農薬:いんたびゅー農業新時代
世界最先端の技術を駆使 日本農業のイノベーションに 的場 稔 シンジェンタ ジャパン(株)代表取締役社長2020年3月13日
シンジェンタ ジャパン(株)は、グローバル企業の強みを活かし、世界最先端の技術や情報を駆使して農薬・種苗だけでなく、日本の農業のイノベーション、持続可能な社会づくりに努めている。的場稔代表取締役社長は、日本の農業の「量」ではなく、技術力を活かした「クオリティ(質)農業」に、その将来性をみる。
企業目的をアピールする的場稔代表取締役社長
――的場社長は2017年10月に就任されたとき、シンジェンタの「グローバルな研究開発力、イノベーション、人材を総動員するとともに農薬・種苗のみならず業種・業界を超えたパートナーシップの強化を進め、総合的な付加価値の高いソリューション構築を通じて社会・農業に貢献する」と語っておられます。この2年でどのように進展していますか。
内外の企業とコラボ
的場 就任当時、私が話してきたことは着実に実行できていると思います。再構築した成長戦略のもと、農薬業界内のパートナーシップで混合新規剤の上市、スマート農業関連など、国内外で様々な企業とのパートナーシップ強化が着実に進んでいます。イノベーションは組み合わせや掛け合わせから創出できることも多く、生産者のニーズに応えるにはパートナーとのコラボレーションがより重要となっています。
グローバルで開発した豊富なイノベーションを日本に持ってくるとともに、我々日本の社員が農業に貢献できる「日本発のイノベーション」を創出していくことでお客様の信頼を勝ち取っていくという文化(ウイニング・カルチャー)をシンジェンタ ジャパン社内で醸成しています。
――御社のグローバルな視点から見て、日本の農業の特徴はどこにありますか。
将来性ある日本農業
的場 日本の農業は、他国とくらべて相対的優位にあると思っています。インフラ、テクノロジー、産官学連携、豊富な人材、フードチェーン、さらにはジャパン・ブランドイメージ(食・農産物)などが揃っている日本には、そうした強みを組み合わせてイノベーションが生み出せる環境があり、戦略次第でボリューム(量)ではなくクオリティ(質)農業国家としてさらに発展する素地があります。
一方、世界には約5億人の小規模農家がありますが、世界の食料の25%しか生産していません。世界的な人口増・食料需要増に対してこのセグメントでの生産性向上は重要な解決策です。アメリカの大規模土地利用型経営と一線を画した中小規模農業で築きあげてきた日本の技術、ソリューションはセンター・オブ・エクセレンスとして貢献できると思います。
日本の農業は人口減・少子高齢化で将来的な魅力が低いと見られがちですが、シンジェンタは、日本は農業でイノベーションを生み出せる魅力的な国と捉えており、一層の投資をしていきます。
イノベーションで日本農業に貢献
――農薬事業で力を入れておられるのは何でしょうか。
的場 私たちが常に考えているのは、「継続的なイノベーションで日本の農業に貢献することを真剣に考え実行する」ことです。アグリビジネス事業では、本年は3つの新ブランドとして、水稲用除草剤「ジャンダルム(R)MXシリーズ」の3製剤、園芸用殺菌剤「オロンディス(R)ウルトラSC」、「アクティガード(R)顆粒水和剤」を上市しました。
さらに日本発のイノベーションとなる水稲湛水直播栽培用種子処理技術「RISOCARE(R)(リゾケア)」を紹介させていただきます。独自の種子処理で安定した出芽、苗立ちを実現し、初期害虫も防除できるなど直播導入の技術的ハードルを下げることができます。移植栽培と組み合わせて、規模拡大だけでなく中山間地域の稲作における労働力不足解消にも貢献できます。
また、RISOCARE(R)はスマート農業技術との親和性があります。乗用播種機、ドローン、無人ヘリコプターなど様々な播種方法が可能で、圃場環境に適した作業ができます。日本の田植えの風景を素敵に変える画期的な技術だと思います。
――DJI(ドローンメーカー)社と連携されています、スマート農業の今後についてはどのようにお考えでしょうか。
