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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2017.12.13 
モッタイナイ精神とJA全農の沈黙一覧へ

 毎日新聞(12月13日)の“ひと”に、わが国の「食品ロス」の現状を追う映画の撮影準備を進めている、映画監督ダービド・グロスさん(39)が紹介されている。タイトルは「MOTTAINAI(もったいない)キッチン」。その由来は、今年1月、前作「0円キッチン」の公開時に初来日した際、「もったいない」という言葉に強く心を引かれたためとのこと。
 記者は、「もったいない精神」発祥のわが国における年間の食品ロスが600万t強にものぼることを嘆いている。
 悲しいかな、食べる“もの”を粗末に扱うだけではもの足らず、食べる“こと”まで粗末に扱っている事実が、嘆きを倍加させるはず。

◆卸売市場を粗末に扱うお粗末さ

 粗末に扱われている"こと"の代表が、「生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図り、もって国民生活の安定に資すること」を、目的として格調高く謳っている卸売市場法、そしてそれに基づいて運営されている卸売市場である。
 8日改訂の「農林水産業・地域の活力創造プラン」に盛り込まれた、食品流通構造の改革に関する正式名称は「生産者・消費者双方のメリット向上のための卸売市場を含めた食品流通構造の改革について」である。"メリット"という言葉が用いられていることだけからも、その格調の低さ、思慮の浅さが歴然となっている。
 斎藤農相は農水省幹部に対し、同プランの柱となる卸売市場改革について、「関係者に改革の意義を丁寧に説明しながら、生産者、消費者がメリットを実感できる食品流通を実現してほしい」と求めた(日本農業新聞9日)。この命を受け、同省は200名規模の説明会を15日に開くとのこと。
 "丁寧な説明"はこの国の首相の常套句。しかし彼の説明には丁寧さのかけらもうかがえない。忖度病に犯された官僚のこと、"開きました、説明しました、ハイおしまい"となるはず。だとすれば、格調は下げ止まらず、思慮の浅さを白日の下にさらすことになる。それで、ご満足ですか。

 

◆続く第一次産業の破壊工作とアリの一穴

 同紙(9日)の一面には、首相がプランに盛り込まれた内容の具体化を急ぐとともに、農政改革について「引き続き手を緩めずに進めていく」と強調したそうである。くわばら、くわばら。
 さらに、水産政策について、ゼロベースで抜本的な改革をとりまとめることを指示したとのこと。"ゼロベースで抜本的"とは、規制緩和ありきの規制虫どもが大喜びすること間違いない。現場をシロウトもしない典型的なシロウトたちの的外れなボールが投げ込まれてくることは必至。"国の基"である第一次産業を破壊させないために、関係者の理論武装と共同戦線の構築が急がれるところである。
 抜本と言えば、日本農業新聞(7日)の論説は、卸売市場改革を巡る政府・自民党の調整が決着したことを受け、「『抜本改革』を狙った規制改革推進会議の仕掛けは"不発"に終わった」としている。さらに、抜本改革派の農水省・規制改革推進会議と現実路線改革派の自民党、それらの調整結果として、「着地点は現行の卸売市場法を維持し、その枠内で市場開設や取引の規制を緩和し、市場流通の自由度を高める内容だ。漸進改革の範囲で収まったと言える」、「調整の結果、卸売市場法が維持されたのは正当な判断である」との認識を示している。
 また、同紙(8日)は、中家全中会長の定例記者会見の概要を示している。そのポイントは次の3点に整理される。
 第1は、改革案には卸売市場法の堅持をはじめ、JAグループの要望内容が「大方取り入れられた」ことなどから、当初懸念されていた市場機能弱体化は回避されたとの認識を示したこと。
 第2は、今後法案の検討が進む中で「現場の懸念がないよう、注視していきたい」と強調したこと。
 第3は、規制改革推進会議の急進的な提言を「現場実態とかけ離れたものだった」と批判するとともに、政策決定のあり方に疑問を呈したこと。
 論説氏、中家氏、両氏は卸売市場を巡る破壊的提言を深傷を負うことなく、ひとまず凌いだことへの安堵感を漂わせている。
 しかし、大きな問題も無い制度や仕組みに対する、このような暴走提言がなされること、それ自体が問題である。そして、少なくとも手が加えられたこと、深浅は定かではないが傷を負ったことは紛れもない事実である。まさに"アリの一穴"として、骨身に刻み込んでおかねばならない。
 農水省も規制改革推進会議も、そして仕掛け人の首相も、問題提起によって関係者が右往左往、慌てふためいたことだけでも、「してやったり、将来に向けての布石が打てた」と、ガッツポーズをしながら次の一手を考慮中。

 

◆これぐらいの仕事はお手柄ではない

 ガッツポーズと言えば、おそらく押し返したとされる自民党農林議員たちも、久しぶりご満悦かもしれない。しかし、このような提言を、推進会議からばかりか、農水省からまで出される体たらくを恥じるべきである。手柄にはほど遠い、最低限のお仕事。
 6日の日本農業新聞には、卸売市場制度見直し案を受け、6名の議員の主な発言が紹介されている。
 「(農水省は)どっちを向いて仕事をしているのか。いろいろな人から意見を聞いたと言うが、現場には相当不安がある。現場に寄り添った役所でいてほしい」とは、藤木眞也議員である。TPP批准に賛成票を投じた政権与党の全議員に、この言葉が発せられていることをお忘れなく。

 

◆何がJA全農を沈黙させているのか

 この間、卸売市場問題は他人事ではないはずのJA全農から、発言らしい発言が皆無に近かったことは意味深長である。発言したいこと、発言すべきことは山ほどあったはず。発言しづらい、発言してはいけない状況下に置かれているだけのこと。
 関係者でこの改革提言を良しとする人はいない。しかし、全農改革の名のもとで痛めつけられ、今も監視下に置かれている身としては、余計な口出しは大けがの元。触らぬ神に祟り無し。沈黙を決め込み自己改革に黙々と取り組むのみ、ということであろう。
 ここまでは平板なオチ。日本経済新聞(7日)の『世論調査考(中)』は、7万8285人の有権者から得た回答から興味深い結果を示している。
 自民党支持率である。全体では39%だが、職業別で見ると農林水産業が53%でもっとも高い。もしもこの53%が、見えない圧力としてJA全農に発言を控えさせているとすれば悲しむべきことである。
 卸売市場のあり方だけではなく、農業のあり方を考えていくためにも、JA全農の沈黙は本当にモッタイナイ。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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