作期移行で高温障害防ぐ 土づくりシンポジウム2013年12月13日
土づくり推進フォーラム(事務局:日本土壌協会)は12月2日、東京・一ツ橋の日本教育会館で土づくりシンポジウムを開催した。「水稲の高温障害と品質・食味向上への対応」をテーマに4人が発表した。
近年、夏場の猛暑や残暑の影響で水稲の高温障害が多く発生し、一等米比率低下の要因となっている。25年産米でも全国で約48万ha、数量にして5万tの高温障害が報告された。この被害数量は、同年産のウンカ類被害とほぼ同じ数量である。
シンポジウムでは、こうした高温障害は土づくりや施肥改善で未然に防げるとして、埼玉、新潟、山形、福井での実践事例などが報告された。
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シンポジウムに生産者、資材メーカーなど全国から多くの参加者があった
◆追肥で葉色を保つ
埼玉県農林総合研究センターの岡田雄二氏は、県内での高温障害の実態と対策を発表した。
埼玉県では21年産までは毎年一等米比率95%以上を確保していたが、22年産は高温障害により一等米はほとんどなく80%近くが規格外となった。23年産は持ち直したものの、24年産は再び一等米比率20%ほどに低下した。
県では重点対策として[1]移植期を遅らせる[2]葉色を低下させないための追肥を指導した。
[1]では、これまで5月中旬?6月上旬だった移植期を6月上中旬へと移行。それにより出穂期が8月下旬に繰り下がり、高温障害を避けることができた。[2]では、「移植後40日頃で葉色が4.5以下なら10aあたり2kg程度追肥」、「出穂前22?23日で葉色4以下なら10aあたり3kgを限度に追肥」など、品種と移植期・生育期・葉色ごとに追肥の目安を細かく設定し、葉色を維持することで白未熟粒の発生を抑えた。
こうした対策が奏功したのか、25年産米の一等米比率は60%ほどだった。岡田氏は「こうした基本技術は、普通条件の栽培が続くと、おろそかになりがち。高温障害対策には地力向上をはじめとした基本技術の励行が必要だ」と述べた。
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発表した4名
◆ケイカルで安定生産
福井県からはJA越前たけふ稲作協議会会長の上嶋善一氏が「地域をあげた売れる米づくりへの挑戦」を発表した。
越前市武生地区では、平成20年からJAと連携し、地域をあげて環境調和型農業を推進することを決めた。JAによる温湯消毒機や食味分析計、穀粒判定機、マルチ味度メーターの導入、食味値や整粒歩合に応じた米のインセンティブ契約(加算金の支払い)などをすすめた結果、23年産では水稲生産者約3000人のうち97.5%がエコファーマー認定をうけた。農産物のブランド化や付加価値をつけるために大事なのは「地域一体の取り組み。地域農業をたった1人で担うのは難しい」と強調した。
一方、高温障害対策と土づくりについては、25年産米は「平たん部で白未熟粒の発生が著しく、1等米比率は5割以下。過去最悪といってもいいほどのできだった」が、出穂期が平年の高温期に当たらないよう逆算して播種日・田植え日を設定し直すことで克服できるとした。
また、そうした天候や気象条件に左右されない米づくりのためには、ケイカル500kg散布が大事だとした。しかし、これの散布には10aあたり1万3125円がかかる。JAでは同5000円の助成を出しているが、「それを差し引いても10aあたり費用は8125円。基準反収8.5俵なら1俵あたり955円。この費用対効果を実現するためには、インセンティブ買取など生産者の手取りを上げる制度の拡充が必要だ」と提言した。
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