原体合成工場と製剤工場では、機能と管理の仕方が違うのでシステムの統合やクミ化が携わっていなかった化成品事業についての理解を深め、農薬事業に次ぐ柱としてどう拡大していくのかが今後の課題といえます。
 農薬事業では、研究開発部門は、プロセス化学研究所、生物科学研究所、製剤技術研究所、そして両社で設立したケイ・アイ研究所も11月1日に合併し社内4研究所体制とし、効率を高めていきます。
――日本の農薬会社は世界の大企業とは異なり「知的集約型」で開発能力をもつことで生きていけると以前お話いただきましたが...。
 量でこなすものと、知恵を絞って新しいものを開発するのは、違うと考えています。これまでも「新農薬創製本部」という上場会社2社をまたぐ超法規的な組織をつくり、分野の異なる若い人たちがベテランとも連携して、活発に意見を交換してきました。
 これからも、研究員が集まって化合物の評価と次の展開を議論します。例えば生物科学研究所で行う時には、ポットから作物を抜いて根に影響をしているのかそれとも根と茎の間なのかとか、化合物の作用性や安全性に課題があればどこを直せばいいのかを、植物を見ながらいろいろな分野の研究員が集まって議論をします。
 海外の大手企業を見ると部門ごとに独立した組織になっていますが、新生クミアイ化学は、各分野の専門家が一つの社内で入り混じって横断的に知的集約型に研究開発していけるわけです。
――豆つぶ剤とか、製剤方法でも新しい技術を開発してきていますね。
 製剤化つまり商品化力が強いのも当社の特徴です。化合物の力をいかに有効に的確に発揮させるかが製剤技術です。
 とくに日本は水田農業で水を介した農業ですから、除草剤を散布するときに複数成分の水溶解度をどうコントロールするのか、あるいは、育苗箱や田植えなどの栽培技術のなかでどう農薬を的確に使ってもらうかを、省力化と併せて考えているわけです。新しい製剤技術を開発することは、新しい化合物を開発することと同じ商品価値をもっています。
◆日本の技術を世界で活かす
――農業生産技術も新しい技術が出てきていますね。
 農薬散布方法も工夫され、大規模作付面積に合うような技術も登場しています。一番の注目はドローンをどう栽培や農薬防除に活用するかです。
 ドローンによる農薬散布は搭載量が少ないですが、大型機も開発され1haを2~3分で散布できる可能性もあります。注目しているのは豆つぶ剤技術を組み合わせ、1キロ粒剤の4分の1の軽量化がはかれることです。
 そういう意味で、散布装置や農機メーカーとの連携がこれから重要になってくると思います。
――世界的に人口が増加しますが耕地面積は限界があり、食料を確保するには効率化や農業の生産性向上が大きな課題だといわれていますが...。
 農薬を使用することで一定の品質の農産物を安定して供給できる。そのことに貢献できる重要な生産資材だといえます。今後、より省力的で効率よく生産性を向上させ収量アップにつながる技術にも取り組んでいきたいと考えています。
 穀物はビッグ企業が大半を押さえていますが、果樹とか野菜や海外の稲など小規模市場分野にビジネスチャンスがあると考えています。
 東南アジア諸国も経済構造が変化し安定した農産物を生産するために日本の技術を受け入れようとしていますから、そこにも可能性があると思っています。
 例えば先ほどの「ノミニー」はインドで200万haに使われていますが、インドの栽培面積は4300万haなので、拡大の余地があります。
――今後の海外市場はインドですか?
 インドも含めて、アジアは得意とする稲用除草剤、殺菌剤でもう少し浸透していきたいと考えています。後はブラジルです。世界の食料輸出国として大きくなっていくとみています。
 また、畑作除草剤の「アクシーブ」も今後、アジア・南米を含めた登録国、作物、混合剤の拡大を図っていきたいと考えています。
◆より農家に貢献するために
――今後、力をいれていく分野は何ですか。
もうすぐ登録取得して販売に移行するものがいくつかありますが、期待しているのは来年度に登録取得できる水稲用除草剤フェンキノトリオンです。ノビエを除く主要1年生多年生雑草に高い効果があります。水稲及び飼料稲に対して安全性が高く、田植え同時処理や直播栽培に対応でき、規模拡大や生産コスト削減に貢献できると考えています。当社には水稲用除草剤がいくつもありますので、それらと組み合わせた混合剤の準備をしています。いもち病用水稲箱処理剤も今年秋には登録申請できる予定ですので、全農が開発しているウンカ剤と混合することで、より農家に貢献できると考えています。
――最後に生産者やJAの役職員の方へのメッセージをお願いします。
営農指導に代表される農家に密着したJAの活動が非常に大事だと思います。当社の営業部隊もTACの皆さんとの連携推進を取り始めており、さまざまな具体的ご提案をさせていただいています。私たちも現場に密着して農家の方々をバックアップされているJAの皆さんを支援していきたいと思います。
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