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コラム:地方の眼力

【小松泰信 岡山大学大学院教授】

2016.10.19 
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◆空の段ボール箱が本当に伝えたのは何か

 さすが、発信力の小泉進次郞氏。ご執心の生産資材価格引き下げに関して、自民党農林水産業骨太方針策定PT の27日会合で、会場に段ボール118箱を山積し熱弁を振るう(日本農業新聞9月28日)。農水省関係者が13日の同PT会合で、ある県のかんきつ用段ボールは118規格あるとの資料を提示したら、全規格の取り寄せを指示。党の農林幹部らが座るひな壇席の背後に積み上げ、「農業生産資材全般に共通するメッセージが後ろの光景からも言えるのではないか。この段ボールの中にはいろいろな問題が詰まっていると思うが、夢も詰まっている」と、資材価格引き下げの議論加速に意欲を示した。思わず、〝小泉屋!〟と一声かけたくなる人も少なくなかっただろう。さすがの発信力だが、頭の中まで空箱ではないことを願いたい。
 素人なら、「118規格も必要なの。コストがかかるわけだ」と思う。しかし、「全国の農家をくまなく回り、現場の人の声を聞くことを優先してやってきた」(文藝春秋11月号)と豪語する自信家なら、それらの規格の存在理由、歴史的経過、それがどれだけのコスト高をもたらしているのか、規格数を減らした時に不都合は生じないのか、そもそもかんきつ農家から苦情が出ているのか、などを調べる慎重な姿勢が求められる。でなければ、受けねらいのパフォーマンス。もちろん、そこが小泉屋の御家芸よ。

◆聞く耳持たぬキャラバン隊に期待できない

 氏が率いる同PTが、TPP中長期的対策の取りまとめに向けた全国キャラバンを開始した。その皮切りに関東・甲信越ブロックの意見交換会が開催された(日本農業新聞10月9日)。資材価格引き下げについては、ワンパターンの持論を展開。記者団には、「現場から(全農の抜本的改革を求める)声が出てきた。全農を含め、JAグループとして逃げることなく受け止めてもらいたい」と強調したそうである。
 どこまで本当か疑わしい限りである。以前、視察先のトマト農家が、彼からJAの生産資材価格について問われ、「営農指導を含めた価格だ」と説明したら、「納得している人はいいが、今のままでいいというのは違う」とのこと(日本農業新聞7月27日)。この生産者の発言は至極もっともである。しかし悲しいかな、「悪いのは全農」と刷り込まれた脳みそ。不都合な意見はたとえ真っ当なものであっても、素直に入っていかない。「JAからの資材は高くて困っています。全農改革に期待しています」とでも言おうものなら、我が意を得たりと至る所で吹聴すること間違いなし。聞く耳持たぬ政治家たちによるアリバイづくりの全国キャラバンなら、現場は大迷惑だ。
 後藤逸男氏(東京農業大学名誉教授)が、韓国の実例を挙げ、指導を伴わない安いだけの肥料は過剰施肥を招き、高品質生産と逆行しかねないと指摘したうえで、「大事なことは、肥料と情報をセットで農家に伝えられること」と、価格一辺倒の姿勢に懸念を示している(日本農業新聞10月14日)。このような貴重な意見も、間違いなく馬の耳に念仏。
 今回の全国キャラバンに対して意見を求められた奥野全中会長は、意見を出す良い機会としたうえで、「ただ初回キャラバンでは会場から一部、発言に乱れのある意見表明があり残念だった。誹謗(ひぼう)中傷ではなく農業を改めて興すために、前向きで建設的な議論を期待したい」と答えている(日本農業新聞10月15日)。聞く耳持たぬ相手をしかり飛ばすのではなく、怒り心頭のJAや農業関係者をたしなめるとは、さすが対話路線だけしかできない方の面目躍如的発言。
 ハッキリしておきましょう。対話路線が有効なのは、話せば分かる相手だけです。

◆勘違いしているのはどっちだ

〝農水史に残るJA幹部の勘違い発言に、小泉進次郞氏がぶち切れ!「農協改革は終わらない」と決意を新たにした〟(産経新聞10月14日10時15分配信のYAHOO!ニュース)という、おどろおどろしい見出しの記事の概要は、以下の通りである。
 ――問題の発言が出たのは、党本部で農業改革に関する会合が開かれた9月29日。全中や全農などの幹部、農業者から、資材価格引き下げに関するヒアリングが行われていたときのこと。農事組合法人さんぶ野菜ネットワークの下山久信事務局長が、「何が1円でも生産者の手取りを増やすだ。それならJAが取る手数料を値下げすべきではないか」「野菜を全農の青果センターに出荷すると手数料が8.5%取られ、それに全農県本部から1%取られ、計9.5%も取られる。これは手数料の二重取りだ」と発言。これを受けた全農の神出専務が「手数料は(JAの)従業員や家族を養う財源で、簡単に切るのは賛成できない」と反論。「まず(業界や規制などの)構造をどう変えていくか、きちんとした土俵の中で議論をしたい」と強調した。この発言に強い不快感を示したのが小泉氏。会の終盤に「先ほどの神出さんの言葉に、手数料で食っているのがJAグループという意識があるなら、それは問題だ」「農家が食べていけるから農協職員も食べていけるという認識で改革に取り組んでほしい」と苦言を呈した。――
 神出氏の発言内容は、当日の概要資料に次のように記されている。「もちろん手数料については、真摯に受け止めるべきところは受け止めるが、手数料は機能に対して支払っていただいているものである。また、『手』『数』料という名前の通り、そこには職員がおり、職員や家族を養う財源でもあるので、経営者として簡単に切ることは賛成できない。」
 基本的には、どこもおかしくない。ただ、〝家族〟を出したことで付け入る隙を与えただけである。〝農水史に残る〟とは笑止千万。下山氏の資料には、JA職員時代からの県連、全国連に対する恨みも感じられる。挑発に乗った人の肩を持つわけではないが、真摯に受け止めるべきところはあるものの、経営者として手数料をハイ下げます、ということは軽々にいえない。
 経済的には苦労知らずの二世議員による、「農協職員は、誰のおかげで生活できているんだ」との説教。馬耳東風でよい。
 
◆その山に登るべからず!

 〝「山を一緒に登っていこう」小泉進次郞自民党PT委員長 改革実践JAに呼びかけ〟(農業協同組合新聞9月30日)という見出しが紙上をフワフワ泳いでいる。9月5日に全中や全農と改革の必要性を共有したそうである。
 「改革はこれで終わりではないと奥野会長も明確に言っている。厳しい言葉をかけるよりも山を一緒に登っていこう、そういったメッセージを投げながらどこまで行けるかだ」「そうすれば頂上からしか見えない景色が見えるだろう、そういう風に歩んでいこうということ」だそうだ。自己陶酔、ここに極まる。こんな歯の浮く言葉に落ちる痴れ者は、JAグループにはいないハズ。
 その山はJA、農業、農村の姥捨山。頂上から見えるのは荒涼とした風景と星条旗。どこから見ても、登るべき山ではない。
 「地方の眼力」なめんなよ。 

(関連記事)
小泉氏「山を一緒に登っていこう」-JAグループに呼びかけ (16.09.15)

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