栽培技術:薬草産業の将来展望
【シリーズ・薬草産業の将来展望】農商工連携で「薬都富山」を復活2014年6月5日
【鼎談】
川村人志氏・高岡商工会議所会頭
穴田甚朗氏・富山県農業協同組合中央会会長
加藤一郎氏・(株)ジュリス・キャタリスト代表(前全農代表理事専務)
・大手製薬会社と契約栽培
・植物工場で雇用創出
・放棄地の活用で農業所得向上
・マーケットをどう創るのか
・6次産業化で新しい産業に
・生産から販売までコーディネーターが
より良い社会経済を築きあげるためには、都市と地方のバランスの取れた発展が必要であり、地域社会の「現場」の連携は雇用拡大、地域経済を発展させる鍵になる。富山県は「薬都富山の復活」に向けて農商工連携、産学官連携のもと、新しい地域産業の創生に向けて動き始めている。
そこで、その中心的役割を担っている川村人志高岡商工会議所会頭と穴田甚朗富山県農業協同組合中央会会長のお話しを聞くことにした。司会は(株)ジュリス・キャタリスト代表の加藤一郎氏。
◆大手製薬会社と契約栽培
加藤 富山県の石井知事は、川村会頭や穴田会長の要請に素早く対応されて、神奈川県の黒岩知事、奈良県の荒井知事がすすめていた「漢方産業化推進協議会」に参加され、戦略特区申請の共同提案をされました。同時に石井知事は林農相と会談をされて、農水省の「薬用作物等産地確立支援事業」を活用し、国の予算に県の予算を加えて、「富山県薬用作物等実用化研究会」を立ち上げられ、JAグループと商工会議所が農商工連携、県行政・研究機関・大学などが産官学連携して薬草などの産業化の取組みを進めておられます。
富山県では、(株)中部通商がビジネスマッチングとして富山市内のJAと大手生薬会社との薬草の契約栽培を実現していますが、穴田会長はこうした一連の動きについてどう考えておられますか。
穴田 大手生薬会社との契約栽培は富山の薬草のブランド価値を高めることで、現場として非常に良かったと思います。
富山県は米を中心とした農業が主です。また多くの働き口がありますから農家の兼業化率が高い県でもあります。しかし、毎年、全国の米消費が減少していますから、“米過剰”になっています。そのために米だけに頼る農業からの転換が必要だと考えていました。
そして“薬の富山”といわれてきたのだから、薬草をどうにかできないかと思っておりました。その時には、他産業とも連携して一貫した形で取組みたいとも考えておりましたところ、川村会頭からお話があり、参加をさせていただきました。
いま、県内でも“やろう”という機運になってきたとみています。試行錯誤すると思いますが、良い方向にもっていき、来年春には新幹線が開通しますが、そのときに“富山の薬草はすごい”といわれたいと思います。
◆植物工場で雇用創出
加藤 川村会頭は、三協立山(株)の相談役でもあります。三協立山は東京駅丸の内駅舎のビル用サッシを開発し、重要文化財の価値を損なわずに修復されています。そうしたことから、農業とは無縁な会社というイメージが強いのですが、実は独自の技術をもって密閉型植物工場を建設してレタスやハーブ類の生産・販売をなされています。そうした立場の川村会頭は、富山県の農業をどうみておられますか。
川村 三協アルミ(現・三協立山)の創立理念は、この地域で雇用を創出し、地域の発展に寄与していくことです。社名の「三協」とは、地域・従業員・得意先の三者が協力し合って互いに発展し社会に貢献していこうという意味です。
そして、富山をアルミの産地にしたいという大きな目標を掲げました。時代の変化でアルミの需要が増え、協力業者も入れると一時は1万5000人規模にまでなりました。その後、需要も減り、いまはピーク時の6割になりましたが、企業をしっかり発展させていくには、アルミや建材だけではなく他分野にウィングを伸ばして雇用を創出しようと考えています。
その一方で私が商工会議所の会頭になり、商工会議所とは何かと考えると、地域経済の発展に寄与することが一番の目的で、それを担っているのは中小企業です。そして、地域を活性化するためには、消費があがらないとだめです。それには農業の人も含めて農商工が連携して経済の発展に寄与できるようにしていかないとダメではないか、という思いがありました。
もう一つはアルミ需要が4割も減っていますから、工場が空いています。これは三協だけの問題ではなく、他社も含めて遊休工場をどう有効活用するかが大きなテーマになっています。
ここで野菜を栽培し雇用を創出する。今後、JAグループの方々にも株主になってもらい別会社にする。さらに富山の野菜生産量は全国でも下位ですから、野菜農家とバッティングすることもないという思いもあって、植物工場を立ち上げたわけです。
これを高機能化し、将来は薬草の水耕栽培を含めてやっていけないかと考えています。
