卸売市場法は弱者の砦2017年12月11日
規制改革推進会議が提案した卸売市場法の廃止案は、農業者の抵抗にあい、自民党農林族に反対されて、政府はこの案を蹴った。自民党農林族は健在だった、といっていい。
規制会議は、またしても天下に恥をさらしたのである。これほど世間を騒がしたのに、責任をとる人は、だれもいない。厚顔というしかない。
しかし、諦めたわけではないだろう。規制会議は、政府を後ろ盾にし、市場を「自由」にして、大資本に乗っ取らせ、農業者への収奪を強化させようとして、今後も策動をつづけるに違いない。こうした、文字どおり新自由主義の典型的な政策を、断念することはないだろう。政府はそれをみて、ほくそ笑むに違いない。陰険というしかない。
われわれは、今後も政府と政府を代弁する規制会議を厳しく監視しつづけねばならない。
もしも、卸売市場法が廃止されたら、どうなるだろうか。
はじめに、青果市場で「自由」に取引きが行われていたころ、つまり、卸売市場法がなかったころの状況を、以前の聞き取り調査を基にして、マンガ風に書いてみよう。
〇 〇 〇
A農家がリヤカーに大根を乗せて、B荷受会社の店先で、
A:この大根を売ってくれ。
B:大根は山ほどあるから、いらない。他の店へ行ってくれ。
A農家はC荷受会社へ行って、
A:この大根を売ってくれ。
C:そこに置いときな。
数日後、A農家がC荷受会社へ行って、
A:先日の大根の代金をくれ。
C:あの大根は売れなかった。
A:では、大根を返してくれ。
C:ゴミ捨て場に捨てたから、持って行きな。
〇 〇 〇
ここで言いたいことは、BやCの非道や非情ではない。こうした非道を、当時の社会が告発できなかったことである。法的根拠がなかったからである。
先人たちは、こうした非道を糺すために、懸命な努力を重ねて卸売市場法を作り、Aのような経済的弱者が、BやCのような経済的強者の非道を防ぐ砦にした。そうして後世に残してくれた。
◇
いま、こんな非道なことをしたら、卸売市場法に違反する違法行為として告発される。つまり、いまだったら、
Bは、Aの販売委託を拒否できない。拒否すれば、卸売市場法違反になる。
Cは、Aから販売委託された大根を、必ずセリにかけて売らねばならない。売らなければ、卸売市場法違反になる。
卸売市場法が施行されているいまは、以前と違ってどうなっているか。マンガ風にしてみよう。
〇 〇 〇
J農協で職員が、昼ころ、K荷受会社へ電話をかけて、
J:今朝、うちが送った大根は何円で売れたか。
K:XX円だった。
J:他社より安い。不満だ。明日は送る量を減らす。
K:明日は頑張ってセリをするから、いつも通りの量を送ってくれ。
J:分かった。頑張ってくれ。
〇 〇 〇
もちろん、こんな時ばかりではない。
J:今朝、うちが送った大根は何円で売れたか。
K:XX円だった。
J:他社より安い。不満だ。
K:それでは、明日は送る量を減らせ。
J:減らせない。頑張ってセリをしてくれ。
K:分かった。いつも通りの量を送ってくれ。
◇
卸売市場法の前と後とでは、これほどの違いがある。この問答で分かることは、生産者と荷受会社の関係が、いまは対等になったことである。それは、卸売市場法ができたことで、
1つめは、荷受拒否ができなくなった。
2つめは、必ずその日のうちに売らねばならなくなった。(そのかわり、何円で売られてもしかたがない。)
3つめは、公正な価格で売るために、かならずセリにかけて売る。そして、その価格を公表する義務を負った。
4つめは、荷受会社が買い取り、経費と利益を加えて売るのではなく、売買を受託し、手数料をもらう。これは、リスクを回避して、小規模な荷受会社の倒産を防ぐためである。
それに加えて、農協などによる共同販売を独禁法から除外する。
◇
さて、いったい政府は卸売市場法を廃止することで、なにを狙っていたのか。
それは、卸売市場法による市場の取引規制をなくして、「自由」な市場にしたかったのである。「自由」にすれば、大資本が青果市場に乗り込み、小規模な荷受会社を破産させて乗っ取り、もっと激しく農業者を収奪できる、と考えたからだろう。まさに新自由主義である。
この企みは、不当な農協攻撃につながっている。つまり、農協共販は「自由」な取引きを妨害する「談合」に認定して、独禁法で取り締まりたいと考えている。そのために、農協共販を独禁法の適用除外から外そうと考えている。
しかし、政府は当面、こうした悪企みを断念した。農業側の正義の勝利である。だが、この勝利に酔っているわけにはいかない。政府は新自由主義を捨てたわけではないだろう。心の底から新自由主義を反省した訳でもないだろう。今後も監視を強めねばならない。
(2017.12.11)
(前回 野党は統一農業政策を作れ)
(前々回 自民党の第2党化が民意)
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