朝日新聞の批判精神を欠いた米政策の提言2013年11月5日
朝日新聞が、3日の社説で米政策の提言を行った。
これは、農業者にたいする偏見と、農業の実態についての無知を基礎にした、説得力の乏しい提言である。
米政策についての提言なら、実態を直視し、当事者である農業者にたいする偏見をやめ、農業者の多くと、いまの食糧自給率の低さを憂える国民の多くが、傾聴するような提言をしてほしいものである。そうでないと、せっかくの提言が実現できない空論になってしまう。
論評するほどのものではないが、世論にたいする影響が大きいことを考慮すると、見逃すわけにはいかない。ここで取り上げて、真正面から批判したい。
提言の主要な部分は、「減反を廃止し、意欲のある農家や企業に自由に生産してもらう。後継者がいない農家から農地を集め、規模拡大を通じて安さを追求する。そうして国内消費を増やし、年わずか7億円にすぎない輸出にも力を注ぐ。」である。
ここでは、農家に「意欲のある農家」と、そうでない農家、つまり「意欲のない農家」とがある、と考えている。
これは、朝日新聞の独自な分類ではない。農水省の分類を無批判に使ったものだろう。だが、「意欲のない農家」など、どこにもない。意欲を奪われた農家にとって、「意欲のない農家」といわれれば、憤懣やるかたないだろう。そんな提言を受け入れるはずがない。
言葉じりを捉えているのではない。朝日新聞の基本的な姿勢を問いたいのである。こんな偏見ではなく、農業者の意欲を奪うような米政策こそ批判すべきである。
◇
内容に入ろう。零細農家を、いまの所得補償政策の対象から外し、大規模農家に農地を集中して、規模拡大をはかるのだという。
政策の対象から外された零細農家は、いったい、どうすればいいのか。そのことへの言及が全くない。これは、まさしく零細農切捨ての提言である。
これでは、零細農家は大規模農家に協力できないだろう。零細農家の協力がなければ、大規模農家は零細農家から農地を借りることもできないし、畦の草刈りなどを頼むこともできない。それでは、営農もできない。
◇
規模拡大で安い米を追求するのだという。
それはいいことだ。だが、それに続く提言に問題がある。安くして、国内消費を増やし、輸出に力を注ぐのだという。これも、農水省の政策を無批判にくりかえしたものである。
米価を安くして、消費量を増やすのだ、と提言はいう。だが、米価が安くなったからといって、米の消費量が増えなかったのが、これまでの実態である。最近6年間の実態をみると、小売米価は25%も下がったのに、1人当たり消費量は増えるどころか8%も減った。
こうした実態を見ない提言に説得力はない。
◇
米価を安くして、米の輸出に力を注げ、とも提言はいう。
この米輸出は、「攻めの農政」と銘打って、ここ20年来の農政の主要な柱にしてきたものである。そして失敗し続けてきた。提言はこの政策を無批判にくりかえしている。
昨年の輸出量の実績は、わずか2202トンで、生産量869万トンの0.025%でしかない。20年間もの努力の末のみじめな失敗の結果である。無批判に追従すれば、今後も失敗をつづけるだろう。
この実態を無視した、この提言に説得力はない。20年間の失敗を直視し、その原因を考えよ、といいたい。
そうすれば、もうすこし説得力のある提言になるだろう。いや、全く異なった提言になるに違いない。
◇
以上のように、この提言には、財界とそれを代弁する政府が目指す農政に対する批判が、どこにもない。鸚鵡がえしに、零細農家の切捨てを声高に主張をしているだけだ。
朝日新聞も、知性を失い、批判精神を捨て、社会的使命を忘れ、そうして、財界に怯えるマスコミになってしまったのだろうか。
(前々回 新浪ローソン社長の減反廃止論は先祖返り)
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