全農株式会社化の謀略2017年3月13日
政府と与党は、全農を株式会社化しようとして躍起になっている。
政府は、すでに農協法を変えて、全農が株式会社になることを認めた。これは余計なお世話である。偉そうに認めるも認めないもない。民間の団体である農協が、協同組合であり続けようが、株式会社に変えようが、農協の勝手である。とやかく言われる筋合いはない。
一方、与党の文書では、「全農・経済連は…経済界との連携を…迅速かつ自由に行えるよう…株式会社化を前向きに検討するものとする。」と居丈高に主張している。これも余計なお世話である。何を検討しようが、何を検討しまいが、農協の勝手である。
いったい、政府と与党はどんな謀略をめぐらせているのか。
全農の株式会社化の戦略目的はなにか。そのために、どんな戦術をとるか。
戦略目的は、経済界との連携だというが、実はそれ程あいまいな目的ではない。真の目的を隠している。だから、あいまいにしか言えない。
真の戦略目的は、巨大資本による農協の乗っ取りである。全農の乗っ取りだけではない。単協を含む全農協の乗っ取りである。しかも、組織全体ではない。美味しい部門だけを狙い、不味い部門は切って捨てる。それは、農業の解体であり、農業の崩壊である。それを、政府と自民・公明の与党が主導している。
◇
この戦略目的を実現するために採っている戦術の1つが、全農の株式会社化である。
狙いは全農全体の株式会社化ではないだろう。採算部門だけを株式会社化する。当初は農業関係者だけが過半の株主になる、などという制限をつける。株式の譲渡制限もつける。そのうえ、中小の国内企業との連携に限定する株式会社だろう。
だが、やがてそうした制限は取り払われる。そうして、外国の巨大企業に売り渡す。
もしもそのとき、安倍晋三首相の思い通りに、TPPのような協定が発効していれば、巨大企業は、日本政府によるそうした制限が、自由な経済活動を阻害しているとして、ISD条項で訴える。日本政府は敗訴して、巨大企業に対し莫大な罰金を払わされる。そうした実例は、海外にはいくつもある。
◇
豪州の実例をみてみよう。
豪州では小麦の輸出で、共同計算で精算するAWBという農協のような組織があった。これが株式会社化した。当初は、農家以外は議決権のない株式しか持てない株式会社にした。しかし、やがて曲折をへて普通の株式会社になり、結局、巨大企業のカーギルに買収された。このような実例は、英国やカナダなど多くの国にある。
このときはISDがなかったので、あらゆる不当な手段を使ってAWBを攻撃した。CIAの暗躍もあった。
日本でも同じようなことがあった。かつては行政管理庁が、いまは公取委が行っている農協攻撃である。ありもしない罪を捏造し、あるいは微罪を見つけ出して、大々的に取り上げ、マスコミを使って農協を徹底的に攻撃する。しかし、その大部分は事実無根だったり、微罪だったので、せいぜい形ばかりの警告だけで終わり、排除命令は出せなかった。
しかし、農協への不信だけは広まった。そのことで、彼らはその不埒な目的を果たした。農業者・農協にとって、まことに不愉快なことである。
先日も「週刊ダイヤモンド」がこの攻撃に加わった。
◇
全農の株式会社化、つまり、全農のような非資本主義部門を資本主義化することは、資本主義が生まれながらに持っている悪い性質である。その究極の狙いは、日本社会の全体を資本主義の一色に染め上げることにある。全農の株式会社化は、その一環である。
それを座視しているわけにはいかない。資本主義の必然として、「今ダケ、カネダケ、自分ダケ」という醜悪な3ダケ主義にまで堕ちた資本主義と、「1人は万人のために、万人は1人のために」という崇高な協同組合主義との対峙である。今後の日本社会の最も基礎的な構造を賭けた争そいである。たじろいではいられない。
(2017.03.13)
(前回 民進党の反原発政策を妨害する連合労組)
(前々回 「農業者は神様です」という農政へ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日