農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2021
適期を逃がさず5月から梅雨期 最重要期 ミカン主要病害虫防除のポイント プラントヘルスケア研究所(元佐賀県上場営農センター) 田代 暢哉 氏【現場で役立つ農薬の基礎知識2021】2021年5月6日
ミカン(かんきつ)の病害虫防除を実施するうえで、5月から梅雨期にかけては最も重要な時期にあたる。その理由は、(1)開花期から幼果期にかけては病害虫の種類が多く、被害を最も受けやすい時期であること、(2)発病・発生の初期段階で抑えておかないと、その後の対応が困難になるからだ。そこで、この時期を中心にしながら、ミカン(かんきつ)の病害予防や害虫駆除など、防除のポイントについて、プラントヘルスケア研究所(元佐賀県上場営農センター)の田代暢哉氏に執筆してもらった。
※この記事は2021年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
初期段階の抑制がカギ
主要病害と予防のポイントは次の通り。
【そうか病】
卓効を示すデランの品薄が続いています。手に入らない場合は、ストロビーやナリア、ファンタジスタ、フルーツセイバー、ナティーボなどを用います。
【灰色かび病】
そうか病との同時予防を兼ねて、ストロビーやナリア、ファンタジスタ、フルーツセイバー、ナティーボなどを用います。今年は開花時期が2週間程度早まっているところが多いので、開花の状況をよく見極めて、手遅れのないように散布します。これらの剤は黒点病予防効果もありますが、残効期間は短いので、落弁期頃からの黒点病対策が必要な極早生品種や早生品種では、マンゼブ水和剤を混用します。
【黒点病】
耐雨性に優れるマンゼブ水和剤(ペンコゼブ、ジマンダイセン)を散布します。梅雨期の集中豪雨は一日で数百ミリに達することもあり、600倍での効果は不安定です。500倍でも600倍と同程度です。安定した効果を期待するためには、400倍(ミカンのみ登録)で使用します。
400倍ではチャノキイロアザミウマの被害も抑制されます。効果が切れる前の散布を心がけます。効果の持続期間は散布後の累積降雨量で判断できます。600倍散布で200ミリ、400倍散布で300ミリが目安です。散布後24時間以内に雨にあうと効果が低下するので、気象情報をこまめにチェックして散布します。
なお、97%マシン油乳剤やパラフィン系固着剤のアビオンEの加用で耐雨性が高まり、次回散布までの累積降雨量で100ミリ程度の延長が図られます。一方で、7月に入ってからのマシン油乳剤使用は果実糖度の低下を引き起こすので、6月末までの使用に限ります。
また、ここ数年、9月以降の後期被害が目立っています。マンゼブ水和剤は4回までの使用に限られるので、もう使えない場合には、ストロビーやナティーボ、有機銅で対応します。
過去被害園予防策考え
【褐色腐敗病】
急激にまん延するので、発生してからの散布では手遅れです。過去に被害を受けた園では予防策として8月下旬~9月上旬に後期黒点病との同時防除を兼ねてマンゼブ水和剤を散布します。
発生を認めたら直ちにレーバス、ジャストフィット、ランマン、アリエッティで対応します。なお、アリエッティは9月下旬までの高温時に散布すると果実に激しい薬害を生じるので、散布時の天候に注意が必要です。
【かいよう病】
本病の防除は2月下旬~5月下旬までに重点的に行っておかなければなりません。5月下旬までの散布で春葉に病斑を作らせないことが、果実発病を抑えるために必須です。果実に発病してからの対応では手遅れです。とはいっても、発生した園では被害の拡大を抑えなければなりません。
無機銅剤のなかで効果が最も高いのはICボルドーです。果実でスターメラノーズが問題になる梅雨期以降は希釈倍数を200倍とし、さらに炭酸カルシウム剤(クレフノン等)を200倍で加用します。
台風の通過後に被害が拡大するので、必ず襲来前に無機銅水和剤を散布しておきます。台風が近づいてくると、他の対策に手をとられるので、早めに散布したほうが無難です。襲来一週間前の散布でも十分な効果が得られます。