的場 DJI社とはグローバルレベルの領域でコラボレーションをしており、中国をはじめ海外でのドローンの展開での経験も含めて、お互いが世界で培った英知を日本の市場に活かせるようにしていきます。
農業分野におけるドローンの普及が加速する一方で、一層の安全運用が求められます。安全、安心をベースにして次のステージを準備しつつ、両社共同で省力的な農薬散布技術と安全運行の確立を目指します。
アメリカやブラジルなど集約化された大規模単一作物におけるスマート農業と、日本におけるスマート農業は違います。日本は、規模拡大する担い手支援とともに小規模、中山間地での持続可能な農業に貢献する日本独自のスマート農業の方向に進むのではないかと考えています。
――シンジェンタジャパンは農薬だけではなく種苗事業も行っていますが、今後力を注ぐ分野は。
フラワー、野菜種子事業も注力
的場 フラワー事業では、革新的な品種開発によって生産者と消費者両方にベネフィットをもたらすことで、園芸市場の活性化に力を入れています。日本で販売を開始したサンフィニティはこれまでのヒマワリとは全く違い、1株で約100輪もの花が次々と咲き、2~3か月楽しめ、全国のテーマパークなどで、お花の楽しみ方の可能性を広げる取り組みとして注力しています。
フラワーの需要創造に力を入れており、大手ホームセンターと協働で「イージー・ケア・コンセプト」の製品で消費者の利便性を高め、需要の拡大に貢献しています。
野菜種子事業部門ではグローバルに展開している優れた作目、品種から、ユニークで競争力が高く日本の生産者、消費者にとって有益なモノを選択して販売しています。全農と提携販売している「アンジェレ」は、これまで日本には無かったヘタ無しの美味しいミニ系トマトを消費者に提供するという生産、販売側の固定観念を覆す取り組みとなり、順調に売り上げを伸ばしています。
本年2月にベルリンで開かれたフルーツ・ロジスティカという世界的生鮮野菜関連の展示会で、シンジェンタの紫トマト「YOOM」がイノヴェーション・アワードを獲得しました。外観が巨峰ブドウの房のような紫色のトマトの見た目のインパクトも大きく、高フラボノイドの品種で似たものがない創造的な品種です。
――自然環境の変化と社会的な要請に対応するための取り組みも行うと発表しておられます。
的場 昨年の北米での大洪水やオーストラリアでの森林火災等、これまでの想定を超える気象で農業被害が起こっています。日本でも、昨今の台風被害や暖冬等、農業に対して大きな脅威だと実感しています。シンジェンタは自然環境と社会的課題に取り組む姿勢を明らかにしました。2019年10月には、農業従事者が直面している気候変動に起因する脅威に対して、5年間で2000億円の投資を表明しました。
シンジェンタは、2013年より持続的な社会発展のための取り組みを「Good Growth Plan」として世界的に展開しています。日本でも生物多様性の維持の取り組みとして「耕作放棄地のお花畑化プロジェクト推進協議会」を設立して、耕作放棄地をお花畑にして養蜂資源、農薬被害の回避場所として貢献する取り組みを進めています。
――国内農業で農協の果たしている役割はどのように考えますか。
SDGsでJA支援
的場 昨今、国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)を経営理念に取り入れる企業が増えていますが、JAグループはまさにSDGsを通じて農業・農村の発展に寄与してきたわけです。国内における食料の安定供給、農地の保全、生産者の社会的な地位向上等、その役割は極めて大きいと考えます。シンジェンタもこれらの課題解決に少しでも貢献していきたいと思います。
最近話題のミシュランの星獲得店数で、東京の1位を始めとして京都、大阪と、世界都市ベスト5に日本の3都市が入りました。それを支えているのは美味しい国産農産物の高い品質です。これは日本農業・生産者として大きな自信・励みになることだと思います。
これをテコに地方創生「グリーンツーリズム」活動を通じて消費者に日本の農村の魅力、農産物の良さを再認識していただき、また、海外への発信を拡大することは素晴らしいことだと思います。
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