【小松泰信・地方の眼力】市場に群がる規制虫は駆除2017年11月8日
「野菜や魚などが卸売市場で売買されるのは、誰にも身近な商品としては特別な例外なのである。ではなぜ生鮮食品の流通に、卸売市場という特殊な取引所が必要なのであろうか」(『フードシステムの経済学』時子山ひろみ、荏開津典生、中嶋康博、医歯薬出版株式会社、2017年)。
生鮮食品は特別な例外であるため、特殊な取引所が必要である。そこに大鉈を振るえるのは、その商品特性が解消された時のみ。結論を先取りすれば、大鉈無用に存じます。
◆日本経済新聞の懸命な援護射撃
〝農漁業改革の手を緩めるな〟と題する日本経済新聞(11月5日)の社説は、卸売市場問題に言及している。要点は次の3点。
(1)農水産物の卸売市場や漁業権の制度改革はこれからで、農協改革にも宿題はある。改革推進を掲げる第4次安倍政権は残る岩盤を崩し、競争力の向上につなげてもらいたい。
(2)現行の卸売市場法は1923年に制定された中央卸売市場法を引き継いだものだ。そのため食料の公平な分配機能を重視し、政府や自治体による統制色が強い。これでは欧州のように民間企業が運営する活発な市場は生まれず、内外の販路開拓や流通コストの軽減も期待できない。
(3)農業競争力強化プログラムで「卸売市場法を抜本的に見直し、合理的理由のなくなっている規制は廃止する」方針を打ち出した。この方針を後退させず、市場法の廃止も視野に入れて改革すべきだ。
(2)に記された〝食料の公平な分配機能〟は、譲れない永遠の課題である。故に統制色が強くならざるを得ない。それを否定する論拠は示さず、統制や規制は廃止や緩和すべきもの、という一つ覚えのこの社説、10月25日に行われた政府の規制改革推進会議と未来投資会議による、卸売市場法の見直しに向けた議論への援護射撃でしかない。
◆規制改革推進会議の暴走が始まる
日本農業新聞(10月26日)は一面で、前述の会議が「市場流通の要となる規定で、産地の出荷物は卸が必ず引き受ける『受託拒否の禁止』以外は廃止し、『受託拒否の禁止』の廃止も俎上に今後検討する方針を示唆。今後、極端な見直しを打ち出してくる公算が高まった」ことを伝えている。
さらに、「受託拒否の禁止」については、豊作時などの販路を保障するものとして生産現場からは維持要求が強いこと。「代金決済の確保」についても、市場の迅速、確実な代金決済を裏付けるものとして維持要求が強いこと。また、「第三者販売の原則禁止」(卸の売り先を仲卸や買参人に限定)については、「購買力のある量販店が卸と直接取引するといった流れが強まり、『品物の安定調達が崩れ経営が立ち行かなくなる』」という仲卸業界の懸念を紹介している。
これらから、市場をめぐる同会議などの暴走に対して、安倍政権が掲げる「謙虚な政権運営」とはほど遠く、これまでと変わらぬ手口であることを指摘し、無理筋要求を跳ね返す与党の力量を問うている。
◆遅れてはならじと自民党
さらに同紙(11月7日)は、自民党が6日、農林・食料戦略調査会と農林部会の合同会議を開き、卸売市場法の抜本見直しの本格議論に入ったことを伝えている。もちろん、規制改革推進会議の暴走に遅れてはならじと開かれたもので、党としての意見をまとめ、議論の主導権を握りたい考えであることは容易に想定される。
合同会議が行った市場関係者のヒアリングで、東京青果の川田社長が「受託拒否の禁止や差別的取り扱いの禁止について『(卸売市場の)公共性の観点から堅持するべき」と求めたこと。大田花きの磯村社長も「社会インフラとして受託拒否の禁止、差別的取り扱いの禁止、迅速な代金支払いの三つは市場の仕事の上で最も大切だ」としたこと。しかしその一方で両氏が、「第三者販売の禁止」や「商物一致の原則」(商品の現物を必ず市場を通さなければいけない)では、見直しを求めていることなども紹介している。
東京青果も大田花きも最大手で「荷を引く力が強いことから小売業者との直接取引を求め、規制解禁を要望している背景がある。経営基盤の弱い地方や中小の卸と市場法の規制に、認識の違いもみられる」と、市場関係者間で利害が異なることを示している。これらを踏まえて、野村哲郎農林部会長は「丁寧な検討が必要だとの考えを示した」とのこと。
◆規制虫の耳に念仏
11月1日の規制改革推進会議農林ワーキング・グループの会合は、卸売市場関係者からヒアリングを行った。その一人、西脇正導氏(名古屋市開設の中央卸売市場の仲卸、丸進青果株式会社社長)の説明資料には興味深いことが多数記されている。
まず、「青果物に限らず全てのものが多チャンネル化、多品目化している現在では、市場経由率は若干下がっても当然であり、それでもしっかり活用され続けているのが卸売市場である。卸売市場という『スタジアム』は必要であり、このシステムを守っていく市場法は、特に農家の為に、そして国民の為に、安心・安全な生鮮青果物の流通を維持することにおいて必要不可欠である」と、明快である。
さらに、「卸売市場流通のルールはしっかり定め、世界に誇るシステムとして守り、発展させていく方向に向かうべきである」としたうえで、「卸売市場法が、単に『古いシステム』ということで大幅に規制を撤廃すれば、大切な機能がどこかで損なわれ、ハレーションを起こして崩壊する危険性があり、改正には充分な研究の時間と検討期間を必要とする」と、頂門の一針。〝規制虫の耳に念仏〟ではないことを祈るのみ。
3日の日本農業新聞は、2日開催のJA長野県大会において、卸売市場法の見直しに関して、現場実態や関係者の意見に基づいた丁寧な議論を求める特別決議を採択したことを伝えている。決議において、「実態を無視し、市場流通を弱体化するような見直しは到底容認できない」と指摘し、卸売市場が果たしてきた農畜産物の円滑な流通や、安定した生産・供給を支える役割を維持するよう訴えている。雨宮会長は、「タイトな日程で十分な議論もない。...JAグループとして毅然とした対応をしていく必要がある」と力を込めたとのこと。
毅然とした対応をするためにも、全国農政連は、今衆院選で推薦した議員たちがこの問題にどのような姿勢で臨んでいるのかを調査し、報告すべきである。そして自民党。頭数だけは多くても中身が伴わないのか、落選した元農相を党の農林・食料戦略調査会の特別顧問に登用するとのこと。シンゾウが得意とする、友達は異例の厚遇、その他は冷遇ということ。野党時代にぶんどった質問時間を取り返そうとするような、小汚い手口は使わずに、〝国民の負託を得て当選〟した議員たちに、党内でしっかり発言する機会を与えた方が〝国民の側からすればもっともな姿勢〟と評価されるはず。あっ、塩を送っちゃった。塩はなめても...
「地方の眼力」なめんなよ
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