【熊野孝文・米マーケット情報】輸出用米、価格の壁をどう乗り越えるのか?2018年4月17日
CNNが行った世界の美味しいお米料理ランキングというものがある。
1位お寿司(日本)、2位ペナン・アッサムラクサ(マレーシア)、3位ムーナムトック(タイ)、4位フォー(ベトナム)、5位生春巻き(ベトナム)、6位チキンライス(シンガポール)、7位パエリア(スペイン)、8位マサラ・ドーサ(インド)の順になっており、各国のコメ料理を抑えて日本の寿司が第一位になっている。日本食レストランの数も2006年当時世界で2万4000店だったものが2017年には11万8000店にまで増えている。
こうしたデータを見ると日本米の輸出拡大には大きな追い風が吹いており、国が目標とする平成31年までに金額ベースで600億円、数量ベースで13万3000tは前倒しで達成できるのではないかと思えてくるが、実態はそれほど簡単な話ではない。
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沖縄で輸出を販路に冷凍米飯工場を立ち上げた人がいる。冷凍米飯と言うと肉や魚介類をご飯と一緒に炒飯的なものが多いが、この工場は白飯だけを作っている。白飯の冷凍米飯を作っている工場はこの工場を含めて全国に2ヵ所しかない。それには理由があり、冷凍した白飯をレンジで再加熱して炊きたてのご飯のようにするには特殊な製造方法が必要で、この工場は製造特許を取得した。
サンプルを送ってもらい試食してみたが、米粒一粒一粒がしっかり冷凍され、ダマになっている部分は全くない。加熱すると炊きたてのご飯と変わらない。非常に完成度の高い冷凍白飯で、これなら海外に輸出して現地で食べてもらっても日本米本来の美味しさが伝えられる。
販売計画ではまず国際線の機内食用に採用してもらい、次にバンコクの日本食レストランチェーンに納入するというものであった。ところが米価の急騰で、当初の商品原価に比べ1kg当たり50円も高くなってしまい相手先国との商談が暗礁に乗り上げてしまった。優れた技術でコメの加工度を上げて製品を作っても価格の壁はそうそう簡単に乗り越えられない。
輸出用のコメの価格の壁に果敢に挑戦している人もいる。茨城県産米輸出促進協議会とそこに全面的に協力している田牧ファームスの田牧一郎代表である。輸出の取組の特長は、玄米をコンテナ(1コンテナ19.5t)に積んで、カリフォルニアで精米、15ポンド(6.8kg)に袋詰めして主に日系スーパーで販売している。玄米は未検査玉で、品位基準は2等格。未検でもOKにした理由は「検査コストを削減するため」。アメリカで販売されている精米は玄米の等級などは関係ない。それどころか精米年月日も記載の必要がない。このため日本から輸出され、店頭に並んでいる精米のなかには一年前に精米したものもあり、日切れ品を輸出用に仕向けたのではないかと思えるものもあるという。このことを逆手にとって精米仕立ての日本米であることをアピール、茨城の生産者がアメリカのスーパーの店頭に立って試食販売まで行う。ブランド名は「ウバラライス」とした。
販売価格は、安いところで15ポンド32ドル、高いところは39ドル99セントで販売されている。カリフォルニアで生産されているコシヒカリを原料米にした玉錦や田牧ゴールドの販売価格は安いもので32ドル、高いものは34ドル99セントなので価格のレンジは変わらないためリピーターが多く、店側も驚くほどだという。店舗の中にはマージンを削り29ドル99セントで販売したところがあり、 30ドルを切ると売れ行きが全く変わってくるためこの価格が購入消費者の境目価格になっていると見ている。
カリフォルニアで生産されているコシヒカリを原料としてブランド化されているものは「玉錦」「田牧ゴールド」「かがやき」の三種類があり、合計流通量は約 1万t。単純平均すると1ブランド3000tで、ウバラライスはこれらのブランド米と競合するためできるだけ早く3000tを輸出できる体制にしなければならない。現在、ウバラライスの販売エリアはサンフランシスコの一カ所だけだが、これをシリコンバレー、ロサンゼルスに広げるために30年産では最低でも1000t、そこからシカゴ、東海岸、全米まで広げるには3000tが必要になる。
ここで最も重要になるのが"価格"で、現在の茨城米の玄米60kg当たりの輸出価格(FOB)は70ドル。邦貨換算では7700円(1ドル110円換算)である。これに新市場開拓米への助成金(10a当たり2万円)を加算すると生産者の手取りは1俵1万円程度になる。生産者の手取りを上げるには生産コストを下げ、単位面積当たりの収量を上げるしかない。30年産では収量性のあるハイブリッド米を直播栽培することにしている。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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