農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(11)【防除学習帖】 第250回2024年5月18日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。前回から物理的防除について紹介しており、今回は物理的防除のうち、雑草退治を目的とした防除法を紹介する。
1.手取り除草・草刈鎌の使用
病害虫と同様に、もっとも単純な物理的防除は手取り除草である。文字どおり、雑草を手で抜き去る方法であるが、地上部だけを取り除いても根が残っていると再生してくる雑草種も多いので、できるだけ根も残さず、それこそ根こそぎ抜き去るようにしたい。根こそぎ抜こうとすると力もいるし、時間もかかるので効率が悪く、相当の労力がかかるので対応できる面積は小さい。
また、水田の強害草であるクログワイなど地下茎で増える多年生雑草などは、地下茎が形成されたあとでは、根こそぎ抜くのが困難になるので、そういった雑草は、まだ小さい実生の時に根こそぎ取るように心掛ける。
一方、草刈鎌は、雑草の地上部をそぎ落とすように除草するか、根が浅い雑草であれば根こそぎこそぐように抜くことができる道具である。手取り作業よりは圧倒的に効率の良い除草ができるので、小面積や畝間などの除草に向いている。
2.刈払い機・ロボット草刈機
エンジン式、電動式と多種が販売されており、農業現場による雑草防除には最も多く使用されている物理的防除法である。使い方は説明不要と思われるが、円盤状の刃かナイロンチップを機械に装着して回転力により草を刈る機械である。円盤状の刃を使用する場合は、高速に回転する刃により、小石やゴミをはじき飛ばしたり、誤って他の作業者を傷つけたりといった事故も多く発生しているので、十分な安全対策が必要である。特に、畦畔や法面での傾斜のある場所での作業では、体が安定せず、転倒などの事故も発生しやすいので、こういった場所での作業には細心の注意が必要である。
近年は、こういった危険な現場での草刈り作業を補うために、ロボット草刈機が多くのメーカーが開発し、供給されている。多くはリモコンによる操作で、一部では自動走行により、多少の傾斜をものともせず、草刈りを実行できる。対応する傾斜角度や生えている雑草の量などにより対応できない場面もあるが、改良をすすめ多くの農業場面でも使用できることから機械の開発・普及が進んでいる。
3.熱を利用する物理的防除で雑草防除を行う場合の留意点
雑草も生物なので、一定の温度以上で発芽能力が低下したり、失ったり、細胞が死んで枯れたりする。なので、雑草を熱で防除する方法は、基本的に病害虫の熱処理技術と変わりはなく、どちらかというと、病害虫防除のために熱処理することで、雑草も減らせると考えておいた方が良い。
というのも、雑草の発芽能率を均一に奪うにはおよそ70℃以上の温度が必要で、病害虫防除の60℃よりも10℃も高く、病害虫の時よりもさらに多くの時間とコストがかかってしまい、雑草撲滅のために熱処理を使用しようとすると、経済的に合う処理ができないからである。
また、雑草の種や地下茎は、地表近くの浅いところから40cm以上の深いところに存在することもあり、現行の熱処理技術ではこのような地下深くまで温度上昇させることはかなり難しい。このため、病害虫防除で行われる60℃程度の熱では、地表面近くにある1年生雑草種子などは防除可能だが、深いところにある種子や地下茎は、その居場所が深くなればなるほど防除が難しくなる。
4.黒色マルチ
植物は太陽光を浴びて光合成をしながら生育するので、太陽光を遮断されると発芽や生育が抑制される。このことを利用し、圃場を黒色マルチで覆って、雑草に光が届かないようにし、雑草の発芽や生育を抑制する方法である。優れた除草法ではあるが、設置労力と経費が多くかかることから使用できる作物が限られる場合もあるが、利用できる際は積極活用したい。
また、最近は、廃プラスティック問題から廃マルチを減らす目的で生分解性マルチの活用も増えている。この生分解性マルチは、設置費自体は増加するが、廃棄の際の廃棄コストや労働時間、労働費を減らすことができるので、トータル生産コストの低減が可能な資材であること、加えて、SDGsにも貢献できるメリットがあることから、近年使用量が増えている。
5.除草シート
黒色マルチと同様に太陽光を遮ることで除草効果を発揮するものである。水田で使用する紙シートや畦畔を丸ごと覆う畦畔シートなどがある。設置効果をあげるためには、作業を丁寧に行い、地表面と隙間が無くなるように被覆するのがコツである。
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