農業版アベノミクスのたそがれ2016年7月25日
アベノミクスの成長戦略は、輸出拡大である。東アジアの発展途上国は、今後ますます需要が旺盛になると予想されるから、それを取り込もう、というのである。あい変わらず、内需を軽視し、外需に依存する成長戦略である。
その農業版を「攻めの農政」と名付けている。いかにも好戦的な名前である。尖兵はTPPである。そのTPPが、アメリカをはじめ各国から不評を浴びている。
農林水産物の輸出額の実績をみると、昨年までの3年間は増加した。しかし、今年に入ってから、増加の勢いを失い、横ばいになった。そして、横ばいが5か月間も長く続いている。
アベノミクスは、農業分野でみると、いよいよ落日を迎え、たそがれどき、に入ったようだ。明日はあるのか。

上の図は、農林水産物輸出額の対前年同月増加率を月別に示したものだが、2013年から増えだした。年合計でみると、2012年は4497億円だったが、2015年には1.66倍の7451億円にまでなった。
これをみて、政府は5年後の2020年には1兆円にする、とブチ上げた。さらに最近は、この目標を前倒しで達成すると言っている。そして、そのことを先日の参院選で、与党は全国の農村で触れ回った。
しかし、この図で示しているように、今年になってから、対前年同月比で、ほとんど増えなくなった。5か月連続で横ばいになった。この事実を無視して、1兆円の目標を、全国の農村で触れ回ったのである。
◇
昨年12月までの増えた理由は何か。それは、円安による。
3年前の2012年は、1$=79.8円だったが、昨年は121.0円の円安になった。つまり、1.52倍の円安になった。だから、輸出額が1.66倍になった理由は、そのほとんどが円安になったことで説明できる。輸出額をドルで表せば、3年間で9.3%、年率で3.0%しか増えていない。
この円安が、今年に入って逆転し、円高になった。だから、輸出額の増加が止まり、対前年同月比で横ばいになったのである。
◇
統計で示された、この事実を知ってか、知らずにか、参院選で与党は全国を回って、アベノミクスを続け、1兆円の輸出目標を達成する、とブチ上げていた。
知らずにいるのなら、そうした政党は真摯に農政を考えているとは言えない。農政を任せておくわけにはいかない。
知っていて、知らぬフリをしているのなら悪質だ。国民をたぶらかす、不埒な政党と言わざるをえない。どちらにしても誉められたことではない。
◇
農産物の輸出の増大に反対するつもりはない。
もしも、輸出増大によって、相手国の農業者を困窮に陥れるのなら反対だ。立場を変えて考えてみよう。日本の農業者は、終戦後から、アメリカの農産物の輸出拡大によって、いまでも苦難を強いられている。このような輸出拡大には反対だ。
しかし、相手国の農業者が喜んで受け入れるのなら、いっしょに喜びたい。
◇
昨年までの輸出額の増大は、そうしたものではない。相手国の農業者のことなど、まるで考えていない。円安による安売りの結果である。そして、今年に入って円高になると、たちまち、かげりが出る。そうした浅薄なものである。
しかも、輸出の増大が、日本の農業振興のための主要な政策だ、という。こうした、農政の貧困を憂えたい。この農政に明日はない。
農業振興の王道は、自給率の向上である。現在の39%の自給率を78%に向上するだけで、農業は2倍に振興できる。しかし、政府は、このことに国民の目をふさぎ、自分も目をつむっている。
国民の農政不信の根源は、ここにある。
(2016.07.25)
(前回 国民プラス4野党の協力を西へ)
(前々回 参院選で東北は反乱、都市は離反)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米の支援 見直しを 財政制度等審議会が建議2025年12月3日 -
緑茶の輸出額 前年比2.3倍 農林水産物・食品の10月輸出実績2025年12月3日 -
JA貯金残高 108兆731億円 10月末 農林中金2025年12月3日 -
米の安定供給どう支える? 直接支払めぐり論戦 共助の「基金」提案も2025年12月3日 -
平和的国防産業の寿命【小松泰信・地方の眼力】2025年12月3日 -
【農と杜の独り言】第6回 野菜・あなたのお生まれは? 食の歴史知る機会に 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年12月3日 -
童門氏の「恕」 混迷時こそ必要 "協同のリレー" JCA客員研究員・伊藤澄一氏2025年12月3日 -
【異業種から見た農業・地域の課題】担い手が将来展望を描けること 金融×人材×資源で強靭な地域に 一消費者の視点から 元大蔵省・藤塚明氏に聞く2025年12月3日 -
ご当地牛乳「リソルホテルズ」でウェルカムドリンクとして提供 JA全農2025年12月3日 -
毎年大人気!希少な岐阜の「堂上蜂屋柿」を販売開始 JAタウン2025年12月3日 -
稲作生産者の生産現場に密着 生産者ドキュメンタリー動画を公開 JA全農2025年12月3日 -
JAタウン「ホクレン」北海道醸造の日本酒10商品「送料負担なし」で販売中2025年12月3日 -
冬休みの牛乳消費拡大を応援「メイトー×ニッポンエール 冬のおいしいミルクコーヒー」発売 JA全農2025年12月3日 -
「佐賀県産うれしの茶フェア」5日から全農直営19店舗で開催 JA全農2025年12月3日 -
病院経営の改善に求められる課題は? 「医療の質と生産性向上」セミナー 日本文化厚生連2025年12月3日 -
安全性検査クリアの農業機械 1機種7型式を公表 農研機構2025年12月3日 -
【人事異動】日本製紙(2026年1月1日付)2025年12月3日 -
鶴岡共乾施設利用組合第1回総会開く JA鶴岡2025年12月3日 -
【役員人事】井関農機(12月1日付、12月31日付、1月1日付)2025年12月3日 -
鳥インフル 米国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年12月3日


































