農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(10)空中散布【防除学習帖】 第216回2023年9月16日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
現在、水稲栽培を種子消毒、播種・育苗期、移植、生育期、収穫期の五つに分け、その時期の農薬の使用場面ごとにみどり戦略対策の方向を探っており、前回、生育期~収穫期の病害虫防除について検証し、本田粒剤1回+地上散布2回の体系を比較した。今回は、地上散布を空中散布にした場合の例について比較する。
1.生育期~収穫期の空中散布
前回紹介したように、この時期に発生する病害虫は、米の品質に大きく影響するものが多いため、丁寧な防除が行われることが多い。その防除法の一つに無人ヘリによる空中散布がある。空中散布は、合計2回実施されることが多いので、地上散布と比較しやすいように前回使用した体系1~3のいもち初発前本田粒剤を省いた地上散布2回の体系(1~3)と比較してみる。
対象病害虫は、いもち病、ウンカ、ニカメイチュウ、穂枯れおよび斑点米カメムシ類を対象として、実際の防除暦を参考に次のような防除体系を例に考えてみる。
体系1:いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(散布剤B) (散布剤C)
体系2:いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(散布剤F) (散布剤G)
体系3:斑点米カメムシ→ 穂枯れ・斑点米カメムシ
(殺虫粒剤K) (散布剤L)
体系4:いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(空中散布剤M) (空中散布剤N)
体系5:いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(空中散布剤H) (空中散布剤J)
2.使用する薬剤のリスク換算量比較
体系例で使用される薬剤毎のリスク換算量を計算すると以下のとおりになる。
リスク換算量から考えると、空中散布剤は、濃厚少量散布が基本となるためか、リスク換算量も地上散布剤よりも少なくなる。例えば、下記の体系で最もリスク換算量の多い体系1が52.5であるのに対し、最もリスク換算量の少ない体系5が13.3であり、約4倍の開きがある。
同じ有効成分であれば、地上散布の粒剤や粉剤のリスク換算量が最も大きく、それよりも水に希釈して地上散布するフロアブル剤などが小さく、さらに希釈空中散布剤が小さくなる。このように、リスク換算量を減らすことだけを考えれば、同じ有効成分であれば、空中散布剤を選択した方がリスク換算量を減らせる計算になる。
周辺作物へのドリフトの影響などから、空中散布が選ばれない地域もあるかと思うが、あくまで散布方法でリスク換算量の少ない体系を選ぶとすると空中散布を取り入れた体系の方が実はリスク換算量を減らせる防除体系であると言える。
3.対策の考え方
殺虫殺菌剤も除草剤と同様に、リスク係数が小さく、有効成分含量が少ない薬剤の方がリスク換算量も少なくなるので、効果が同じであればリスク換算量の少ないものに変更することで10aあたりのリスク換算量を減らすことができる。ただし、きちんと防除できることが最優先なので、あくまで防除効果を優先して検討してほしい。
その原則を踏まえた上でリスク換算量を減らす方法としては、効果が同じ薬剤で、よりリスク換算量の少ない有効成分を含む製品に変更する。ただし、有効成分が変わると防除効果が変わることも多いので、効果が同等であることを確認して変更するように心がける。
なお、実は空中散布はリスク換算量が少ない散布方法なので、現行の防除体系で地上散布剤を使用している場合は、それと同じ有効成分の空中散布剤に変更することで、防除効果を変えずに、多くて25%程度もリスク換算量を減らせる(上記体系例比較)計算になる。
重要な記事
最新の記事
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(2)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【全中・経営ビジョンセミナー】伝統産業「熊野筆」と広島県信用組合に学ぶ 協同組織と地域金融機関の連携2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
「いざ土づくり!美味しい富山を届けよう!」秋の土づくり運動を推進 富山県JAグループ2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日