日本型稲作構造の展望2013年6月24日
先日、農協協会の会合で、梶井功教授が「いまの集落営農論は、家族制度の崩壊という歴史的事実を踏まえていない」という発言をして注目を浴びた。
また、多くの評論家は「稲作は、養鶏や養豚と比べて構造改革が遅れている」という。
いったい、いまの稲作構造を、歴史の上で、どのように考えればいいのだろうか。ことに、高齢者や兼業者は、どう考えればいいのか。そして、安倍晋三首相はアベノミクスのなかで、どう考えているか。
それは、アメリカやオーストラリアの稲作構造とは、全く違ったものである。
現在、いわゆる担い手が全農地面積の49%を利用しているが、アベノミクスでは、10年後に80%にするという。
この担い手のなかには、一人一票の議決権をもち、組合員の全人格的な利益を追求する協同組合的な集落営農組織も含んでいる。その一方で、出資金額に応じた議決権をもち、出資者の私的な利益を追求する株式会社的な、資本主義的組織も含んでいる。油と水が混合している。
いったい、アベノミクスは農業構造として、集落営農を太宗とする構造を目指すのか、それとも、株式会社で農業を覆いつくそうとするのか。
◇
稲作の構造改革は遅れているとする論者は、構造改革によって、稲作もやがて養鶏のように経営規模を拡大し、企業的な経営になることが、歴史的な必然と考えている。
だが、そうだろうか。
そもそも、なぜ構造改革なのか。
◇
株式会社のような企業で農業を覆いつくそうとする企業派は、構造改革の目的を、コストを下げて、競争に勝つことにおく。
そのため、経営規模を拡大して、労働費を削減しようとする。そして、労賃を下げ、雇用量を減らす。
このことは、資本主義的企業のDNAに、深く組み込まれている一般的な性向である。私的利益の追求のためには、雇用量を減らし、社会的にみて、労働を過剰状態にする。このことに何らの痛痒も感じない。そして、賃金引下げの言い訳にする。社会的責任から逃避する。
これは、農業においても同じである。この考えのもとでは、兼業者や高齢者は農業を止めざるを得なくなる。
◇
これに対して、集落営農を農業構造の太宗に位置づけようとする集落営農派は、構造改革の目的を、集落の全ての人たちの全人格的な利益の追求におく。構造を改革するにしても、農業を続けたい兼業者や高齢者には、農業にかかわってもらう。
その結果、農産物が過剰になる、という人がいる。
だが、そうはならない。いま、日本の食糧自給率は39%にすぎない。農産物供給を2倍にしても、自給率は78%にしかならない。兼業者や高齢者を除け者にしたのでは、自給率の向上はのぞめず、食糧安保を回復できない。
食糧安保は、農政の最重要な目的であり、構造改革もこの目的の達成に貢献すべき、と考える。
◇
集落営農を、歴史的にみて、資本主義的農企業へ向かう過渡的な経営形態だとする論者がいる。
だが、そうではない。日本の水田農業は、私的に完結した企業にはなり得ない。それは、水利をみれば明らかである。つまり、水利権を含む農地の絶対的・排他的な私的支配権は成り立たない。つまり、農地については、教科書的な私的所有権は成立し得ない。
このことは、歴史をみれば明らかである。水田の所有権は、私的に絶対的な支配権ではなく、集落によって大きな制約を受けている。
たとえば、いつ田植をするか、を考えよう。水田の所有者である個々の農家が、勝手に水を引いてきて田植をすることはできない。集落が決める。
つまり、集落が農地の支配権、つまり、所有権の一部をもっている。所有者が生産を指揮し、統括することは、歴史が示している。日本の水田農業も例外ではない。
日本だけではない。集落営農は、東アジアの水田農業の先駆的な見本になるだろう。
◇
集落営農は、こうした歴史の上に立っている。つまり、歴史的にみて過渡的な形態ではない。家族制度の崩壊、つまり、多世代家族から核家族へ、一子相続から均分相続へ、血縁社会から地縁社会へ、これらによって、その形態が顕わになっただけである。
集落営農は、集落の意志にしたがって、集落員の全員の意志にしたがって、ものごとを決める。それは、協同組合に近い。この点でも、東アジアの見本になるだろう。
家族制度が元に戻ることはないだろう。今後、いかなる変貌をとげるのだろうか。
(前回 アベノミクスは小農切捨て)
(前々回 アベノミクスは食糧安保政策を棄てるのか)
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