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【加藤 一郎(前全農代表理事専務)】

2016.02.10 
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 論語に「故を温ねて新しきを知る」の言葉がある。古くさいものに学んでいるのに、何故かハッとさせられる部分がある。 このとき初めて向上の道を得る。これを新しきを知るという。

◆王の草"ヨモギ"
 
 ヨモギ(蓬)はフランスでは「王の草」を意味する「エルプ・ロワイヤル」と言われ「ハーブの女王」とも呼ばれている。中国では『病を艾(止)める』という意味から、漢方名では艾葉(ガイヨウ)と呼ばれ、その効能から万能薬と認識されている。
 ヨモギの食物繊維は、ほうれん草の10倍近くあり血中コレステロールを低下させる効果と殺菌効果があり、また灸の原料であるモグサにも加工される。
 この効果、効能にもかかわらずヨモギはその強い生命力からどこにでも生える雑草の印象が強く、これまで用途別の品種改良もほとんど行われていない。


◆我が国のモグサ製造の現状
 
 体に直接に灸をおこなう日本特有の点灸治療法は原料となるモグサに精製度の高い品質が求められ、モグサ製造方法は伝統技術となっている。
 モグサの原料ヨモギの産地は、江戸時代の滋賀県伊吹山を中心とした地域から、現在は新潟県糸魚川周辺に替わってきた。
 モグサの主要製造販売業者は7社であり、乾燥ヨモギ(水分3%)の葉(国産88トン、中国産等45トンで相場はキロ500円~800円)が納入され、加熱乾燥、石臼で引いた後、長通し、唐蓑にかけ仕上げる工程で、職人芸による手作りで製品化されている。
 高精製モグサは国産ヨモギと伝統技術で製造されるため、課題として、(1)モグサ製造機器を製作できる職人とモグサを製造する技術者の高齢化により、その継承が途絶える可能性、(2)良質なヨモギの採取量の減少、(3)鍼灸師の減少、(4)モグサの公的な等級評価はない、ことなどがあげられる。
(この項「日本東洋医学雑誌」63、66巻からの要約)


◆ヨモギ、モグサの事業化と地域活性化の道筋
 
 農作物の事業化には、栽培方法と品種改良が必須条件である。
 ヨモギは日本では約30種類、世界では250種類があると言われているが、史実として残る平安時代から最近まで品種改良等はされなかったと思われる。
 しかし、数年前から千葉大学環境健康フィールドセンター渡辺准教授他の栽培学の研究者と、同センター内にある鍼灸院松本毅院長とが連携して良質なヨモギの選抜を開始した。
 モグサ製造のためには、ヨモギの葉の裏にある毛じょうという白い毛の部分のみを使用するために、葉面積が大きく毛が長いものが求められている。
 ヨモギ栽培での技術革新が始まっており、今後はモグサの製造過程の技術革新が求められている。
 地域社会では高齢化にともない、病院に通院する方々が増えているが、腰痛、肩痛には鍼灸治療が有効である。私は団塊の世代に属し、この世代は西洋医学万能の時代に育ち、鍼灸は古いもの、特に灸は"灸をすえる"と言った怖いものとのイメージが強く、鍼灸治療の断絶世代ともいえる。
 しかし漢方、鍼灸は日本の伝統治療であり、その効果は世界的に関心を集めている治療技術であることを再認識する必要がある。
 JAが管内組合員、準組合員に対して、鍼灸治療組織との連携をはかり、モグサ原料としての最適なヨモギ栽培、また食材原料として最適なヨモギ栽培とJA直売所等でのヨモギ加工製品の販売を大学等との共同開発を通じて確立していくことは、地域の活性化への道筋になると考える。


◆大麻は大魔か
 
 医療用大麻は米国、欧州では医薬品として末期癌患者に対する鎮静剤、腰痛緩和剤等の疼痛管理としての使用が増大している。
 大麻の主要成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノイド)の含有量は日本産0・1%と低く品種改良もされていないが、欧米では品種改良が進み含有量は14~19%まで高くなり、1970年代と比較して20倍に達している。
 カナダ政府は医療用大麻の市場は今後10年で13億カナダドルの規模に拡大する見通しを示している。欧米では大麻の医療・栽培分野での研究開発が進むなかで我が国では大麻取締法の規制によりほとんどなされていない。
 江戸時代には外科医花岡青洲は世界で初めてチョウセンアサガオとトリカブトを主成分とした6種類の薬草を使用して全身麻酔薬を完成させていたが、明治に入り西洋医学一辺倒の流れのなかで忘却された。
 この遅れをと取り戻すために、我が国の最新技術を誇り、厳密な管理が可能な「密閉型植物工場」での大麻栽培・品種改良を厚労省の友人に提案したところ、残念ながら「違法ハーブ」の取り締まりが最重要課題の一つであり、理解が得にくいと言われた。だが、医療用大麻,麻としての大麻栽培技術開発とその産業化こそが、規制緩和の正しい道と考える。

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