ダイズと根粒菌の共生でN2O削減の新技術 世界的産地での普及や品種の作出進める 農研機構2025年9月9日
農研機構は、東北大学、帯広畜産大学、理化学研究所との研究チームで開発した、ダイズと根粒菌によって農地からの温室効果ガスの一酸化二窒素(N2O)放出を抑制する新技術について説明会を開いた。新技術には課題もある一方、今後はN2O削減根粒菌資材を海外大産地に普及したり、国内ではダイズの品種改良などに取り組む方針も解説した。
新技術は、N2Oを窒素(N2)に還元する能力を持つ根粒菌株を、ダイズに「優占」(支配的に定着)させる仕組み。破壊的イノベーション創出を目指す「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ムーンショット型研究開発事業」(内閣府)として進められている。
根粒菌はマメ科植物の根に感染して「根粒」を形成し、窒素固定を行う有用微生物だが、収穫後に根粒が崩壊すると残渣からN2Oが放出される。N2O削減能力が高い根粒菌としては、東北大学が単離した「SG09」があるが、今回は研究チームが新たに3菌株(「OSA024」「GMA461」「FY2」)を単離した。
エフェクターの有無による感染の違い
エフェクターの有無による感染の違い
多くのほ場では、N2O分解能力が低い、あるいは分解できない土着根粒菌が多く存在する。削減菌は土着菌と競合し、根に形成される根粒を優占できない。そこで、ダイズに「不和合性遺伝子」(特定の菌の感染を阻止する遺伝子)を導入し、感染時に根粒菌が分泌する「エフェクター」(感染に関与するタンパク質)を認識して土着菌を排除。さらにエフェクターを欠損させたN2O削減根粒菌を組み合わせ、削減菌を優占的に共生させる新技術として開発。これらの特許出願も行っている。
実験室での検証結果
ほ場での検証結果
実験室での検証では、不和合性遺伝子を集積したダイズに接種した場合、N2O削減根粒菌の占有率は92%に達し、N2O放出量は遺伝子を持たない通常のダイズに比べて15%に減少した。一方、東北大学の宮城県内ほ場での検証では、占有率は64%、N2O放出量は不和合性遺伝子を持たないダイズに比べて26%に減少。高い削減効果が確認された。
解説する農研機構生物機能利用研究部門作物生長機構研究領域の今泉温子グループ長(右)と西田帆那研究員(左)
一方、課題も残る。東北大学の研究によると、N2O削減効果は「根粒など嫌気的な環境下で発揮される」とされ、菌を散布するだけでは全ての土壌で効果を発揮させるのは難しい。このため「根粒菌以外のN2O削減微生物を用いた一般的なほ場での削減技術」の研究も並行して進めている。
また、ほ場試験では「根粒菌が定着しにくい。菌に適した土壌であれば残る可能性もある」とし、解析を継続している。定着しない場合は「毎年接種する資材として利用する方法」も検討されている。
今後の方針について、NEDOのプロジェクトでは「まずはN2O削減根粒菌を資材として普及品種のダイズに接種し、N2O削減を図る」方針。今年夏には、ダイズの世界的な産地である、ブラジルやアルゼンチンに資材としての展開に向けて働きかけを始めた。
また、ダイズに不和合性遺伝子を持たせる技術は、農研機構が「日本の代表的な品種に交配で不和合性遺伝子を入れた品種の作出」も進めている。ただ、こうした品種の作出には時間がかかるとしている。
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