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(471)設計思想の違い2(牛肉:豪州と日本)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2026年1月30日

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 前回は牛肉輸出におけるブラジルと豪州の違いを「輸出先」という観点から見てみました。今回は、豪州と日本の牛肉生産システムの中に見える違いを見ていきましょう。

 豪州統計局(ABS)によれば2024年3月時点の牛の頭数は2,820万頭である。これに対し、日本の肉用牛の飼養頭数は約270万頭で、10分の1である。これを個体管理という点から少し検討してみたい(以下、便宜上3,000万頭を使用する)。

 豪州の個体管理は前回述べたNLIS(全頭家畜識別システム)により全頭電子個体管理が義務化されている。これは、食品安全や疫病発生時の即時トレースなど、基本的には輸出先政府・バイヤーなどへの説明責任を想定した仕組みである。この仕組みのもとで、RFID耳標(ICタグ)を用いて管理されている。

 豪州の牛は、海外での評価を強く意識した仕組みで生育されている。それは輸出の比重が高い国の特徴であり、具体的には、中国、日本、米国、EU、中東などの規制当局や大手輸入業者の目を意識している。

 ところで、豪州のシステム上で興味深い点は、電子個体管理に伴う費用である。前回述べたブラジルの2億頭では難しくても、3,000万頭では可能ということだ。そこで年間どのくらいの費用が必要かを試算してみたい。

 家畜用RFIDの価格はインターネットでは1頭当たり50~300円程度まで様々である。計算上1豪ドルを105円とした場合、1頭当たり2~3豪ドルと見ておけばそれほど外れてはいない。3,000万頭の場合、あくまで試算だが総額で6,000万~9,000万豪ドル、つまり多くても1億豪ドル前後と考えられる。これは備品価格のみであり、実際には取付け作業の労務費、データベース運用費用などが加わる。かなり粗い試算だが、初期費用+継続・更新費用を含めた年換算でみた場合、3~4億豪ドル(日本円で350~400億円程度)くらいではないか。

 一方、豪州牛肉の輸出金額は年間170億豪ドル(2024年2月時点)とされている。RFID関連費用は牛肉輸出額の2~3%程度に相当する。見方にもよるが保険料と見ればかなり安い。制度で規定されているとはいうものの、便益は個別業者に帰属させるのは難しい。そのため、豪州は国が中心となり、「輸出停止回避」や「リスク分散」、そして「信用維持」のためにこうした仕組みを実施していると考えた方がよい。

 この観点から日本を見るとどう映るか。日本の牛肉は輸出が増加中とはいえ、基本的には国内市場完結型である。牛の個体識別も実施されている。ただし、現在のところ耳標はあるが電子化までは要求されていない。個体識別の目的は、BSE対応や、国内消費者への「安心・安全」の可視化が中心である。そもそも歴史的に日本の牛肉生産システムは、国内消費者の納得を基準として構築され、輸出向けは後付けである。

 RFIDタグの技術的な仕組みや費用を考えれば、日本が全頭電子識別を実施していないのは、技術的に「出来ない」からではない。経営規模の小ささや肥育・繁殖の分業体制、さらに優先すべき行政上の課題などに加え、国内市場を主たる想定顧客としている以上、現段階では優先順位が高くないためと考えられる。

 問題は、ここから先である。日本の畜産を考える際、ある時点までは規模の制約が正当性を持つことは間違いない。ただし、本質は、国内で育てた牛を「誰に」食べてもらうかを前提として、今後の制度を設計するという点に行きつくであろう。

 やや硬い表現で言えば、「どの牛をどう育てるか」を議論する前段階として、「誰に売る前提で牛を育てるか」、これを制度的にも識別しておく必要が生じてくるのではないか。以前、タイの日本向け輸出ブロイラーの話を紹介したが、この品目も特定国向けの輸出用と国内の一般需要向けでは生産・加工・流通を分けている。国内需要中心の牛肉生産とは別に、輸出に特化した牛肉生産の萌芽が見え始めているのは楽しみである。

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