そして農商工連携をするために、高岡市に3つある商工会と農協そして商工会議所の三者の代表が3か月に1回集まって連携を具体化しようと話し合い、今日まできているわけです。穴田会長とは高岡市農協組合長時代からのお付き合いで現在の萩原組合長とも一緒に連携策等を協議しております。
◆放棄地の活用で農業所得向上
加藤 農業もモノづくりという面では製造業と同じだといえますし、三協立山の従業員の方たちは兼業農家の方々が多く、いわば農業のDNAを持っていると言えますね。
川村 ですから植物工場での農産物栽培は順調に進でおります。
穴田 視点は私たちも同じです。富山県の兼業化率は92%ほどで全国一ですから、農業は農業で…ではなく、商工業と常に連携を密にしていかなければ、これからの農業の発展はありません。
富山のコシヒカリは大変においしい米ですが、最近は温暖化の影響で田植えを従来の5月の連休から遅らせて15くらいにしたいのですが、兼業の人は仕事があるからそれは時間的に無理だといいます。
そこで、商工会議所や商工会へ「申し訳ないが有給休暇を与えて田んぼをやれ!」といって下さいとお願いしています。こういう話は年に1回くらいそのために話してもだめで、日ごろからの信頼関係を築く努力が必要なわけです。
米の価格はこの20年で半分になっています。それは富山県民の所得が減っていることなのです。それをカバーするために農業収入をあげたいと思えば、耕作放棄地を有効利用できる野菜生産とか薬草栽培について情報提供することなどに取り組んでいきたいと考えています。
◆いい製品が必ず売れるとは限らない
川村 「いい製品が必ずしも売れない」と社長時代からいっています。売り方、売れる仕組みづくりにしっかり取り組んでいかなければだめです。これは農業にもあてはまります。富山コシヒカリが美味しい、そこまではいいけれど、これを食べてくれる消費者をどう増やすかのマーケッテイングが重要です。そのためには農商工が連携して知見を出し合い、連携して進める必要があります。
一方、環境問題が企業としても大きなテーマになっています。米需要が減るなかで、米農家を大規模化すればいいという意見がありますが、富山県は中山間地が多いのでそう簡単ではありません。
しかし、水田が環境を守っている面があるので、物理的に大規模にできるところはそれでいいのですが、物理的にそれができない地域で野菜作りや薬草づくりをすることで、それぞれの地域を活性化していくことだと思います。
◆マーケットをどう創るのか
加藤 いいものが必ず売れるわけではないので、マーケティングが極めて重要だということと、環境をどうするかということが富山県の重要な課題だということだと思います。
薬草も農業サイドが作りましたから売ってくれではなく、どういうマーケットを創り、そのためにこういうものを作って欲しいというマーケットインの考え方が重要だと思います。
そこには生薬原料としての薬草もあるけれど、機能性植物を食として食べてもらうことが極めて重要だと思います。
薬草の一番の問題は市場がないことです。しかし農産物には良いものをつくれば評価してもらえる市場があります。しかし、農家に対してこういうものを作ってもらえれば地域経済が発展し新しい産業ができるというメッセージは農業界だけではできないので、工業者や商業者の知見が必要だと思いますが、穴田会長はいかがですか。
穴田 米中心の農業はプロダクトアウトしかなかったわけですが、いまやそういう時代ではありません。野菜や薬草でもマーケットを作らないと、いいものを栽培するだけではむりです。いま富山県では「一品目一億円産地づくり」に取組み、やりながらマーケットの開拓をしています。
これから薬草に取組むなら、マーケットインから入りたいと考えています。作れ作れと言っても、作られたものの販売先がなければ生産の意欲が減退しますから…
加藤 諏訪中央病院の鎌田實先生は「健康であることは働いていることが重要だ」といっています。中山間地など大規模化できないところで、定年退職した人たちが生きがいとして薬草栽培することができればいいと思います。
穴田 加藤さんから二つのポイントが指摘されました。1つは、これからの土地利用型農政を考えると、担い手を中心に農地を集約していかないとコスト的には合いません。二つ目は、地域農業の振興を考えたときに、多様な農業者が農業に従事することが、もう一つの政策として求められるということです。「多様な農業者」とは、米づくりをするということではなく、自分の規模に合わせて園芸でも何でも自分でやりたいと思う農業をしてもらう。
その一つとして、薬草栽培も振興してもらうと考えています。
◆6次産業化で新しい産業に
