混迷する英国政治2017年6月12日
英国の総選挙が8日に行われ、野党の労働党が議席を増やし、与党の保守党を過半数割れに追い込んだ。過半数の政党がなくなったので、今後、英国の政治は混迷した状態が続くだろう。
選挙の争点は、EU離脱の方法だったという。だが、それは浅薄に過ぎる。いま、世界の政治は、経済的弱者と経済的強者との間の対峙を軸にして展開している。それは、英国も例外ではない。
しかし、保守党も労働党も、この視点を持っていない。また多くの評論家も、この認識がない。だから、英国の政治の今後の展開を見誤ることになるだろう。そして、混迷は続く。
かつて、政治は資本家と労働者との対峙を軸にして展開している、と考えてきた。国民は資本家と労働者とに2分されている、と考えたからである。
しかし、実際は違う。農業者は、土地という生産手段を持つ資本家でもあり、かつ、自ら労働する労働者でもある。そういう人が多勢いる。また、生産手段を持たず、労働力を売ることさえもできない失業者や、半失業者ともいえる非正規労働者も多勢いる。彼らは、経済的弱者という点で労働者と利害を共有している。
利害を共有しているこれらの弱者の人数を合計すると、国民の99%を占めている。その一方で、彼らの利害と対立しているのが、国民の1%を占める経済的強者の一部資本家である。
このように、実際は資本家と労働者とに2分しているのではなく、経済的強者と経済的弱者とに2分している。そして、両者の対峙を軸にして、いまの政治は動いている。
いったい、保守党は弱者の利益を代表しているのか。それとも、強者の利益を代表しているのか。そして、労働党はどうか。
◇
さて、EU離脱の方法について、保守党の政策はどんなものか。それは、ハードブレグジットといわれ、移民を厳しく制限するために、EUの要求に従って物の自由貿易を断念にする、というものである。
つまり、移民による失業者の増加の阻止を重視する点で、一見、労働者などの弱者のため政策のように見える。しかし、その一方で、高齢者への福祉予算を削減する、という弱者を犠牲にする政策をとっている。
いったい、保守党は弱者のための政党なのか、強者のための政党なのか。国民は戸惑っているだろう。
◇
これに対して労働党は、物の自由貿易を維持することを重視する。しかし、昨年の国民投票でEU離脱を決めたことを少し考慮して、移民はある程度制限する、というものである。これは、昨年の国民投票で弱者が勝ち取った成果の軽視、というしかない。
ここには、物の自由な貿易が、人の自由な移動と同じ結果をもたらす、という認識がない。これでは、労働党は労働者などの弱者の党ではない。まぎらわしいから、党の名前を自由貿易党に変えるほうが国民に分かり易い。日本の民進党も参考にしたらどうか。
◇
このように、各党の政策は、それが弱者のための政策なのか、強者のための政策なのか、が不分明である。だから評価ができない。そして、表面的な議論がいつまでも続く。
これでは、政治は混迷から抜け出せない。いま、英国はそうした状況にある。
◇
さて、EU離脱問題の中心に位置する移民問題を、やや詳しく考えよう。
移民問題には2つの側面がある。受け入れ国の労働力不足を補うための、通常の移民受け入れ問題と、自国内の紛争から避難して来る難民の受け入れ問題とである。
通常の移民の受け入れは、失業・半失業の受け入れであり、英国の賃金を東欧などの低賃金水準まで下げることになる。だから、これは英国の弱者のための政策ではない。それゆえ、英国の弱者は移民に反対する。この考えは、トランプ米大統領の考えでもある。
他国の賃金水準を下げ、自分の賃金だけ上げることを目的にする移民を制限する政策は、非人道的な政策ではない。
低賃金国の国民は、他国へ移民することで自分の賃金だけを上げるのではなく、生まれ故郷の自国にとどまって、自国民全体の賃金を上げる努力をすることが本筋だろう。その努力を激励することが、他国のなすべきことである。この考えは、農協などの協同組合の精神に通底する。
◇
もう1つの移民問題である難民問題は、一時的な受け入れなら人道問題として積極的に評価できる。しかし、難民の発生を抑える政策こそが、問題解決の本筋だろう。その政策がないままで難民問題は議論できない。だが、残念なことに、英国にその議論がない。だから議論が混迷する。
これは、英国だけの問題ではない。EU全体での問題であるし、大国での大問題である。
大国は、難民がなぜ発生するのかを、その根源にまで遡って、深く考えねばならない。そして、軍事力では難民の発生を防げないことを認識し、政治の力で難民の発生源を、平和的に絶たねばならない。そうすれば、難民問題は消えてなくなる。
平和主義を国是にする日本は、その先頭に立って尽力しなければならない。そうすれば、日本の平和主義は、世界に燦然と輝くだろう。日本は、国際社会において、名誉ある地位を占めることができるだろう。
(2017.06.12)
(前回 若者が一強政治を潰す)
(前々回 民主主義の神髄は農協にあり)
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