農協は協同組織であり「競争組織」ではない 2018年3月6日
・週刊ダイヤモンドの記事における問題と課題
「週刊ダイヤモンド」誌が、またまた「農協攻撃」の先兵として特集を企画した。農協も農業のこともよく分かっていない都市住民は、経済誌としての同誌への信頼から、この悪意に満ちた企画を「真実」なものとしてとらえがちだといえる。これをそのまま捨て置いていいのだろうか? 農協の現場指導者として、小林光浩JA十和田おいらせ専務が、あえてペンをとり、JAcomに投稿してくださったので、その全文をここに掲載することにしました。農協の役職員の方で、同様のご意見、あるいは異なるご意見をお持ちの方で、ぜひこれは言っておきたいという方はご一報ください。
1. 農協に対する理解不足と誤解
平成30年2月24日付けの週刊ダイヤモンドの特集記事「JAを襲う減反ショック、儲かる農業」の感想である。結論から先に述べると、近頃の政府やマスコミによる「農協に対する理解不足と誤解(悪意を含めて)」が問題の本質であり課題となる象徴的な出来事であった。
当誌が指摘している「全中による世論操作」と、「全中による当誌の不買運動」に対する敵意が見え隠れしているので、最後まで読むのが辛かったというのが私の本心である。とともに、当誌が指摘していることは、一部の世論であることを理解したうえで、丁寧な理解づくりの取り組みをしなければならないことの重要性を再認識させられた。こうした取り組みこそ、農協で最も重要である協同組合運動を普及する取り組みである。
現在、我が国で繰り広げられている農協改革の問題の核心は、あたかも農協を競争に勝てる事業体とすることが社会の要望であるとする考え方にある。つまりは、資本主義における弱肉強食社会に対応できる強い農協づくりをすすめようというもの。
しかし、農協の存在意義は、資本主義での弱肉強食社会における経済や福祉の格差、貧困や経済的・社会的な弱者を救済する協同組合社会をつくることにある。このことが政府やマスコミに理解されていないための大きな問題と課題を抱える事態となっている。我々の協同組合では、農協運動の先人が指摘されている「農協は競争組織ではなく、協同組織である」ことの意味を理解するとともに、社会での認識を共有することが最も重要となる。
(写真)小林光浩・JA十和田おいらせ代表理事専務。昨年10月24日に掲載した座談会記事より。
2. ある意図を持った農協ランキング
週刊ダイヤモンドの特集記事「JA存亡ランキング」「JA役職員ランキング」「JA経営健全度ランキング」は、ある意図を持ったものであることを理解しなければならない。
その問題点は、ランキングを決めている者の立場にある。ランキングの根拠は、週刊ダイヤモンドが実施した「担い手農家アンケート」が全て。つまりは、週刊ダイヤモンドの読者を対象としたアンケート調査のため、くしくも「全中による世論操作」と指摘したことと同じような世論操作をしたことになった。
つまりは、週刊ダイヤモンドの読者は、経営意識が高い農業者・規模が大きな農業経営者、さらには独立意識の高い独自販売農業者が多いことが簡単に予想できる。彼らの多くは、農協の事業運営に大きな不満を持っている。その代表的な意見は、「自分たちの利益を優先した事業を展開すること」にある。従って、農協経営者に求めるのは、協同組合意識ではなくて、大規模農業者を最優先する者にある。政府も、農協経営者にとって最も重要な資質である協同組合意識を求めることはない。求めるのは、強い農業者である。こうした協同組合意識のない弱肉強食の経営者を求めることが、政府がすすめる農協改革問題の本質であり、現在進められている農協改革の問題である。
3. 農協経営者にとって最も重要なこと
農協経営者の最も重要な資質は、協同組合意識である。そして、協同組合社会をつくろうとする情熱であり、小規模農業者や女性農業者・高齢農業者に目が届く者、地域の農業者の誰もが参画し、活躍できる地域農業振興を考えられる者である。そうした取り組みは、地域全体の農業所得を増加させ、地域社会の活性化を図ることになる。
週刊ダイヤモンドの読者アンケートが求めている強い農業者を優先した農協経営は、その者の農業所得を増加することになるであろうが、小規模農業者の離脱を招くことになって、地域社会の崩壊を招くことになることが容易に予想できる。こうした道を進めようとする者は、協同組合の経営者になってはいけない。競争組織をつくろうとする者は、協同組合社会を否定する者である。協同組合の経営者としては最悪である。
従って、JA役職員ランキングでは、こうした協同組合意識が強い者、協同組合社会づくりを実践した者が選ばれるべきである。
また、「上部団体に物言えるリーダー」は、週刊ダイヤモンドの読者アンケートが求めている強い農業者を優先する者でいいのだろうか。協同組合における「上部団体に物言えるリーダー」とは、組合員の全員が選んだ者でなければならない。それは、協同組合としての助け合い事業をすすめる者が選ばれるべきであり、一人ひとりの組合員のことを考えられる民主主義的な経営ができる者でなければならないからである。
4. 意図されたJAランキング
最後に、週刊ダイヤモンドがランク付けした「JA経営健全度ランキング」は、ある意図に基づいていることを指摘する。それは、JAにおける金融事業の否定である。
ランキング評価を一つひとつ見ていこう。
(1)正組合員比率である。ここでは組合員の中で正組合員が占める比率が高ければ経営健全度が高いとしている。JA経営における組合員は、正組合員である農業者と、地域の消費者である准組合員が助け合う組織が最も理想的な農協となる。何故ならば、食料自給率の先進国最低にある我が国において、食糧安全保障と地域社会保全と国防を意識した場合、地域のみんなで地域農業を守る組織が最も望ましいと考える。日本農業は、農業者だけでは守り発展することは相当に難しい。地域の住民と一緒になって日本農業を守る農協運動、国民による地産地消運動を展開しなければならないのが理由である。
次に、(2)農業事業利益である。ここでは購買事業総利益と販売事業総利益の額が大きい農協を経営健全度が高いとしている。そうすれば、広域合併をすすめる農協は経営が健全であることになる。農協の農業事業利益は、農協組合員である農業者の額が大きいほどに協同組合の経営評価が高くなければならない。つまりは、農協の事業利益の総額を重視するのではなく、農業者である一正組合員当りの農業事業利益が高い農協が評価されるべきである。
次は、(3)農業事業利益比率である。農業事業総利益が農協全体の事業総利益に占める割合が高いほど農協の経営健全度があるとしている。しかし、組合員の負担を考えると農協経営は、安定的でなければならない。そのためには経営の多角化、複合経営が最も重要となる。つまりは、農業が冷災害や市場価格変動の影響を受けたときに、農業以外の事業で支えることが出来る農協の経営を健全度で評価すべきである。
最後に、(4)自己資本比率と、(5)総資産事業利益率である。当然のようにこの率が高ければ良いのである。しかし、このことは農協が総合事業であることを理解していない。つまりは、金融事業と経済事業とを比較することの愚かさにある。自己資本率や利益率は事業の種類によって異なるものを一律比較するのはおかしい。この算式の分母である総資産額は事業によって極端に異なる。資金量が重要となる金融事業では、総資産額が大きくなるので自己資本率や利益率は小さくなる。資金量をあまり必要としない経済事業では自己資本率や利益率は大きくなる。従って、この比較ランキングは、農協における金融事業を否定したものである。
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