自由貿易への怨嗟が世界中で噴出2017年5月8日
自由貿易に対する怨嗟の声が、世界中から聞こえてくる。
自由貿易とは国境の壁をなくして、物や資本の国家間の移動を自由にするものである。物と資本の国家間の移動を自由化すれば、他国へ資本を自由に移動し、安い労働力を使って物を生産し、その物を自国へ自由に移動できる。こうすれば、他国の労働力を自国へ自由に移動させて、自国で物を生産するのと実質的に同じになる。つまり、労働力の国家間の移動の自由化と同等になる。
こうした自由貿易が、世界中の先進国で労働市場の需給を弛緩させ、賃金を下げている。その結果、世界中の先進国で中間層を没落させて、経済的弱者に追い落とし、経済的格差を拡大している。それゆえ、自由貿易は世界中の経済的弱者の間で怨嗟の的になっている。
これは今に始まったことではない。この怨嗟が英国や米国やフランスなど世界の各地では、すでに積もり積もって耐えきれなくなり、ついに爆発点を越えた。
英国のEU離脱、米国のトランプ大統領の誕生、フランスでの反EU世論の高まり、これらは自由貿易に対する弱者の怒りが爆発したものである。グローバリズムへの怒りといってもいい。
欧米だけではない。韓国でも韓米FTA、つまり自由貿易に対する弱者の怒りが強まっている。やがて、この世界の潮流は日本まで流れてくるだろう。そして、日本でも弱者の怒りが弾けるだろう。
これに対して強者は、自由貿易を否定することは、人類が求めている自由という崇高な理念を否定するものだ、という的外れな非難を浴びせている。自由貿易を否定する考えは、孤立主義であり、排外主義だ、という非難である。
◇
しかしトランプは、そうした強者とはひと味違う。トランプは自由貿易が嫌いのようだ。これまでの自由貿易が米国の雇用を奪い、格差を広げた、という考えをもっている。だから、トランプの看板政策であるアメリカ第一主義の目的は、自由貿易で失われた雇用の回復だという。メキシコとの間には壁を作る、とまで言っている。
フランスの大統領選挙で善戦したルペンも同じ主張をしている。フランス第一主義である。
この2人に共通しているのは、自由貿易よりも雇用の確保を重視していることである。これに中東からの難民流入の問題が重なる。この難民問題は、平時の移民問題とは様相が違うが、根はつながっている。つまり、大国の市場原理主義政策の結果である。
◇
さて、日本の米と牛肉である。ここには、自由貿易が雇用を奪うから反対という一般的な拒否に加えて、つぎのような事情がある。
米も牛肉も、ともに日本の主要な食糧である。そして、ともに輸入自由化を政府が目指している。今すぐに関税ゼロの自由化ではないにしても、将来はそれを目指している。
そこには、自由貿易は誰しもが否定できない、人類の共通の理念だ、とする間違った思い込みがある。しかし、自由貿易といっても、それは絶対的なものではない。
必ずしも適切な例ではないが、日本は武器の輸出を禁止している。つまり、武器の自由貿易は認めていない。それは、平和主義を国是にしているからである。
同じように、米や牛肉などの主要食糧の輸入は自由化を認めるべきではない。つまり、米や牛肉についての自由貿易は、原理的に否定すべきである。それは、食糧主権という国家主権を侵すものだからである。
だが、政府は自由貿易を無原則的に肯定し、推進している。そして、何もかも、米や牛肉も、輸入を自由化すべし、という考えに立っている。つまり、主権を放棄して自由貿易を推進している。その結果、激しい怨嗟の的になっている。
やがて日本でも、この怨嗟が積もって耐えきれなくなり、ついに噴出するだろう。
◇
< 追記 >
昨日行われたフランスの大統領選挙の決選投票は、市場原理主義政治に反対するルペンが負けた。市場原理主義によって苦難に陥れられた経済的弱者にとって、1歩後退である。
反市場原理主義のルペンが第1次投票で、大政党の候補を破り、決戦投票へ進出できたことは、弱者にとって2歩も3歩も前進だった。しかし、決戦投票で負けたことは1歩後退である。
政治の世界には、100%の敗北もないし、100%の勝利もない。どこまで勝利に肉薄できたかが問題である。それは、勝利したマクロン新大統領の今後の政治に、必ず反映される。
こんどの選挙の結果は、弱者が期待していたのと比べて勝利から少し遠かった、ということである。その原因は、ルペンが弱者の要求を忠実に、かつ充分に代弁しなかった、という点にある。だから投票率が低かったし、白票が多かった。
弱者にとって、こんどの1歩後退の局面の後には、2歩前進の局面が必ず来るに違いない。正義は弱者の味方である。
(2017.05.08)
(前回 日米牛肉交渉の本気度)
(前々回 RCEPとTPPは水と油)
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