争点ぼけの地方選2015年4月13日
統一地方選挙の前半戦が終わった。
自民・公明の与党連合は北海道と大分の知事選で勝ち、札幌の市長選で負けた。野党は、民主が低迷する一方で、共産が躍進した。
注目されるのは、投票率の低さである。その原因は、関心の低さにある。それが、ことに農政分野にみられた。どの候補者が当選しても、農政は変わらない、という諦めがあった。農政は国政の分野であって、地方政治の力では、どうにもならない、という諦めである。そのため、争点がぼけた。
地方選挙の結果が、どうなっても、農政は変わらないのだろうか。そうではない。
国政の衆議院選挙が小選挙区制になって、政党の力が、格段に強くなった。自分が属する政党の政策に反対すれば、公認を取り消されたり、対抗馬を出されたりする。それでも当選できる人は、それほど多くはない。
その代わり、公認されれば、地元の政党支部の応援が全面的に得られる。その応援の中心に県会議員や市会議員がいる。多いほど強力になり、当選しやすくなる。
このようにして、地方の政治家は間接的に国政を動かしている。
◇
農政も例外ではない。いうまでもなく、農政の現場は地方である。それだけに、地方政治家が農政を動かす影響力は大きい。農政の現場での実態を熟知しているし、問題点もよく分かっている。
それを集約して、その政党の農政にすべきだが、そうなっていない。政党の中央官僚を頂点にした、上意下達の農政になっている。
その上、各政党とも、主張する農政の特徴が鮮明でない。党中央の官僚たちが自信を失っているのだろう。こんどの統一地方選でも、各政党の農政の違いが分からない。争点が曖昧である。
◇
与党の自民党をみてみよう。農政の2つの大きな柱は、所得倍増と地域活性化である。
このうち、地域活性化は、まるで分からない。目的も曖昧だし、実行計画もないし、年次計画もない。それは、もともと熟慮して練り上げた計画ではないようだ。だから、検討のしようがない。
◇
所得倍増をみてみよう。農業・農村の所得を10年で2倍にする、という。
まず分からないのは、農業所得を倍増するのか、農村所得を倍増するのか。それを、はっきりさせなければ、議論のしようがない。
そこで持ち出してきたのが、農業・農村の所得という言葉である。農業所得と今後農村で成長が期待できる7分野の所得を足し算したものだという。
下の表が、その計画である。(詳細は本文下のリンクを参照)
なぜ7分野なのかも分からないし、それらの分野の所得を、どのように推計するのかも分からない。つまり、恣意的というしかない。
内容をみると、10年ではなく、12年後の計画である。つまり、期間を2年値切っている。しかも2倍ではなく、1.95倍に値切っている。つまり、10年倍増ではなく、12年1.95倍増である。この点からみても、誇大宣伝のための、品位の劣る計画である。
その上、細部の計画による裏打ちもなければ、年次計画もない。つまり、質の悪い、荒唐無稽な計画としか言いようがない。
しかも、その一方で、TPPに加入して輸入農産物を増やし、その結果、国内生産を減らし、農業所得を減らそうとしている。国民を愚弄する悪質な農政と言ってもいい。
◇
いま、日本の農業には、多くの問題が重くのしかかっている。TPPに加入するのか、稲作をどう再建するのか、畜産に若者をどう引き止めるのか、などなど。
これらの問題は、地方経済の問題であり、地方政治の問題である。中央政治に任せておく訳にはいかない。ことに、政党の力が強くなり、党官僚の力が強くなったいま、地方政治家は、現地の実態に疎い党中央の官僚の暴走を抑える重要な役割りを背負っている。
党中央の官僚たちが、現場の実態に疎いことは、先日までの、いわゆる農協改革問題で暴露された。その上、所得倍増計画にみられるように、計画を組み立てる能力が劣る。そして結局、無用な混乱だけで終わる。
こうした無用な混乱を抑えるような役割りは、地方政治家にある。今後の奮闘を期待したい。
<参考>農業経営等の展望について (PDF:2,170KB)
(前回 全中・県中の名前は残った)
(前々回 人間抜きの新基本計画)
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