TPP大筋合意に怒りをブチまけよう2015年10月13日
TPPの大筋合意の内容をみると、主な輸入農産物の関税は、16年後にはほとんど全て撤廃される。数%の関税になるものが、いくつかあるが、わずか数%の関税では、輸入に対する抑止力にはならない。関税政策としては撤廃したのと同じだ。
もしも、この合意が実施されれば、どうなるか。
輸入抑止的な関税を維持できるのは、米だけになる。米を例外にして、すべての農産物は丸裸にされる。そうなると、失うものは米しかなくなる。その米は、今後、集中攻撃を受けることになるだろう。そして、いよいよ日本農業の存否を賭けた最終戦争が始まるだろう。
16年後というのは、遠い将来ではない。18歳で、これから農業を始めようか、と思い悩む若者にとって、16年後は34歳の働き盛りのときである。つまり、今後16年の間、どうにかなればいい、というものではない。働き盛りになる16年後こそが問題である。
このTPP合意に対して、全国の農業者の怒りは煮えたぎっている。
崇高な社会的使命をもつ農業に、若いときから憧れて、農業を営んできた農業者は、こんどのTPP合意で、理不尽にもやがて農業をやめざるを得なくなる。そのことに対する激しい怒りである。全国の農業者が反対していたのに合意してしまったことに対する火のような怒りである。しかも、その怒りを全国で結集してブチまけることができない。
22年前のウルグアイラウンドで、例外なき関税化を受け入れたとき、当時の全中会長は、全国の農業者の怒りを結集し、「満腔の怒り」を込めて抗議した。しかし、こんどのTPPの例外なき関税撤廃では、全中会長は怒りを表明しない。
農協組織は、そこまで痛めつけられたのだろうか。
◇
8日の全中会長の談話では、「生産現場には不安と怒りの声がひろがっている」というだけである。現場の熱い怒りを、他人事のように冷ややかに言うだけで、全中としての怒りを表明していない。つまり、全国の農業者の怒りを結集していない。
全中は、全国の農業者を代表する役割りを、すでに捨ててしまったのだろうか。
これでは、全国の農業者の怒りを、全国規模で結集してブチまけるところがない。そうなれば、農業者は各地で個々ばらばらに怒るしかない。すでに、いくつかの県中は怒りの会長声明を出している。また、農業者は個々ばらばらに政治に要求するしかない。すでに、いくつかの県では、知事が懸念の声明を出している。
しかし、農業者が全国規模で怒りを結集していない。だから、中央政治への影響力は弱くなる。
いまの農協組織の最大の問題点はここにある。明後日の全国農協大会で議論すべき最重要な問題は、この点ではないか。
◇
農協組織がこのような状況なので、全国の農業者の怒りは、安倍晋三首相にまで届いていないようだ。だから、首相は、「関税撤廃に例外をしっかりと確保」して、最善の結果が得られたと自画自賛し、農業者の怒りに油をそそいでいる。
また、森山 裕農水相は、農業者の怒りに鈍感のようだ。だから、農水相は「関税撤廃の例外...が、獲得された」と胸をはっている。
このままでは、来年早々にもTPPは国会で批准されてしまうだろう。来年7月の参院選では、TPP推進派の大勝利になるだろう。
こうした事態になるのを阻止することが、今後も続く反TPP運動の課題になる。
◇
当面する課題は、国会の批准阻止である。ちなみに、米韓FTAのときは、政府間で合意したあと、韓国国会で批准するまでに4年かかった。
こんどのTPP合意のばあい、それを米国議会が批准するまでに数年かかるだろう、というのが多くの識者の見方である。
民主党は、もともとTPPに反対で、有力な大統領候補のクリントンは、反対を明言している。共和党にも反対の議員が少なくない。民主党の政策を、無修正のままで賛成することはないだろう。修正には時間がかかる。米国議会が批准しなければ、TPPは発効しない。
だから、日本の国会が批准を急ぐ理由はない。急いでも発効が早まるわけではない。これまで国民に隠し、国会に隠して交渉してきたのだから、国会で充分な審議を重ねるべきだ。そうして、TPPが反国民的であることを曝け出し、批准を拒否すべきだ。
◇
TPPは成長戦略の切り札だ、と首相が言った。そんなことはない。アタマの体操をしてみよう。
こうした状況のもとでは、切り札を使えるのは数年後になる。つまり、今後、数年間はTPPが発効しない。だから、首相の成長戦略は、切り札を使う手を封じられたままの状態が数年間続く。この状態のもとでの成長戦略の成否の帰結は、ゲーム好きでない子供でも分かる。
切り札を使えない状態で、数年間、日本経済が持ちこたえられるか。そして、安倍政権が数年間、持ちこたえられるか。
そもそも、農業者の反対を押し切り、国民の反対を無視し、アメリカと財界の意向に従ってTPPを推進してきたことに、間違いの根源があるのだ。
◇
この数年間には、国会の選挙が何度かあるだろう。さし迫っているのは、来年7月の参院選である。ここで反TPP派が、党派を超えて大同団結し、選挙に勝つことが、今後の反TPP運動の目標になる。そうして、こんどのTPP大筋合意を破棄することである。衆院の参院無視を許さず、衆院の独走を阻止することである。
TPPによる医療崩壊や国家主権の放棄などに反対する大多数の国民は、今後も、農協が反TPP運動の中心的役割りを力強く果たすことを期待している。
8日の全中会長の談話は下記で...
http://www.zenchu-ja.or.jp/wp-ontent/uploads/2015/10/up573.pdf
(前回 TPPの大筋合意を引っくり返そう)
(前々回 「積善の家に餘慶あり」という思想)
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