「リン酸」の吸収・利用効率を高める新手法開発 肥料低減で農業へ応用に期待 東京工科大2022年11月30日
東京工科大学応用生物学部の多田雄一教授らの研究チームは、植物の重要な栄養素「リン酸」の吸収・利用効率を高める新手法を開発。低リン酸および通常のリン酸の両条件において高い生産性を示す植物の作出に成功した。
リンは植物に必要な三大栄養素(窒素、リン、カリウム)のひとつで、核酸、細胞膜成分、エネルギー代謝産物などに利用される重要な元素。植物はリンをリン酸として吸収するが、土壌中で不溶態になりやすく吸収されにくい成分で、植物の成長の制限要因になっている。また、肥料として散布されたリン酸の作物による吸収率は1〜3割程度という研究報告もある。
一方、植物に吸収されなかったリン酸は、川や湖沼に流出。富栄養化といった環境への影響も懸念され、リン酸肥料の原料であるリン鉱石資源は、埋蔵量が有限で石油よりも早く枯渇すると予測されている。こうした理由から、植物のリン酸吸収とその利用効率を改善することは、持続可能な農業を実現する上で重要な育種目標となっている。
従来の研究では、リン酸の吸収と輸送を担うタンパク質である「リン酸トランスポーター」を植物全体で強化する手法が用いられてきたが、成長改善よりも阻害が生じるケースも多く報告されている。そこで、同研究チームは、リン酸トランスポーターを植物全体で強化することがリン酸の吸収と輸送をかく乱していると考え、根の表皮で特異的にリン酸トランスポーターを発現させた。
具体的には、シロイヌナズナの根の表皮で強く働くAKT1プロモーターで制御したコムギ由来のリン酸トランスポーター遺伝子(TaPT2)をシロイヌナズナに組み込み、その効果を検証。根の表皮で働くAKT1プロモーターで制御したリン酸トランスポーター遺伝子を組み込んだシロイヌナズナは、通常のシロイヌナズナ(非組換え)と比べて、低リン酸条件でも通常リン酸条件でも成長が促進され、葉茎の大きさや茎の太さが増大した(図1、図2)。また、植物体あたりのリン酸吸収量の増加も確認された。
図1:リン酸トランスポーター強化したシロイヌナズナの茎葉重量(A:通常リン酸条件 B:低リン酸条件)
図2:リン酸トランスポーターを強化したシロイヌナズナ(通常リン酸条件)
一方、植物全体で働くACT8プロモーターで制御した場合は、成長は促進されない、もしくは阻害が観察された。これらの結果から、植物におけるリン酸の吸収と輸送における律速段階は、根の表皮における吸収能力で、その後のリン酸の輸送能力には余力があることがわかった。また、植物全体でリン酸トランスポーターを強化した場合には、リン酸の吸収・輸送経路がかく乱されることで成長に悪影響を与えることが示された。
同研究により、根の表皮特異的にリン酸トランスポーターを強化することで、植物によるリン酸の吸収・利用効率を大きく改善できる可能性が示された。これは従来の研究では確認されていなかった効果で、リン酸肥料を低減した持続可能な作物栽培や、肥料コストの削減などへの応用が期待される。
また、肥料の入手が困難な地域での食糧増産や、リンの環境への流出の軽減、有限なリン鉱石資源の節約など、SDGsの達成にも貢献する技術として期待される。
同研究成果は11月19日、植物科学専門誌『Plant Science』電子版に掲載された。
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