加藤 川村会頭のところで行われている密閉型植物工場は、もっとも先進的な生産設備で、特定の成分をコントロールできる面白さがありますが、今後、薬草栽培を植物工場と圃場栽培をどうリンクさせていくかに関してイメージはありますか。
川村 圃場栽培は天気に左右されます。そうであってもリスクの幅があまりないものはいいのですが、リスクの幅の大きいものは工場で生産するとか、そういう組み合わせをしっかりとつくることでバランスがとれます。
問題は大量に生産ができるようになったときどうするかです。原料となる薬草は一次産業ですが、サプリメントをつくる工場をつくる、さらに売り方もしっかり確立して6次産業化に昇格することで、新しい産業になります。
これが大事なことで、作るだけではだめで、需要を喚起するには、それにふさわしい商品を作ることです。
生薬について富山県には生薬関連産業がたくさんあります。生薬原料の海外産薬草が高くなっているので、富山県で安心安全な国産薬草のコスト低減に努めれば、富山県の関連産業に貢献し輸出という話だって出てくると思います。
加藤 その通りですね。富山県の薬草産業化推進活動が、全国の試金石になると思います。産官学連携ができる典型が薬草事業だといえます。しかも富山ではJAグループと産業界が一緒にやるという場ができた。そして、産業化推進のために、富山・神奈川・奈良の3県が同一歩調をとるのもいままでにないことです。
◆時の利・地の利・人の利がある
川村 新たな産業を興すということでは、富山はコメもそうですが、林業や水産など一次産業の資源に恵まれていますから、これを6次産業化する。とくに農業の薬草につながり、富山薬草のブランド化を提唱しています。
穴田 川村会頭のご指摘はその通りだと思います。薬草栽培にとっていまは、時の利・地の利・人の利があると思います。薬草は3年とか5年、モノによっては10年かかりますが、将来的には5年かかるうちの3年分は植物工場でになうことで短縮化でるようにしていけば、富山県は薬草の宝庫になります。
川村 その通りです。栽培工程を短くすることで、コストダウンできます。それもいいのですが、私は3年草を2年で収穫し、薬草を生薬原料の用途に加え、サプリメント原料、機能性野菜として供給できると考えています。同じ薬草を生薬原料と食料と2つに分けてバランスを取っていけば経営的にも成り立つのではないでしょうか。
◆農業の活性化に農商工連携を進める
加藤 農業と工業がいい関係で地域振興している例はそう多くはないと思います。富山の事例をもっと多くの人に知ってもらう必要がありますね。
穴田 農業者自身が、自分たちがやっていることをどう他産業の方に示すかです。必ず理解してもらえると私は信じています。その相互理解がないと互いに排除しようということになってしまうわけです。
高岡では長い間、商工会議所、商工会そして農協が話し合ってきました。そういう意味でも“地の利”“人の利”があるので、これを大事にしていきたいですね。
加藤 植物工場というとレタスなどが中心ですが、薬草も十分にやっていけそうですか。
川村 まずレタスで、品質、生産性の問題などについて成功させなければなりません。そのうえで、今では5種類の野菜について研究しています。薬草系でも一部試験を行っています。まずベースの部分を確立して、次に品種を増やし、そのうえで薬草の実証試験をしています。
加藤 段階的にすすめているわけですね。
川村 しかし併行的にです。
加藤 なるほど…
川村 コラボレーションするときに、農協さんも出資し、私たちも出資して、一つの会社を設立して法人化していかないと成功しないと思います。もう研究会レベルではなく、そのためのモデルをつくりそこで、確実に実行していくことです。
加藤 農業活性化には企業との連携も必要だといえますね。
◆生産から販売までコーディネーターが
川村 やる気のあるところと組みそこに出資することです。出資するということはともにリスクを負うということですから…。
穴田 薬草は2年とか3年かけないとできません。そして野菜と違って種子が確立されていませんので、農業者だけではできないので、種子業者も含めていろいろな人たちと協力することが大事だと思います。
川村 薬草も品種改良が重要です。シャクヤクでも薬用専用種、生花との兼用種など、品種改良が進できましたが、生産から販売まで今は、まだバラバラですから…
加藤 コーディネーターが必要ですね。
川村 その通りです。壁を超えてやっていくのが、「研究会」メンバーの役割だといえます。そのなかで、大学など専門性を発揮してもらうことです。
穴田 取組む側の姿勢が大事ですね。
加藤 貴重なお話をありがとうございました。
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