抗生物質剤のマイコシールドとの混用散布を行う場合は襲来3日前頃が適期です。台風が通過した後の散布では効果はありません。
【果実腐敗】
白かび病、緑かび病、青かび病、軸腐病などの腐敗果実の発生は取引価格の低下と産地のイメージダウンにつながるので、徹底した対応が必要です。
果実肥大期の炭酸カルシウム剤散布は果実体質の強化に有効で、腐敗果の発生が少なくなります。収穫前にはベンレート水和剤あるいはトップジンM水和剤にベフラン液剤25を混用して散布します。混合剤のベフトップジンフロアブルも同様の効果があります。
パラフィン系固着剤の加用で防腐効果が高まります。
害虫防除は先手必勝 残効見極め情報気配り
ミカン(かんきつ)の主要害虫と駆除のポイントは次の通り。
【果樹カメムシ類】
今年は4月から8月上旬までの前期の発生は少ないと予想されている地域が多いようです。しかし、山林からの飛来時期・量は地域や場所によって大きく違うので、日頃から防除所や普及センター、農協が出す情報に気を配っておきます。大量の連続飛来が始まってからの対応では手遅れです。
使用する薬剤はテルスターやマブリック、MR. ジョーカーなどの合成ピレスロイド剤またはアルバリンやスタークル、ダントツ、アクタラなどのネオニコチノイド剤です。有機リン剤の残効は極めて短いので、大量飛来が予想されている場合は使用しません。
なお、合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤を散布するとミカンハダニやカイガラムシ類が急激に増殖するので、果実にまでミカンハダニの被害が及ぶようであれば殺ダニ剤の散布が必要です。
【チャノキイロアザミウマ】
5月下旬から9月にかけて飛来し、長期にわたって被害を及ぼします。このため、飛来時期に合わせた散布が大切です。合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤、マクロライド剤、IGR剤、ジアミド剤など多くの剤がありますが、地域によっては抵抗性発達のために効果が不安定な場合もあります。
このため、地元の指導機関などに問い合わせて、効果的な剤を散布することが大切です。
また、果実の品質向上目的で使用される光反射マルチの設置も被害軽減に有効です。
【ミカンサビダニ】
梅雨明け後の散布では手遅れで、6月上旬からの早目の対応が必要です。サビダニ専用剤としてサンマイトやダニカットなどがあります。スリップス類の被害が多い園では同時駆除剤としてコテツやマッチ、ハチハチ、アニキ、アグリメック、ファインセーブを用います。多発が心配される園では、8月下旬に散布する殺ダニ剤にミカンサビダニにも効果の高い種類を選びます。
【チャノホコリダニ】
これまではハウスでの被害が主でしたが、昨年は西日本の多くの産地で幼果期の被害が問題になりました。落弁直後から果実に寄生しますが、小さく見えづらいので、手遅れにならないように対応します。チャノキイロアザミウマやミカンサビダニと同時に駆除します。
【マルカイガラムシ類】
収穫前になって被害に気づく場合が多く、手遅れになりやすい害虫です。冬季にマシン油乳剤を散布することが少なくなったこと、6月に使用される殺虫剤が有機リン剤から本種に効果の低いネオニコチノイド系剤へシフトしていること、散布ムラが多いこと(特にスプリンクラー散布やSS散布の場合)が最近の多発生の原因です。
他のカイガラムシ類よりも早い5月下旬からの散布が必要です。8月下旬の仕上げ摘果の際に寄生果実を見つけたら、直ちに有機リン剤を散布します。
【ミカンハダニ】
果実への寄生は商品価値を大きく低下させるので、8月下旬から9月上旬にかけて殺ダニ剤を散布します。この時点で発生していなければその必要はありません。
その後の発生に応じて対応します。殺ダニ剤の効果低下の問題は以前に比べて少なくなっており、多くの剤で安定した効果が期待できます。
ただし、抵抗性の発達を遅らせるために、同一薬剤を毎年連続して使ってはいけません。ここ数年で使用していない殺ダニ剤を散布します。
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