首相は誤った歴史観を訂正しなかった2015年8月17日
安倍晋三首相は、14日、敗戦70周年にあたり、総理談話を閣議決定した。注目されていたのは、日本がアジアで起こした戦争が侵略戦争だったことを認めるかどうか、だった。そして、侵略に対する謝罪を言うかどうか、だった。
しかし、マスコミなどは、「侵略」と「お詫び」など、4つ言葉を使うかどうか、だけに矮小化して注目した。談話には、たしかに4つの言葉が入った。
だが、注目すべきことは、この4つの言葉を入れるかどうか、ではない。注目すべきことは、日本のアジアでの戦争は侵略戦争ではなかった、とする首相の誤った歴史観を訂正するかどうか、だった。
談話に、この4つの言葉を入れたことで、首相は歴史観を訂正したように見せかけた。そうして、マスコミなどに目つぶしを喰らわせ、結局、訂正しなかった。
首相は、以前、侵略の定義は決まっていないとして、日本のアジアでの戦争は侵略戦争ではなかった、という歴史観をもっていた。だから謝罪しなくていい、という姿勢で外交にのぞんでいた。
首相の歴史観は、アジアでの戦争は、欧米がアジアを侵略し、植民地にするのを防ぐために、日本が盟主になって、いわゆる大東亜共栄圏を作るための、つまり、自衛のための正義の戦争だった、というものである。
それに対して、中国をはじめとするアジア諸国は、首相は歴史を直視しない歴史修正主義者だ、歴史を捏造するものだ、として厳しく抗議していた。そして、首相の誤った歴史観が、友好関係を築くうえで、大きな障害になっていた。
アジア諸国は、こんどの談話で、首相が誤った歴史観を訂正するかどうか、を注目していた。しかし、訂正しなかった。このような内閣が続くかぎり、厳しい抗議は今後も繰り返されるだろう。この抗議は、こうした首相を支持する一部の国民に対して、反省を促すものでもある。
◇
総理談話(資料は本文下のリンク)を、やや詳しく見てみよう。
談話は、全部で3354個の文字で出来ている。そのなかで「侵略」の言葉は1度しか使われていない。その部分を引用しよう。
「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。」
これだけである。日本が起こしたアジアでの戦争は侵略戦争だった、とは言っていない。武力の威嚇や行使を、他人ごとのように、一般的に否定しているだけである。その上、武力の一例として、侵略を事変と戦争と並べて例示しているだけである。日本のアジアでの戦争は侵略戦争だった、とは言っていない。つまり、歴史観を訂正していない。
◇
その後で、「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。...こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。」と言っている。
「お詫び」という言葉は、3354字の談話の中のここで、1度しか使われていない。
しかも、安倍内閣がお詫びする、と直接話法では言っていない。いたずらっ子が叱られたときのように、しぶしぶと不貞くされて、屈辱的にお詫びしている姿勢のように見える。
それ以上に問題なのは、これでは、アジアでの戦争は侵略戦争ではなく、正しい戦争だったが、一部に例外的な不正行為があって、その部分はお詫びする、と読みとれる。「行い」と言うだけで、国家犯罪としての侵略行為だった、とは言わない。
これでは、侵略についての全面的な、心からのお詫びにならない。軽い破廉恥罪が一部にあって、それについての謝罪としか読みとれない。
◇
このような誤った歴史観は、いまの安保法制案に直接つながっている。日米軍事同盟を強化して、中国を大陸に押しとどめ、アメリカ風の「正しい」国にしようというのである。
また、TPPというアジアへの経済侵略にも直接つながっている。この経済侵略は、日米軍事同盟を背景にして、環太平洋地域に中国を除くブロックを作り、中国に「正しい」経済を押し付けようとしている。
談話では、経済のブロック化が国際紛争の原因になり、戦争にまでなったことを、2度も言って警告している。しかし、TPPこそブロック化である。首相は、そのTPPを推進している。支離滅裂としか言いようがない。
こうした歴史観に基づく日米軍事同盟の強化は、農村の若者たちを戦争に引き出し、心身にわたる塗炭の苦しみと、何世代にもわたる筆舌に尽くせぬ悲しみをもたらすだろう。とうてい容認できない。
◎首相談話は ... ココ
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html
(前回 漂流するTPP)
(前々回 「諸国民への不信」と「武力による威嚇」)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
米の作況指数の公表廃止 実態にあった収量把握へ 小泉農相表明2025年6月16日
-
【農協時論】米騒動の始末 "瑞穂の国"守る情報発信不可欠 今尾和實・協同組合懇話会委員(前代表)2025年6月16日
-
全農 備蓄米 出荷済み16万5000t 進度率56%2025年6月16日
-
「農村破壊の政治、転換を」 新潟で「百姓一揆」デモ 雨ついて農家ら220人2025年6月16日
-
つながる!消費者と生産者 7月21日、浜松で「令和の百姓一揆」 トラクターで行進2025年6月16日
-
【人事異動】農水省(6月16日付)2025年6月16日
-
3-R循環野菜、広島県産野菜のマルシェでプレゼント 第3回ひろしまの旬を楽しむ野菜市~ベジミル測定~ JA全農ひろしま2025年6月16日
-
秋田県産青果物をPRする令和7年度「あきたフレッシュ大使」3人が決定 JA全農あきた2025年6月16日
-
JA全農ひろしまと広島大学の共同研究 田植え直後のメタンガス排出量調査を実施2025年6月16日
-
生協ひろしま×JA全農ひろしま 協働の米づくり活動、三原市高坂町で田植え2025年6月16日
-
JA職員のフードドライブ活動で(一社)フードバンクあきたに寄贈 JA全農あきた2025年6月16日
-
【地域を診る】「平成の大合併」の傷跡深く 過疎化進み自治体弱体化 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年6月16日
-
いちじく「博多とよみつひめ」特別価格で予約受付中 JAタウン2025年6月16日
-
日本生協連とコープ共済連がともに初の女性トップ、新井新会長と笹川新理事長を選任2025年6月16日
-
【役員人事】日本コープ共済生活協同組合連合会 新理事長に笹川博子氏(6月13日付)2025年6月16日
-
【役員人事】2027年国際園芸博覧会協会 新会長に筒井義信氏(6月18日付)2025年6月16日
-
農業分野で世界初のJCMクレジット発行へ前進 ヤンマー2025年6月16日
-
(一社)日本植物防疫協会 第14回総会開く2025年6月16日
-
農業にインパクト投資を アンドパブリックと実証実験で提携 AGRIST2025年6月16日
-
鳥取・道の駅ほうじょう「2025大大大スイカフェスティバル」22日まで開催中2025年6月16日