人間抜きの新基本計画2015年3月30日
新しい農業基本計画が発表された。食糧自給率を、いままでの50%から45%に引き下げる、という計画である。食糧安保政策の明らかな後退だ。それを象徴的に表している。国家安全保障には熱心だが、食糧安保には不熱心である。
これからは、食糧自給率を軽視して、その代わりに、食料自給力指数なるものを発表するという。それは、非常時にどれ程の食糧を自給できるか、という潜在的な生産能力だという。だが、ここにも大きな問題がある。
計画は、「食料自給力指数の試算に当たっては...必要な労働力は確保されている」ことを前提にしている。そのように、あけすけに言っている。
いったい誰が生産するのか、それが、すっぽりと抜け落ちている。土地があっても、機械や施設があっても、作る人間がいなければ生産はできない。
上の図は、計画の主要な部分を示したものである。新計画を旧計画と比べると、その特徴は、穀物生産の縮小である。米粉米を5分の1に減らし、麦類と大豆は半分に減らしている。それらが食糧自給率を下げている。
◇
周知のように、食糧自給率は旧計画以後も40%程度で低迷し、目標の50%に近づいていない。消費量が予測を大きく下回ったことが原因だというが、そうではない。目標に近づける努力を、政府が怠ったからである。
実現可能性を考慮して、目標を50%から45%に引き下げるという。だが、それは政府の怠慢を追認せよ、ということだ。とうてい受け入れられない。
TPP交渉で輸入量を増やし、自給率を下げる企みだ、と思われてもしかたがない。
◇
そこで、自給率から国民の目をそらし、自給力指数を持ち出してきた。自給率は客観的だが、自給力指数は恣意的である。だから、ごまかし易い。もっとも大きな問題点は、労働力の確保である。
労働力の確保は前提だ、と乱暴に言い放つが、その計画はない。
非常時には、強権的に人を動員して食糧を生産させる、と考えているのだろうか。戦後レジームからの脱却というが、戦前に戻り、国家総動員法を復活し、国民徴用令に基づいて、有無を言わさずに国民を徴用し、食糧を生産させる、というのだろうか。
そうではない、というのなら、非常時に備えて労働力を確保する計画を、あらかじめ作っておかねばならない。だが、それがない。
◇
非常時の計画を作ったとしても、徴用される人は、平常時には何をしていろ、というのか。何をして、その対価としての所得を得ていろ、というのか。しかも、単純労働では農業生産はできない。植物や動物を育成する高度な技術が必要だ。
自給力の維持という考えは、ここに致命的な欠陥がある。これでは、食糧安保は危殆に瀕する。
水田の高度な生産力を活かして米を増産し、米粉の普及で新規の需要を開拓し、また、国産麦や国産大豆を振興するなどして穀物の輸入量を減らし、食糧自給率を向上させる政策こそが食糧安保政策の王道である。
(前回 コメの対米密約の疑惑)
(前々回 農協の県別政治力)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日