アベノミクスは食糧安保政策を棄てるのか2013年6月10日
安倍晋三首相の、いわゆるアベノミクスの農業政策を評価しよう。
まだ具体的な政策にはなっていないが、いくつかの問題がある。
成長戦略というのだから、戦略目的が明確であることが要求される。だが、それが見えない。食糧自給率の向上による食糧安保も目的にしていないし、農業振興も目的にしていないのだろうか。
あらためて言えば、農業政策の第一の目的は、食糧安保、つまり、いつ、いかなる事態になっても、国民に食糧を供給できる体制にしておくことにある。もちろん、カロリー源になる米などの食糧である。
アベノミクスは、農政の柱として、いままで言い古されてきた、輸出振興と6次産業化と農地集積を掲げている。だが、それらが、なにを目的にした政策なのか、を示していない。食糧安保政策を棄てたのだろうか。否というのなら、それらの政策が、どのように食糧安保に貢献するかを示すべきである。
輸出振興からみてみよう(資料は、ココをクリック)。
これは、四半世紀も前から、歴代の政府が「攻めの農政」と名づけて、農政の重要な柱にしてきた政策である。耳ざわりのいいスローガンだが、首相も嘆いているように、いまだに成果を出していない。
こんどは、モノ別、国別の輸出戦略を決めるという。期待していいのだろうか。
ここで問題になるのが、戦略目的との関係である。果物などをどれほど輸出しても、食糧安保とは関係ない。食糧安保が目的なら、米の供給余力を強めて、平常時には輸出する、という政策でなければならない。だが、そうした考えはない。
◇
その上、この輸出政策には、日本の農産物に対する独りよがりの評価がある。
例えば米をみてみよう。日本の米は、世界でどれほど高く評価されているか。
米は炊いて食べるから、ふくよかな味がする。日本人はそう思うし、筆者もそう思う。だが、世界の中で米を炊いて食べるのは、日本くらいしかない。世界の大部分の国では、米は煮て食べるか、せいぜい蒸かして食べている。貧しいからではない。それがその国の食文化なのである。富裕層だからといって、日本の米を日本人と同じように味わうだろうか。そして、高く評価するだろうか。
米には味がないし、小麦のような芳しい香りがないから不味い、という味覚の人は世界に多い。だから、海外の市場では、米の価格は砕米の混入割合だけで決まる。古米も新米も同じ価格である。何年産の米か、などと聞いても、キョトンとするだけだ。
だからといって、果実などの輸出振興に冷や水を浴びせるつもりはない。指摘したいことは、それしか主要な柱がない、という農政の貧困である。
◇
6次産業化で所得を倍増するという。
ここには、逃げの姿勢がみられる。農業などの第1次産業の振興から逃げ、第2、3次産業へ逃避する姿勢である。
農業を振興する余地は、充分にある。
周知のように、いまの食糧自給率は39%である。せめて、2倍の78%に倍増することを目標に掲げて、農業の振興を図るべきだろう。
農政の目的は、農業の振興だけではない。農村社会の振興でもある。そのことを否定するつもりはない。だが。農村振興の基盤に農業振興を据えねば砂上の楼閣になる。農業を振興し、2倍にできる可能性は、充分にある。
◇
6次産業化で、所得を倍増するという。正確にいうと「農業・農村全体の所得を倍増させる戦略」だという。だが、誰の所得を倍増するのか。そのことを慎重に隠している。農業者の所得を倍増するとは言っていない。
いわゆる規制改革で、農村に進出してきた企業の所得だけを倍増するのか。それとも、ごく少数の「意欲あふれる『担い手』」の所得だけを倍増するのか。そして、大多数の小規模な兼業農家や高齢農家は犠牲になれ、というのか。そこの肝心なところを隠している。
農村には、「1人は万人のために、万人は1人のために」という協同組合の崇高な理念が、今でも、いや、今だからこそ息づいている。このことを銘記しなければならない。
(農地集積という構造政策への批判は次稿で)
(前回 TPPは南北戦争を招く)
(前々回 アベノミクスのさえない成果 民間投資の不活発)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
不測事態の食料確保、スマート農業法など3法案 衆院で審議スタート2024年4月25日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年4月25日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年4月25日
-
【注意報】ウメ、モモ、などに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 和歌山県2024年4月25日
-
【特殊報】キュウリに「キュウリ黄化病」府内で初めて確認 京都府2024年4月25日
-
電動3輪スクーター「EVデリバリー」JA豊橋に導入 ブレイズ2024年4月25日
-
ほ場作業の約9割を自動化するオートコンバイン「YH6135,A7135,A」発売 ヤンマー2024年4月25日
-
むらぐるみの共同労働【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第288回2024年4月25日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「農村は国の本」~焚書として消された丸本彰造著『食糧戰爭』が復刻された2024年4月25日
-
【JA人事】JA水戸(茨城県)新組合長に園部優氏(4月21日)2024年4月25日
-
【人事異動】フジタ(4月1日付)2024年4月25日
-
米麦水分計PB-Rを新発売 ケツト化学2024年4月25日
-
全国の小学校・児童館に横断旗を寄贈「7才の交通安全プロジェクト」こくみん共済 coop2024年4月25日
-
自然とふれあう農業体験 伊勢崎市で27日に開催 パルシステム群馬2024年4月25日
-
野菜の鮮度保持袋で物流2024年問題解決へ「JAGRI KYUSHU」に出展 ベルグリーンワイズ2024年4月25日
-
粉末化でフードロス解決に挑戦 オンラインセミナー開催 アグリフューチャージャパン2024年4月25日
-
長期保存食「からだを想う野菜スープ」シリーズ新発売 アルファー食品2024年4月25日
-
生産者と寄附者が直接つながる「ポケマルふるさと納税」が特許取得 雨風太陽2024年4月25日
-
焼けた香りや音に満足感「パンの食習慣」アンケート実施 パルシステム2024年4月25日
-
埼玉県産いちごの魅力を伝える「いちごソング」が完成2024年4月25日