農薬:防除学習帖
トマト病害虫雑草防除のネタ帳 施用法③【防除学習帖】第203回2023年6月10日
防除学習帖では、現在農薬の施用法について紹介しており、施用法自体は農薬散布全体に関係するものなので、作物を限定せずにご紹介している。
農薬には様々な製剤があって使い方も様々であり、これを安全にかつ上手に使いこなすためには、農薬の取り扱いやそれぞれに応じた施用法を知る必要がある。そのため、農薬の製剤や上手な施用法について、それらの基礎的な知識について順次紹介している。
1.薬液の作物への付着について
そもそも薬液が作物に付着するとは、噴霧ノズルから噴出された平均200~300ミクロンの農薬の有効成分を含んだ小さな水滴が作物の表面にくっつくことをいう。そうして、有効成分が作物の葉や茎や花などの表面を覆ったり、作物組織の内部に浸透したりして、病害虫や雑草に効果を示すことになる。
ただ、この付着は一筋縄にはいかない。なぜなら、作物の表面は、ワックス層で覆われていたり、うぶ毛が生えていたりと、とにかく水をはじきやすいものが多いからである。
このことは、イネの葉やネギの葉を思い浮かべれば容易に想像できるだろう。なので、普通の薬液は、このような濡れにくい作物の場合は散布しても大部分が流れ落ちるばかりで、作物上に残ってくれるのはごくわずかということになってしまう。
2.作物の付着向上に展着剤を正しく使用
そこで登場するのが展着剤である。展着剤は、界面活性剤という油に溶けやすい部分と水に溶けやすい部分の2つを併せ持つ成分が主成分であり、水滴が付着しにくい作物表面に油に溶けやすい部分がくっつき、そのもう一方の水に溶けやすい部分が薬液の水滴にくっついて、水をはじきやすい作物を濡れやすくしてくれる。この性能を湿展(ぬれ)性という。 展着剤に限ったことではないが、展着剤に用途どおりの最高の性能を発揮させるためには、用法・用量をきちんと守ることである。
なぜなら、展着剤のぬれ性は、展着剤の量が少ないと十分に発揮できないし、逆に量が多すぎると、逆に薬液がしたたり落ちるようになって付着量が少なくなる。展着剤は濃ければいいというものではなく、指定されたほど良い量というものがあることをよく理解しておいてほしい。
3.作物による「ぬれ性」の違いを考慮して使用
さらに、作物の表面が濡れやすいかどうかによって展着剤の使用方法は異なる。ぬれやすい作物の場合は、水とくっつきやすい性質を持っているので、油とくっつく性質をもった展着剤を加えると逆に薬液が作物をはじいて(水と油の関係になる)したたり落ちて付着が悪くなる。そのため、展着剤の場合は、使用濃度を誤ると展着効果どころか、かえって付着を悪くしてしまうことがあるので、ラベル記載の用法・用量を確実に守ることが基本だ。
作物のぬれ性と展着剤の要否の関係を下表に示すので参考にしてほしい。
(1) よくぬれる作物の場合
よくぬれる作物はインゲンやサツマイモ、リンゴやミカンなどの果樹に多いが、これらの作物の場合は、展着剤を使用すると、ぬれが良くなりすぎて薬剤が流れ落ちるため付着が悪くなる。特に乳剤の場合は、製剤の中に界面活性剤が1割程度含まれるので、乳剤を展着剤無しで散布しても、展着剤を加用したのと同じことになり流れ落ちやすくなる。このため、界面活性剤を多く含む乳剤では、本来の有効成分の効果が十分に発揮できない場合が多い。
(2) 中程度ぬれる作物の場合
中程度にぬれるものは、イチゴやトマト、メロンなど果菜類に多い。この場合、乳剤を使用する場合は、乳剤に含まれる界面活性剤で展着効果があるため展着剤の添加は不要であることが多い。対して乳剤以外を使用する場合は、少量の展着剤の添加が必要になることが多い。いずれにしても、展着剤に貼付のラベルをよく確認して、作物や添加量など用法・用量を確実に守って使用する。
(3) ぬれが悪い作物の場合
ぬれが悪い作物は、イネやムギ類、ダイズ、ネギなど、表面がワックス層で覆われツルツルしているものが多い。ぬれが悪い作物の場合は、基本的に展着剤が必要となる。乳剤は、製剤の中に界面活性剤を多く含むが、それだけでは足りないことが多いので、乳剤であっても展着剤を加用すると付着がよくなる。いずれにしても、展着剤に貼付のラベルをよく確認して、作物や添加量など用法・用量を確実に守って使用する。
4.展着剤の種類
界面活性剤にはいくつも種類があり、薬液の中に有効成分が均一になる乳化や分散性を向上させるもの、作物表面への固着力を強化するもの、作物体内への浸透力を高めるもの、水和剤など鉱物質キャリアの製剤が水の中で均一になるのを助ける懸濁性を高めるもの、希釈液をつくる際に発生する泡を抑える消泡効果を示すものなどがある。
つまり、展着剤がどのような性能を持っているか、どんな用途で使うものかは、展着剤に含まれる界面活性剤の種類によって決まる。通常、展着剤のラベルには、「濡れ性向上」などと目的が明記されているので、ラベルをよく確認して使用すること。
一部補足すると、固着性の展着剤は、樹脂エステルやパラフィンを主成分として、薬液の固着性をよくして長く作物に付着する働きをする。銅剤やマンゼブ剤など保護殺菌剤などによく使用され、薬剤の残効を長くすることができる。
また、薬液の浸透性を高める効果に優れるものを、機能性展着剤と呼んでおり、商品名ではアプローチBIやニーズ等である。この機能性展着剤は、高濃度で使用して、農薬成分の作物体内への浸透力を高める機能を示し、散布後の雨に強くなったり、残効が長くなったりといった効果がある。ただし、農薬成分と作物との組み合わせによっては、成分が多く浸透することによる薬害が生じることもあるので、使用できる作物はじめ、用法・用量に十分に注意する必要がある。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日