農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(6)【防除学習帖】 第245回2024年4月13日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探る必要がある。そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、どのようにIPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか検討してみたいと考えている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。化学的防除に関しては、既に検証・紹介し、みどり戦略対策の考え方を一定程度整理したので、その次の段階として化学的防除以外の防除法にどのような技術があるのか、その詳細を紹介しながら、導入にあたっての留意点を紹介している。
現在、生物的防除による病害虫防除を紹介しており、今回は害虫防除に利用される性フェロモン剤を紹介する。
1.性フェロモン剤とは
昆虫は、次世代を残すために、メスが性フェロモンを放出し、オスがそのフェロモンを頼りにメスを探し出し、交尾をする。いわゆる求愛行動に欠かせない物質で、害虫の種ごとに異なっている。このメスが出すフェロモンを特定し、それに似たものを人口的に作り上げ、それを利用しているのがフェロモン剤である。
フェロモン剤には、大きく分けて「交信かく乱型」と「誘因型」があり、それぞれで効果を示すメカニズムが異なる。
(1)誘因型
文字通り、特定の害虫メスのフェロモンに似た物質(「ルアー」という)を人口的に作り出し、そのルアーを粘着シートや捕殺容器などに設置し、害虫のオスをおびき寄せて殺虫するものである。結果として害虫が交尾する機会が減るため、農作物被害の大半を占める幼虫の発生が減るという仕組みである。このことは、モンシロチョウとその幼虫であるアオムシを想像すればわかりやすい。モンシロチョウの成虫は蜜を吸うだけで、作物に直接的な被害は起こさないが、幼虫であるアオムシは作物の葉っぱを手あたり次第に食べてボロボロにし、作物の生育被害を起こす。つまり、幼虫が現れなければ作物の被害は無いわけで、幼虫をつくらないためには、交尾を邪魔すればよいことになる。
この誘因型は、オスとメスの出会いを徹底的に邪魔するためには、特に広いほ場では複数個所に設置しないと満足な結果が得られない。ゴキブリホイホイと似ており、設置数が少ないと、どうしてもトラップを逃れて交尾を果たすオスが出てくるためである。
このため、この誘因型はもっぱら害虫発生の時期や量を観測するフェロモントラップとして予察事業に活用されることが多い。
(2)交信かく乱型
現在流通しているフェロモン剤の多くはこのタイプである。
交信かく乱型が防除効果を発揮するメカニズムは、メスのフェロモンに似た物質をほ場全体に漂わせることで煙幕を張り、メスの位置を特定できないようにすることである。つまり、メスを探そうにも、あたり一面に魅力的なメスの匂いが漂い、本物のメスを探そうにも探し出せなくして交尾を邪魔するのである。
ただ例外もある。それは、たまに行き当たりバッタリで偶然にも本物のメスと出会うことに成功するオスがわずかながらもいたり、フェロモンが設置されていない畑などで交尾を済ませたメスが、フェロモン設置の畑に飛び込んでくる場合などである。
2.フェロモン剤の上手な使い方
(1)誘因型
誘因型は、前述のとおり予察に使われることが多いが、一部防除目的に使用されるフェロモン剤もある。
フェロモン剤ごとに最も効果の出る設置の仕方が異なるので、使用上の注意をよく読み、正しく使用する。
(2)交信かく乱型
交信かく乱型は、その目的から交尾阻害型とも呼ばれる。このタイプのフェロモン剤は、ロープ状かスティック状のディスペンサーと呼ばれる専用容器にフェロモン様物質が封入されており、そのディスペンサーから徐々にフェロモン様物質が放出されてほ場内を漂い効果を示す。
使い方は単純で、ディスペンサーを定められた用法を守って設置するだけである。
用法には、害虫の特性から割り出され、実地試験によって効果を確かめられた方法が示されており、具体的には単位面積あたりの設置本数・長さ、設置間隔、設置垂直位置などが定められている。フェロモンの効果を最大限発揮させるには、この用法を確実に守って使用することにつきる。ただ、10aに数百本のディスペンサーを設置しなければならないものもあり、設置には労力がかかることは覚悟しておいてほしい。その分、農薬散布の量や回数を大幅に減らして、害虫の被害を格段に軽減できるというメリットもある。
この交信かく乱型は、広い面積単位で一斉に使用する方が効果も安定しやすく、事例では、20~30haほどのまとまった面積が必要だとされている。もし、作付けのほ場が飛び石になるようであれば、作物が作付けされていない部分にもディスペンサーを設置する方が効果は安定するが経費的な課題も残る。ただ、フェロモン剤は、できるだけまとまったほ場単位(産地単位)で一斉に設置した方が効果も安定することを理解しておいてほしい。
また、ほ場の周囲(連続したほ場の周囲)ではどうしてもフェロモン煙幕に隙間ができやすくなるので、周囲ではディスペンサー量を多くすると良い。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(121) -改正食料・農業・農村基本法(7)-2024年12月7日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(38) 【防除学習帖】第277回2024年12月7日
-
農薬の正しい使い方(11)【今さら聞けない営農情報】第277回2024年12月7日
-
水田活用の直接支払交付金 十分な予算を 自民議員が農相に要請2024年12月6日
-
(412)寿司とピザ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月6日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】議論の前提が間違っている~人口問題、農業就業者問題2024年12月6日
-
JA共済連が「隠レア野菜プロジェクト」に取り組む理由 食品ロス削減で地域貢献へ2024年12月6日
-
国産飼料増強 耕畜連携を農業モデルに 企画部会で議論2024年12月6日
-
農林中金がグリーンボンドに300百万豪ドル投資 生物多様化の保全啓発に寄与2024年12月6日
-
鳥インフル 米オレゴン州、テネシー州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月6日
-
JAみっかび「三ヶ日みかん」7日放送のTBS『王様のブランチ』に登場2024年12月6日
-
家畜へ感謝 獣魂祭で祈り JA鶴岡2024年12月6日
-
「秋田県産あきたこまち40周年記念フェア」仙台と銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年12月6日
-
野菜の総括 2024年は野菜にとって苦難の年 タキイ種苗2024年12月6日
-
米を選ぶ理由は「おいしいから」63.1%「お米についてのアンケート調査」日本生協連2024年12月6日
-
熊本県産デコポンPR 東京・大阪で初売りセレモニー JA熊本果実連2024年12月6日
-
「奈良のいちごフェア」9日から開催 ホテル日航奈良2024年12月6日
-
雑穀の専門家を育成「第8回 雑穀アドバイザー講座」開催 日本雑穀協会2024年12月6日
-
埼玉に「コメリハード&グリーン秩父永田店」12月21日に新規開店2024年12月6日
-
アイリスオーヤマ 宮城県と包括連携協定締結 パックごはん輸出で県産米販路拡大へ2024年12月6日