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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2017.12.20 
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 東京新聞(16日)のコラムは、世界で最も裕福な8人のうちの1人とされるウォーレン・バフェット氏(87)が、「大金持ちを甘やかすな」と富裕層への課税を提言したことを紹介している。そして12月14日に決定された2018年度の与党税制改正大綱でも、株高で潤い年収2億円を超すような超富裕層が優遇される現状に手が入れられなかったことを批判する。オチは氏の言葉になぞらえた「政治家を甘やかすな」。

◆森林環境税への期待

 日本農業新聞(15日)は、今税制改正において林業関係者の悲願である「森林環境税」の創設など、自民党農林部会が重点要望に掲げた項目はほぼ実現された、としている。
 この森林環境税、2024年度に創設され、全国で約6000万人が納める個人住民税に1人当たり年間1000円を上乗せして徴収する。年間約600億円程度と見込まれる税収は全額自治体に配られる。市町村が所有者に代わって間伐をしたり、林業の担い手育成、木材利用の促進などに充てられる。創設を要望した林野庁は、多くの国民に新たな負担を求める理由として、森林が持つ公益性を理由にあげている。ただ、37府県と横浜市はすでに、森林環境税と同様の目的で独自に年300~1200円を課税している。個人住民税に上乗せする形式も同じで、当該自治体の住民は国と自治体に二重で税を徴収される。
 24年度に先送りされるのは、防災事業に使う財源として23年度まで個人住民税が1人当たり年1000円上乗せされていることから、さらなる負担を避けるため。ただし、林野庁が19年度に導入する新たな森林管理制度に間に合わせるため、自治体への配分は新税創設に先立つ19年度に始める。その財源は特別会計の借金で確保する、いわゆる〝先食い〟である。
 18日の日本農業新聞は論説において、当税の創設と実質的には19年度から市町村が整備できることを「地元の声に応えたもので、評価できる」としている。そしてこれを契機に「森林の危機」、具体的には1000万haの人工林のうち35%が主伐期を迎えているのに、外材に市場を奪われて放置状態にあることや、高齢化などにより7割の森林所有者が主伐の意向すら持っていないこと、さらには所有者が見つからず、手がつけられない森林が増えていることなどを国民全体で共有することの必要性を訴える。そして、付加価値の高い国産材の製品開発などで、上向く兆しの国産材自給率向上を確実なものとするために、コスト削減努力と官民挙げた需要喚起に取り組むべき、としている。

 

◆岩手日報が突きつける課題

 一般各紙も社説・論説で今税制改正を取り上げている。中でも、岩手日報(17日)は〝「積み残し」が多すぎる〟という見出しで、当税を単独で取り上げている。
 まず、「森林整備が大切な事業であることに異論はない」としたうえで、「新税の必要性や効果などを厳密に検証したのだろうか。新税が浮上した昨年以来の課題は積み残されたままだ」として、次の2点についての疑問を提示する。
(1)同様の税を徴収する地方自治体との整合性。独自課税は03年の高知県を皮切りに各地に波及し、岩手県も06年に「いわての森林づくり県民税」を創設した。これでは二重課税となる恐れがある。また、新税の使途が制限されれば、これまで独自に行ってきた事業に使えなくなる懸念もある。地域の条件に応じた裁量の余地がなければ、独自課税の方がよいということにならないか。
(2)使い道を限定する特定財源は、「無駄遣いの温床になりやすい」として、それを防止するためのチェック体制の必要性を指摘する。
 これらを踏まえて、「東日本大震災を受けた防災事業に充てるための千円の住民税増税が終わる23年度を待ってスタートする。増税感を薄めようとする意図がありありだ。震災関連事業と同じように税で手当てする必要性はあるのか。納税者である国民への説明、自治体との丁寧な調整が足りないまま進められたことに疑問が残る」としている。
 二重課税問題については、「山の保全に財源が必要だとしても、既に森林税がある高知県などでは二重課税ではないか。違いを明確にすべきだ」との高知新聞(17日)をはじめ、多紙が指摘している。

 

◆山陰中央新報が伝える切迫する現場

 山陰中央新報は、〝県土の大半を森林が占める島根県では県民税として「水と緑の森づくり税」があるが、予算や人員不足などから十分な間伐や伐採(主伐)を行うには至っていない〟という実態を踏まえ、「国土保全のために国民全体から預かる貴重な財源をどう生かしていくか、手だてを探る」ために、3回シリーズで「森林環境税の課題」に迫っている。
 「上:すすむ荒廃」(15日)では、年間約6000haの間伐目標に対して、16年度の実施総面積は6割の約3700haにとどまったことなどから、「担い手確保、森林所有者の意欲の低下の防止など地域で取り組むべき課題は山積しており、課税時期に間に合わなければ、構想は画餅に帰すことになる」とし、危機感を募らせている。
 「中:時間との闘い」(16日)では、次の二つを指摘する。1つは、林業従事者の所得水準の低さを背景とする人手不足とそれによる労働強化という悪循環。もう1つが、所有者の山に対する管理意欲の減退。不在地主はもとより、地元に住む所有者からも「手入れできない」という声が増えている。「財源が確保できても人材がいなければ森林整備ははかどらない」という、自治体担当者の切実な声を紹介している。
 「下:納税者の理解」(17日)では、年間約2億円の税収の3割が、「ボランティアを募って下草刈りをしたり、子ども向けの木工教室を開いたりする経費や、県内の森林や林業の現状を伝える冊子の作成」に充てられており、県産材を利用する意識の醸成などに同税が寄与した部分は小さくない、とする。しかし、現在課税されていない多くの国民にはその必要性が実感として伝わりにくいので、「成果について国や、恩恵を受ける市町村などの説明責任は重くなる」とする。
 「人間の生活にとって、森の活用や手入れは重要。それを伝えていきたい」とは、出雲市で創業140年の製材業を営む社長の言葉。
 シリーズは最後に、「森づくりに林業従事者だけでなく、多くの人が関わることで、森林そのものだけでなく、都市と地方の連携や役割分担、さらには、納税への理解が進むと信じる」という、重い課題をわれわれに投げかけている。

 

◆森の友だちに求められる丁寧な説明

 東京新聞(10日)の「本音のコラム」で山口二郎氏(法政大学教授)は、首相が子育て支援の充実のために、経済界に3000億円の拠出を求めたことを、国の形をゆがめる〝奇策〟と斬り捨てた。なぜなら、近代国家は「国家の仕事は国民が払う税金によってまかなう」ことを前提とする租税国家だからだ。故に、財源不足に際しては国民に説明し、負担増を提案すべき、と指摘している。
 森林環境税も例外ではない。地球環境保全、水源涵養、生物多様性保全、土砂災害防止や土壌保全といった、いわゆる多面的機能の維持、発揮にかかる必要経費の負担について、森の友だちである首相もあの徴税トップも「丁寧な説明」をすべきである。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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